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炭素市場の批判は的外れ-科学者の視点

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ある日の朝、コーヒーを切らしていたことに気が付きました。そこで私は、道徳的に優れた人ならするであろうことをしました。 コスタリカ行きのフライトを予約したのです。 コスタリカに着いてから、コーヒー農園までタクシーで行き、熟したコーヒーの実で袋をいっぱいにして、農家と公正な価格を交渉して、アメリカに戻りました。コーヒーの実を剥いて、精製して、乾燥させて、豆をローストして、挽いて、コーヒーを淹れて・・・3日後にはとても香ばしいコーヒーを味わいました。 ・・・もちろん、そんなことはしませんでした。極めて非効率的だからです。 ありがたいことに、世界には市場があり、非効率的なコストを最小限に抑えながら(加えてフェアトレードのオプションもあります)、コーヒーを売買し、加工し、世界に出荷することができます。コーヒーの人気を見ると、この市場は非常に高く評価されています。 だから私は炭素の市場について攻撃的な人々に出会うと困惑するのです。 炭素市場の背景にある考え方は、地球温暖化の原因となる炭素を排出する企業や個人(つまりはすべての人びと)が、自主的にお金を払って「炭素クレジット」を購入・取引することで、その排出量の一部を埋め合わせるというものです。 最近の報告 によると炭素市場はまだ初期段階ですが、急速に成長しています。企業、科学者、政策立案者は、この市場がどんな形になるべきかをまだ整理しているところであり、より強力なルールと構造が導入され、民間セクターからの投資が更に促進することが見込まれます。 一方で、市場が提供するコーヒーを大切にしている人びとの多くは、炭素市場をあからさまに軽蔑しています。炭素クレジットは悪質な企業が環境汚染を正当化し、悪質な非営利団体が資金を追いかけ、臆病な政策立案者が厳しい決断を避けるためのものに過ぎないと主張しているのです。 これはナンセンスです。炭素市場の存在自体を攻撃するのは、論理的に考えることを怠けてしまっているにほかなりません。さらに最悪なのは、気候変動対策の進展を妨げています。 そして、私たちは早急に進展させる必要があります。 数十年前であれば、炭素市場が化石燃料削減の代替手段になるかどうかを議論する余裕があったかもしれませんが、今は違います。化石燃料の削減と炭素市場、両方が必要です。今年のはじめにアメリカの太平洋岸北西部を襲った記録的な熱波は

COP26に関する声明:自然が中心となった気候交渉―約束からアクションへ

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コンサベーション・インターナショナルは、英グラスゴーで開催されたCOP26を受け下記の声明文を発表しました。 シャイラ・ラガヴ(Shyla Raghav)ー気候変動ヴァイス・プレジデント、コンサベーション・インターナショナル ©Nicholas Karlin  「今から数年後、グラスゴーで開催された2021年国連気候変動会議は、パリ協定の目標がようやく行動に移されたターニングポイントとして思い起こされるかもしれません。」 「恐らく、本会議で初めて自然がCOPの中心となったのです。森林に恵まれた国々と数え切れない他の国が、世界的な気候危機の解決には自然が不可欠というコンセプトを主張したことでそれが主流になったのです。コンサベーション・インターナショナルをはじめとする数多くの団体が自然と気候変動対策における自然の重要性への注目を高めるために行ってきた何年にも渡る懸命な努力が報われたのです。」 「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言では、130カ国以上が2030年までに森林の損失と劣化を撤廃することに合意しました。各国はよりグリーンな経済へ移行するために森林の保全と回復を加速し、資金調達の促進することを約束しました。また、重要なことに民間セクターも、自然のために更なる資金とインセンティブが必要であることを認識し、行動を起こしました。30を超える総資産8.7兆米ドルの金融機関が、2025年までに投資ポートフォリオから農産物起源の森林破壊を終わらせることを約束しました。これは、持続可能な生産と自然を活用した気候対策へと世界的にシフトするための強力な市場シグナルです。」 「今回が先住民族と地域コミュニティの森林と自然の保護者としての役割が実際に認識され、高められた初めてのCOPでした。先住民族と地域コミュニティの気候変動との戦いや生物多様性保護の取り組みに対し、各国政府と基金が17億米ドル投資するという約束もされ、行動が伴うものでした。」 「一方で、気候変動による損失と被害(ロス&ダメージ)に関する合意が得られなかったことを残念に思います。気候変動の最も破壊的で緊急の影響を被る国は、排出量が少なく、気候変動の原因となるようなことはほとんどしていません。先進国はこのことを認識し、開発途上国が直面する可能性のある壊滅的な負担を担うことが大切です。さらに、裕福な国が気候変動対策の

