2014年3月31日月曜日

IPCC気候変動最新報告書にひとすじの希望の光?

byファビオ・スカラノ (博士)

日頃から気候変動問題に関心の高い方にとっては、今回の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の最新報告書の内容は、それほどびっくりする内容ではなかったことでしょう。

フィリピンの巨大台風ハイヤンからカリフォルニアやオーストラリアの干ばつ、そしてアマゾンの大洪水に至るまで、気候変動の影響によるものと考えられる天候の変化は、世界中の多くの人々の暮らしに着実に影響を与えています。
インドネシアのラジャ・アンパットのマングローブとサンゴ礁。こうした沿岸生態系は、
今後気候変動の影響でその頻度と規模の増加が予測される暴風から沿岸地域を守る役目を果たしています。

バート・ジョーンズとモーリーン・シムロック)
IPCC第5次評価報告書のうち、適応や脆弱性について議論する第2作業部会の結果が、3月31日、横浜で発表され、私たちが非常に危険な道を歩んでいることに更なる警笛を鳴らしました。しかし私は、そこにひとすじの希望の光があると信じています。この問題に立ち向かう効果的な対策方法について、私たちはかつてないほど理解を深めているからです。気候変動にうまく適応するには、貧困削減と同時に、自然環境の保全が重要な課題です。

7年前のIPCC第4次評価報告書は、IPCCにノーベル平和賞をもたらしました。その中で予測された厳しいシナリオにも関わらず、温室効果ガス排出を抑制し、また気候変動の破滅的な影響を削減するための努力について、私たち地球社会は顕著な行動を取ってきませんでした。それにより、地球規模での大幅な排出削減、つまり「緩和」は、依然として急務であり続け、それだけではすでに不十分なところまできてしまったのです。私たちはすでに「適応の時代」に暮らしているのです

今回の第5次報告書の進捗は、どのようなものだったのでしょう?端的にいうと、地球への影響は増加しており、貧困層が最も影響を受けやすいということです。今日、地球上で8億人の人々が安全な飲用水を得ることができず、また8.5億人が飢餓に直面しています。気候変動が食料や飲用水の供給に影響を与えているため、こうした人々が最初に困難に直面します。

気候変動の影響に対しより強靭な社会をつくるため、必要なのは主に二つのアクションです。まず一つ目に、貧困は削減されなければなりません。そして二つ目に、私たちの暮らしに必要なすべてのものを与えてくれる自然を、守らなければなりません。自然は、きちんと保全されれば、安定した気候や食物、水、その他を私たちに供給してくれます。だからこそ、CIはすべての活動の中心戦略として、持続可能な開発を目指しています。

これまで気候変動への適応というと、例えば防潮壁による暴風や海面上昇からの沿岸部保護など、インフラや技術面での多大な経済投資が絡むものと考えられてきました。しかし、気候変動関係の科学者や政策担当者らの間では、凝った名前ながらもシンプルな原則―自然を守ることは人間を守ること―を反映した、「生態系を利用した適応策(Ecosystem-based Adaptation/EbA)」について、より関心が高まっています。

生態系を利用した適応策は、持続的に利用されれば、自然が提供する様々なサービスは、富と社会の強靭性を同時に生み出すことができる、という前提を元にしています。人工的に造り上げられた解決策と比較すると、生態系を利用した適応策は、
  • 費用対効果が高い:マングローブを保全する方が、防潮壁を構築するより安い
  • すぐに使える:新たになにか構築する必要はなく、自然が提供してくれるものをただ持続的に利用するだけ
  • 多面的効果の創出が可能:医薬品、生計、文化、受粉、レクリエーション(余暇)、などなど
の特徴が挙げられます。

生態系を利用した適応策の解決法は、地球上の手つかずの自然が最も多く残っている途上国において、特に有効なオプションとなっています。

今回の報告書には、地域のコミュニティが既に実施中の、この生態系を利用した適応策や持続可能な資源利用を推進する開発手法など、興味深い事例がいくつか含まれています。

IPCC報告書における私個人の研究では、中南米地域においていくつかの成功事例を確認しています。例えばブラジルでは、マングローブとサンゴ礁保全による漁民の暮らしの改善と沿岸地域の災害防止への同時貢献。ボリビアでは、非木材用森林資材の持続可能な採取を認める地元コミュニティによる森林管理。そしてエクアドルでは、遠隔地の貧困層の所有地の自然を守ることへのインセンティブを与える保全契約、などです。

今後の課題のひとつとして、こうしたプロジェクトを公共政策と統合し、その効果を好例として他の都市や国々に伝えていくなどして、プロジェクトのスケールアップを図ることが挙げられます

今回、IPCCに初参加した私は、二つの教訓を得ました。一つ目は、問題より解決にもっとフォーカスすべきであること。またこうした解決方法は、今すぐ実施されなければならないこと

二つ目の教訓は、チームワークについてです。私は今回、IPCCの第5次評価報告書の執筆に携わった、世界85カ国から集結した合計830人のリードオーサーのうちの一人です。私たちは3年がかりで、気候変動データを読み、書き、間違いを直し、書き直し、矛盾がないかチェックし、そしてディスカッションを重ねてきました。

これらすべての科学者たちが、ひとつの報告書についてコンセンサスに至るまで、いったいどれだけの苦労があったか想像できるでしょうか?それはあたかも、後ろのほうで控えめに演奏している音楽家も、前方で注目を浴びる指揮者や第一バイオリン奏者らと変わらない重要性を持つ、巨大なオーケストラの中にいるような印象を受けました。ひとつの共通の目標によって突き動かされた人々が、いかにお互いの相違を後回しにして協力し合えるかという点には、本当に驚かされます。

自然を守ることは人間を守ることだと、私は既に知っていました。今回IPCCへの参加で気づいたことは、もし私たち自身を守るために自然を守るということに、わずかでもチャンスが残っているのなら、私たちは行動をともにする必要がある、ということなのです

ファビオ・スカラノは、CI中南米地域担当のシニア・バイス・プレジデントです。


CIジャパン気候変動プログラム・ディレクター山下のIPCCレポートもご覧ください