都会のジャングル:ジャカルタのグリーン・ウォール・プロジェクト (CI本部ブログより)
by ケトゥット・プトラ
インドネシアの首都ジャカルタの全景。ジャカルタの1200万人以上の住民は、
近郊の森林に水源を持つきれいな水を利用しています。(©ウォーレン・ゴールズウェイン) |
近年、ジャカルタでは、水質汚染、大気汚染、交通渋滞が当たり前となってしまいました。人口急増と適切な都市計画の欠如から、東南アジア最大の都市であるジャカルタを取り巻く環境は、この数十年で急速に損なわれてしまったのです。
私は、1200万人を超えるジャカルタの住民の一人として数年間この都市で生活し、その後ゲデパハラ森林地帯にほど近い小さな都市ボゴールに引っ越しました。都市生活者の多くが、週末や休暇になると頻繁にグデパハラを訪れます。そこは新鮮な空気と冷たく清らかな川の水を楽しみ、野生生物に触れることのできる、都会から最も近い場所なのです。
しかし森林の役割は、都会の住民に週末の避難場所を提供することだけではありません。森林は、都市生活に欠かすことのできない新鮮な水を貯蔵し、さらにはその水が下流の都市部へ一気に流れ込むことを防いでもいるのです。
私の実家は、バリ島の農村で伝統的な水利灌漑システム「スバク」を使って米を作る農家でした。上流にある森林が健全でなければ、河川灌漑システムは機能しないということを、私はこの時期に学びました。
グヌン・グデ・パンランゴ国立公園から近隣の村ボドゴルへと流れる清流。
現地の人々はこの水を、農業用水、食料採取、水浴に利用しています。(©ジェシカ・スクラントン) |
プロのダイバーであり海洋科学者でもある私は、最近になって、海中の珊瑚礁さえも健康な森林に依存していることを知りました。健康な森は海中の堆積物を減らし、珊瑚が繁殖する環境を作るのです。
ジャカルタでの生活が始まると、私はこの街の毎年の洪水問題に関心を持ちました。ジャカルタ市民のほとんどは、市の上流に位置するボゴールからの過剰な流水が洪水の原因だと考えています。これはある程度真実でしょう。そこへ、ジャカルタの舗装面積が拡大したことで、水を浸透させる地面が減少したことが追い打ちをかけています。
1980年代には、ボゴール地域でいつ大雨が降っても、ジャカルタでの洪水はそれほど大きな問題にはなりませんでした。しかしこの10年間、ボゴールで3日間大雨が降っただけでジャカルタに大洪水が発生し、何十人もの死者を出しています。20年前、ジャカルタ湾ケプラウアンセリブ海洋国立公園の珊瑚礁はすくすくと成長していました。今では上流からの堆積物が原因で、その大半が失われてしまいました。
実際、ジャカルタでは年々悪化する洪水被害を制御するため、堤防やダムなど大型インフラの建設を検討しています。しかし、より安価で簡単な解決策が目の前にあるのではないでしょうか。それは、上流地域の森林再生です。
コンサベーション・インターナショナル(CI)のグヌン・グデ・パングランゴ国立公園森林再生プロジェクトサイトを散策するコミュニティ・メンバー。(©ジェシカ・スクラントン)
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コンサベーション・インターナショナル(CI)・インドネシアによる河川流域での活動を通じて、ボゴール地域にあるグヌン・グデ・パングランゴおよびハリムン・サラク両国立公園が、ジャカルタへ流れる水を調整する重要な土地の一部であることが分かってきました。
ゲデパハラと総称される、合計13万5000ヘクタールのこの土地は、ジャワ島に現存する最大級の近郊森林地帯の一つです。
この土地は年間約2310億リットルの水を供給し、ジャカルタ、ボゴール、タンゲラン、ブカシなどの周辺都市の住民を含む約3000万人の人に恵みをもたらしています。
また、絶滅危惧種に指定されているジャワギボン、ジャワラングール、ジャワクマタカ、ジャワヒョウなどの貴重な固有種を含む、豊かな生態系を守る砦でもあるのです。
しかしながら、森林を農業用地や居住地へ転換したことによる森林破壊は、この貴重な流域を大きく脅かしています。都市周辺をドライブして分かったことですが、急傾斜地の大半は農地に変えられていました。
ゲデパハラ地域の固有種で絶滅危惧種のジャワギボン
(©コンサベーション・インターナショナル/スナルト撮影) |
この流域全体のうち、約1万5000ヘクタールはもはや森林ではありません。天然の貯水池となるために必要な森林がなければ、水は洪水となって下流地域を襲います。
過去5年間、CIは地元企業や地域コミュニティなど多くのパートナーと協力し、下記のような多くのイニシアチブ促進活動を続けてきました。
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グヌン・グデ・パンランゴ国立公園と周辺地域との境界線付近に約120万本の自生種を植林する森林再生事業。植林によって、原生林と既に森林が失われてしまった地帯とを分ける「グリーン・ウォール」が形成され、公園区域を開発の影響から守る緩和地帯としても機能します。
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ジャワギボン・センター設立事業。このセンターは、リハビリテーションと教育を行う施設で、一般市民に野生生物保護の大切さを啓蒙することを目的としています。
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小型水力発電機導入事業。周辺の農地を灌漑すると同時に、地域の家庭にクリーンな電力源を供給します。
森林が貯水池として大きな役割を果たしていることや、テクノロジーの活用によって森林からの水流をこれまで以上に有効利用できることを知った農家の人々は、非常に喜んでくれます。そしてその姿を見ることが、私の喜びでもあるのです。
小型水力発電機の導入により、何年間も電気のない生活を続けてきたグヌン・グデ・パングランゴ国立公園周辺の家庭に、電力が供給されるようになりました。(©ジェシカ・スクラントン)
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そして、これらのプロジェクトは、数千キロの遠方に拠点を持つある企業の支援がなければ、実現しなかったかもしれません。このプロジェクトは2008年以来、日本のエアコン・メーカーであるダイキン工業株式会社からの支援を得ています。
ダイキン工業は今日、インドネシアの危機に瀕する森林と、CIが活動を行っているブラジル、カンボジア、中国、インド、リベリアの5カ所の貴重な森林の保全のために、今後10年間に450万ドルを出資することを発表しています。このことは、私たちがインドネシアで取り組むこのプロジェクトの成功の証でもあります。この画期的な取り組みでは今後、CO2排出量の削減と、人類にとって欠くことのできない森林の保全を目的として、地球規模の森林保全、農業、その他の環境教育活動に重点的に取り組んでいきます。
ジャカルタを流れる河川流域で森林再生活動が進めば、洪水はいずれ減少すると考えられます。また、気候変動によって、異常気象に伴う洪水などの事象が頻度を増すと予測されており、都市を守るためには、世界中でこうしたプロジェクトがこれまで以上に重要になってくるはずです。ダイキン工業に続く多くの企業からのご支援をお待ちしております。
ケトゥット・プトラは、CIインドネシアのバイスプレジデントを務めています。「都会のジャングル」シリーズの他のブログ記事も是非ご一読ください。
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(翻訳協力: TMJジャパン)
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