気候変動の専門家が語る、世界各地の適応策とは

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スイスアルプスで育ったGiacomo Fedele(ジャコモ・フェデレ)は、木登りや森林探索が好きでした。そんな彼は自然への愛をコンサベーション・インターナショナルの気候変動適応策エキスパートという職業に注ぐことになります。世界を駆け回りながら、地球温暖化の影響を受けている世界中の地域コミュニティの人々と共に働く専門家です。 今回はフェデレから彼の一風変わった科学者への道、マダガスカルからメキシコまでの世界の地域がどう気温上昇に適応しているのか、そして気候変動の行く末は不確かなのに、どうやって楽観的でい続けているのか、話を聞いてみます。 Q:自然について研究する仕事に就くことになったきっかけはなんですか? A:子どもの時から自然に夢中だった。スイスアルプスで育ったから、大自然の中でハイキングしたり、きのこ狩りをしたり、木に登ったりして過ごすことが多かった。ずっと自然の多様性や、僕の周りの生態系に興味があって、大学では環境学を専攻するようになったんだ。 修士論文では、マダガスカルにある僻地で研究を行った。そこで僕は、自然界の新たな側面を発見するようになったんだ。現地の人たちは、日常的に自然を利用していたんだ。例えば、薬として利用したり、農作物が不作の時は食糧として利用したり、家を建てる材料として利用したり。この 人びとの自然への依存 が僕の研究の焦点となった。コンサベーション・インターナショナルでは、気候変動の危機において自然がどう人々の力になれるか、方法を考えているんだ。 Q:現在はどのような研究をしているのですか? A:僕は、自然と気候の交わり、そして人々が気候変動に適応したり、気候変動のダメージを減らすためにどう自然が力になるのかについて研究をしている。 僕にとって、自然を気候変動の解決策の一つとして取り上げることが大事だけど、それは人々が考えるほど明白ではないんだ。 気候変動はよく二酸化炭素排出を抑制することで解決できる問題だと考えられている。例えば、エネルギー分野や、交通輸送分野での二酸化炭素排出を抑えること、そのための技術利用が注目されている。確かに二酸化炭素排出の抑制は解決策の一つだ。 しかし、二酸化炭素を吸収する生態系に注目することも大切だ。特に、多くの人が自然と共生する発展途上国では生態系保全が重要になってくる。すでに自然との関わりが深い地域では、自

