連載:SDGs実施課題への外部経済性に基づくアプローチ ‒ 第4回 SDGs実施資金創出のための制度 ‒

連載 by CIジャパン客員研究員 武末勝

はじめに

連載の第2回では開発途上国および先進国の各々における資金創出手段の概要を述べたが、第4回 (最終回) ではそれらを効果的に実施するための制度を提案する。

4.1  開発途上国の自己資金創出制度

前々回の2.3.2で述べたように、この制度の主目的は、開発途上国の森林が持つCO2吸収サービスの外部便益を内部化してその経済価値に見合う収入を毎年獲得することにある。重要なことは、ここでの経済価値が京都プロトコルのA/R-CDM (Afforestation/Deforestation CDM) (Nations 1998) やREDD plus (Angelsen et al. 2009) におけるベースライン (参照レベル、またはBAUとも呼ばれる森林生態系の向上策を実施しない状態) でのCO2吸収サービスの価値を指しており、向上策によるベースラインからの追加的 (additional) な価値ではないことである。この経済価値を認識することの正の副作用として、① 国外企業からの投資に関連する自国の森林伐採の経済損失を国外企業に請求可能になり、また ② 自国でA/R-CDMやREDD plusのプロジェクトを積極的に推進してCO2吸収サービスの追加的経済価値を増大させようとするインセンティブが向上する。

この制度で開発途上国に支払われる金額およびその資金源は、以下の通り決定する。
  • Step 1: 各国 (先進国および開発途上国の両方) は毎年、自国iの森林によるCO2吸収量 (Si) とその他のセクションでのCO2排出量 (Ei) を評価し、Ri = Si‒Eiを計算する。
  • Step 2: Riが正である全ての国のRiの合計をRpとし、Riが負である全ての国のRiの合計をRnとする。
  • Step 3: Riが負である全ての国は比率Ri/Rnに比例してRpの経済価値に相当する資金を拠出し、比率Ri/Rpに比例してRiが正である全ての国に支払う。ただし、1単位のCO2吸収の経済価値は、複数の既存の炭素クレジット取引市場での価格の平均値とする。

この資金拠出・支払制度(注1)では、Riが正である国は発展途上国であり、負である国は先進国と仮定しているが、この仮定は一般に妥当であろう。この場合、開発途上国は、獲得した資金を国民の家計収入向上や教育システム充実などの高優先度の課題解決に向けて投入できる。他方、先進国は、上記支払額を減少させるため、自国のRiをゼロに近づける努力をすることになる。これらの行動はSDGsの追求に他ならず、全ての国でRiがゼロになった時には持続可能な経済・社会の発展と環境保護が顕著に前進した状態になると予想される。また、Rp=Rn になった状態では、地球規模でCO2の吸収と排出が均衡し、大気中のCO2濃度が一定状態に保たれるようになる。

(注1.この資金拠出・支払制度をより現実的にするには、Step 2で2つの閾値 (thresholds) T1とT2 (T1>T2, T2<0) を設け、RiがT1以上の国は資金受領国、T2以下の国は資金拠出国に分ければよい。ただし、RiがT1とT2の間にある国はこの制度の対象外とする。この制度では、T1が負でより小さい値になればなるほど開発途上国が有利になる。また、この制度でT1=T2=0 に設定すれば本文で示した制度になる。)

しかし、上記のような資金拠出・支払制度の確立には、少なくとも拘束力のある京都プロトコルのような実施規約が必要であるので、Post-2015 Sustainable Development Agendaの実施規約として審議・合意されることが望まれる。この実施規約に関連する他の重要な規約は、国外企業が自国内で行ったSDGsに違反する行為の責任の所在を明確に規定することである。例えば、国外企業が関連企業を自国内に設立した場合、その関連企業が排出するCO2などのGHGは自国が排出したものとみなされているのが現状である。人権違反行為の責任所在に関するガイドライン (United Nations, 2011) や原則 (Maastricht University et al., 2012) と同様に、SDGs違反行為の責任はその行為を行った企業の本部が置かれている国にあり、行為が行われた国ではないことを規定すべきであろう。上記例では、この規定によって、自国において国外企業の関連企業が排出したGHGは、その国外企業の本部が置かれる国が排出したものとされる。この規定は、ポスト京都の議定書の排出量割り当てに大きな影響を与えるので、UNFCCCとPost-2015 Sustainable Development Agendaの共通課題として協力して審議されることを期待する。

4.2  先進国の雇用改善のための資金創出制度

この制度の目的は、新分野の産業の創設に必要な資金を支援することにより、新分野産業および関連産業の雇用を改善することである。新分野としては、先進国における老人人口の急激な増加に対処するための老人の予防・介護医療の分野に注目する。支援資金の資金源は人々の行う日常行動およびボランティア活動であり、これ等の行動・活動が有する外部便益の内部化によって資金を得る。例えば、日常的な自転車乗車行動は、自動車乗車行動と比較して、CO2排出、ガソリン費用、健康維持などの点で外部便益を持っている。また、ボランティア活動の多くはSDGsに関連しており外部便益を有する。

ボランティア活動は先進国では非常に多くの人々が行っており、日本の場合1年間に何らかのボランティア活動を実施した人数は3263万4千人(人口の28.8%)(総務省統計局, 2001)である。1回/週かつ2時間/回のボランティア活動実施者数を1,000万人、またボランティア活動の経済価値を1,000円/2時間・人と仮定すると、日本全体でのボランティア活動の経済価値は約5,000億円/年に達する。

このような日常行動・ボランティア活動、即ちSDGs推進サービスの持つ外部便益を内部化して地方行政 (あるいは国レベル) でSDGs基金として維持・管理し、老人の予防・介護医療関連分野の新事業の創設のための援助に使用する。この枠組みを図4.1に示す。内部化資金には、行政の予算に一部、目的税収入、および寄付収入などをあてる。また、SDGs推進サービス実施者への手当は支給しない。このよう枠組みを構築し効果的に運用するには、図4.1のSDGs基金、老人の予防・介護関連事業、サービス選定などに関する事項を行政とSDGsサービス実施関係者が協力して審議・決定するなど、両者間の高い信頼感を醸成するためのガバナンスを整備すべきである。


4.3 まとめ

SDGs実施資金創出のために外部経済性を内部化して得られる資金を活用する制度について、2案を提案した。SDGsの効果的実施のため、Post-2015 Sustainable Development Agendaと共にこのような具体的な制度・機構を含む実施計画が策定されることを期待する。


参照文献
  • 総務省統計局、2001.  増加するボランティア人口. ( http://www.stat.go.jp/data/shakai/2001/topics/tps0301.htm )
  • Angelsen A., Brown S. et al., 2009. Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation (REDD): An Options Assessment Report. Meridian Institute.
  • Maastricht University, the International Commission of Jurists and a group of experts in international law and human rights, 2012. Maastricht Principles on Extraterritorial Obligations of States in the Area of Economic, Social and Cultural Rights.
  • United Nations, 1998. Kyoto Protocol to the UNFCCC on Climate Change.
  • United Nations Human Right Office of the High Commissioner, 2011. Guiding Principles on Business and Human Rights: Implementing the United Nations “Protect, Respect and Remedy” Framework.

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