コーヒーがつなぐ未来ーコーヒーテイスティングの世界で活躍するメルリス・クルーズさんのストーリー

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コンサベーション・インターナショナルでは、現地コミュニティとの[自然保護協定]を通じたプロジェクトでを世界中で実施しています。 ペルーのアマゾン熱帯雨林にあるアルトマヨ森林保護区には、その一つであるコーヒー農園があります。 このコーヒー農園は、ペルーのパカイピテという村にあります。豊かな土壌と湿度の高い気候に恵まれた、コーヒー栽培に適した地域です。コンサベーション・インターナショナル・ペルーはこの地域で自然と地域の人々の生計を守るために10年以上活動してきました。 CIペルーと自然保護協定を結んだこのコーヒー農園には、メルリス・クルーズさんという娘がいます。彼女は10歳になるまで家族が営む農園で育ち、その後、学業を続けて将来の機会を得られるようにという両親の考えに従い、都心に住む叔父のところで暮らすことになりました。 17歳になったメルリスさんは、雇用と教育の機会を求めて首都のリマに引っ越すことを決めました。リマでは秘書として働きながらコンピューターに関するコースを取りました。それまでは、実家のコーヒー農園が将来を左右するとは想像もしていませんでしたが、人間としてもキャリア面でも成長を求めて、ペルー北部のトルヒーヨで美食学を学びました。 ©CI-Peru コーヒーとの新鮮な再会 トルヒーヨでの勉強を終え、メルリスさんは実家近くのモヨバンバに戻り、フードビジネスの世界へ進むことにしました。「両親には、農園を売って私と姉妹と一緒に都市で暮らしてほしいと思っていました。両親と一緒にレストランを運営したかったんです。」しかし、彼女の両親は賛成しませんでした。 2019年には、2014年にCIペルーの協力を受けて設立されたフェアトレードオーガニックコーヒーの生産・販売を支援するアルトマヨ森林保護区協同組合(COOPBAM)は、メルリスさんの両親が自然保護協定の技術的支援を受けてコーヒーを栽培していたパカイピテまで活動地域を広げました。 COOPBAMの新しいメンバーとして、メルリスさんの両親と家族はコーヒーテイスティングの研修も含む様々な制度が受けられるようになりました。メルリスさんは母親に勧められ、あまり期待せずに研修を受けることにしました。それまでメルリスさんにとってコーヒーは農園で種を植えて収穫をする仕事としてしか捉えていませんでした。 実はコーヒーテイスティングはコー

女子教育と気候変動

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女の子のエンパワメントの気候変動対策における役割について考えてみたことはありますか?今日は女の子の教育と気候変動の関係についてご紹介します。 たとえば、サブサハラ・アフリカでは、約5200万人の女の子が学校に通うことができていません。これは、雇用の機会の損失や貧困だけでなく、気候変動に対するレジリエンス力の低下も意味しています。女の子の平均通学年数が上がれば上がるほど、国の気候変動に対するレジリエンス力が圧倒的に向上するということが研究でわかっています。 「一緒に考えられることは滅多にないですが、女子の教育機会の向上と気候変動は密接に関わっています。」とコンサベーション・インターナショナル でアフリカ地域の環境保全活動に携わっていたアリス・ルウェザはオールアフリカ誌でコメントしています。 コンサベーション・インターナショナルが南アフリカ現地の教育省と保健省と協力し、マニャンガナ高校でリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)とファミリープランニング(家族計画)のプログラムを実施した際、わずか1年足らずで女性生徒の妊娠が年間16人から1人まで減少し、3年間で女子生徒の高校卒業率が32%から99%まで向上しました。 「今、サブサハラ・アフリカで学校に通うことができていない5200万人の女の子が教育の機会を得ることができれば、彼女たちはアフリカや地球の未来を変え、世界の問題の解決策を編みだすリーダーに成長するでしょう。」 アリス・ルウェザの記事全文(英語)はこちら Africa: Why Girls' Education is Key in War Against Climate Change カバー写真:©CSA/Green Renaissance

スポーツと気候変動

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  By 小宮 陽菜(CIジャパンインターン) 先日、世界各国の科学者でつくる国連のIPCC=「気候変動に関する政府間パネル」は、気候変動に関する報告書を8年ぶりに公表し、気候変動が人間に起因すると断言する内容が発表されました。 日本でも各地で続く猛暑や、急な豪雨など、異常気象ともいうべき天候が増えていることを感じている方は多いのではないでしょうか。 スポーツも気候変動とは無縁ではありません。当然のことながら、屋外競技において選手や会場のコンディションは天候や気温に大きく左右されるからです。 気候と切っても切れない関係のスポーツ。今回は、そんなとスポーツと気候変動の関係性と、スポーツ界の気候変動への取り組みについてまとめました。 【スポーツと 気候変動 の関係性】 気候変動により、将来気温上昇とともに、猛暑日(最高気温が35℃以上の日)の日数が増加するとされています。 国土交通白書2020 によると、2076年~2095年の猛暑日は、20世紀末と比べて沖縄・奄美で54日増加するなど、猛暑日や真夏日(最高気温が30℃以上の日)、熱帯夜(ここでは最低気温が25℃以上の日を便宜的に熱帯夜と定義している)の年間日数は、全国的に増加すると予測されています。 当然、暑さは選手のパフォーマンスに大きく影響します。 先日閉幕した東京2020オリンピックでは、 暑さへの懸念の声が多く上がったため、時間変更を余儀なくされる競技が相次ぎました 。また、 男子マラソンでは東京から札幌に開催地が変更されたにもかかわらず、30人が棄権をする という事態に陥りました。今後も夏の暑さはひどくなるとされており、 日本経済新聞の分析 によると、2050年に世界の大都市の6割超で屋外競技の熱中症リスクが高まることから、夏季五輪の開催が困難になるという結果を示しています。 夏の競技のみならず、ウィンタースポーツも多大な影響を受けています。 現在、日本に限らず世界中で雪不足状態が慢性化したスキー場が増えています。アルプスは特に、地球温暖化の壊滅的な影響にさらされており、NGO「アルプス保全委員会(CIPRA)」によると、 アルプスの山岳地帯の気温は過去120年間で2度近く上昇しており、雪があまり降らないことに加え、気温が高すぎるために人工降雪機も使えないという状況に陥っている とのこと。今後、各地のスキー場

研究報告:マグロ・カツオの個体群の移動が引き起こす「気候正義問題」

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太平洋諸島の国と地域は、陸地面積は小さいながらも、 世界のマグロ・カツオ(以下マグロで統一)漁獲量の3分の1以上を占める 漁業のキープレイヤーです。 しかし、これらの島々の状況には変化が起こっています。悪い方向へと・・・ 温室効果ガスの排出によって上昇している海水温は、マグロの生息域に変化をもたらし、多くの太平洋諸島の管轄外である排他的経済水域(EEZs)外へとマグロを移動させることにつながっています。コンサベーション・インターナショナルのヨハン・ベル率いる専門家チームは、マグロの個体群が2050年までにどのように移動するのかをシュミレーションし、西はパラオから東はキリバスまで、10の太平洋島嶼国と地域では、マグロの大移動によって平均漁獲量がなんと平均20%減少してしまうと予測しました。 ネイチャーサステナビリティ誌に掲載された 研究 によると、大規模な漁獲量の減少は2050年までに、毎年1億4000万ドルの損失を招き、島嶼国と地域の歳入の17%が失われてしまうことになると報告しています。 「現在カツオ、キハダ、メバチマグロが好む温かい水温の熱帯地域の多くは、太平洋島嶼国と地域のEEZs内です。」「けれども、このまま海水温が上昇し続けると、マグロが好む海域が国の管轄ではない、公海を含む東方へと移動してしまいます。」とコンサベーション・インターナショナルのマグロ漁業プログラムを主導するベルは話します。 「これは気候正義の問題です。」 世界的な温室効果ガス排出量における太平洋島嶼地域の割合は微々たるものですが、この地域の人びとは気候危機の最も過酷な影響をすでに受けています。 「これは気候正義の問題です。」とベルは語ります。「太平洋島嶼国と地域は、他国が自国の管轄地域でマグロを漁獲する際、入漁料を課しています。ただ、マグロが公海へとますます移動するにつれ、自国の領海で行われる漁業が減り、歳入が減ることで、マグロ漁に頼った経済が疲弊してしまうのです。」一方で、海水温の上昇を引き起こす温室効果ガスの大半を排出してきた大国は、マグロ・カツオの移動の便益を受けることになるとベルは言います。 「公海でマグロを獲られるようになれば、公海では入漁料を支払う必要がないため、裕福な国の漁船がより利益を受けられることになります。」 西太平洋、中央太平洋、東太平洋の公海でのマグロ漁は、2つの漁