自然を守るための資金調達のお話 ~CI本部スタッフ、ロマス・ガバリアウスカス来日レポート~

こんにちは!CIジャパン広報のAIです。しばらく産休&育休を頂いておりましたが、職場復帰致しました。子供が生まれて、より一層将来世代のために大切な地球環境を守り、残していかなければと強く思うようになりました。これからまたどうぞよろしくお願いします。

 さて、先週CIの本部から、ロマス・ガバリアウスカス上級ホームアドバイザーが来日しました。ロマスは、CIの地球保全基金とカーボンファンドへの法的サポートをしている、いわゆる‘金融を専門とする法律家’です。これまで大手法律事務所ホワイト&ケースでシニア・アソシエートを務め、国際環境プロジェクトの信託基金やリースなどの専門家として活躍したのち、2007年よりCIへ参加しています。

ロマスは、去年の夏にも飛行機の乗り換えがてらCIジャパン事務所に立ち寄り、自然保護のための革新的な資金調達手法であり、CIの代表的な取り組みでもある「環境債務スワップ」について、内部の勉強会をしてくれたのですが、今回来日した目的は、森林総合研究所が主催するREDDプラスの公開セミナーにて、「環境債務スワップ」を紹介すること、そして翌日には、世界銀行と森林総研、CIが共催する、自然資本セミナーにて、革新的な資金メカニズムについて発表することでした。

自然の恵みはタダ?
健全な自然環境は、きれいな水や安定した大気、食料、防災など、人間にさまざまな恩恵をもたらし(これらを「生態系サービス」と呼んでいます)、私たちの生活を支えてくれていますが、主な経済指標として使われているGDP(Gross Domestic Product:国内総生産) には、こうした自然の真の価値は含まれていません。自然の価値を正しく認識すること、そしてそれらを経済価値に組み込まれることがなければ、真の意味で自然環境の価値を“内部化”したことにならず、持続可能な社会の実現は難しくなってしまいます。
海外ではすでに、企業活動や投/融資、公共事業や国際協力の現場で、生態系サービスを生み出す自然環境を‘資本’とみなす考え方が広まりつつあり、そうした自然資本の価値を国家や企業会計に組み込もうとする自然資本会計(Natural Capital Accounting:NCA)の取組みが始まっています。今回の来日でロマスが紹介した新たな自然資本保全のための資金調達方法は、両日のセミナーともに聴講された方々から大きな関心を得ました。

Win-win-winな「環境債務スワップ」
「環境債務スワップ」とは、簡単に言うと、発展途上国が、対外債務の一部を減免あるいは肩代りしてもらうかわりに、債務返済に充てていた国家予算を環境保全に充てることを約束するしくみのことです。この手法は、途上国の累積債務問題と同時に現地の環境問題を解決することを可能とする資金調達方法であり、関係者それぞれに便益をもたらす手法として注目されています。(実は世界で最初に環境債務スワップをボリビアで実施したのがまだ創立当初のCIでした。)先進国や民間の金融機関にとっては、回収が難しくなっている債権を売却できることで、リスクを減らすことができ、途上国にとっては、累積債務を返済することができ、またCIのようなNGOにとっては、途上国での自然保護に対してまとまった資金の流れを作ることができる、というわけです。


 また、二日目の自然資本セミナーで、ロマスが発表した「プロジェクトファイナンスの自然資本管理への応用、社会及び開発インパクト債権」は、金融業界でも比較的新しい資金調達モデルでありながら、十分に環境保全のプロジェクトへ応用できるだろうと考えられる手法です。まず、プロジェクトファイナンスの基本的なしくみについて、水力発電所の建設を事例に説明がなされました。プロジェクトファイナンスとは、ある特定の事業から上がる“予想収益”を担保に借り入れが行われるしくみですが、それと同様の資金の流れと関係者の役割を、自然保護など社会貢献型投資に応用します。それが、社会/開発インパクト債権(SIBs/DIBs)です。


社会的な利益に投資すること
社会/開発インパクト債権とは、社会的な利益となる事柄をいわば担保にして資金を調達するしくみのことで、セミナーでは、イギリスのピーターバラ刑務所での囚人更生プログラムが事例として紹介されました。これは、受刑者の多くが、釈放後に再犯を犯しているために、国が刑務所への再収容へのコストを減らすことができれば、投資家はリターンを得られるというしくみです。具体的には、プロジェクトを実施する「ソーシャル・インパクト・パートナーシップ」が、投資家から資金を調達し、この資金によって社会的な利益を生み出すプロジェクトを実施する「サービスプロバイダー」を通じて受刑者に対する釈放後の支援を実施します。ここで、受刑者の再犯率の低下による受刑者数の減少という社会的便益を得、また受刑者数減少による支出削減という「利益」を得る英政府が、そのサービスに対して「対価」を支払う「アウトカムファンダー」となり、投資家は、政府の支出削減に応じた「リターン」が得られるしくみです。

社会/開発インパクト債権は、社会貢献型投資といえます。投資対象が、社会的な利益になる事柄であり、通常、資金調達機関は高いリスクは取りたくないが、成功したらその報酬を払っても良い、という場合に有効です。これまで、イギリスやアメリカ、オーストラリアで主に刑事司法分野や、ホームレス問題、労働力開発、青少年指導、ヘルスケアや教育の分野で実施されています。

そこで、社会/開発インパクト債券のスキームを「生態系サービスへの直接的支払い(Payment Ecosystem Services:PES)」に応用しようというのが、ロマスのアイディアです。

自然を守ることに経済的インセンティブをもたらすしくみ
PESとは、生態系サービスを享受している人々(受益者)が、その便益の「経済的な価値」に応じた適正な負担=支払いをすることにより、自然環境を守るしくみのことです。PESで投資の対象になるのは、自然生態系であり、目的は、生態系サービスの生産量や収穫量の持続可能性を高めることにあります。森林の減少や劣化を抑制することにインセンティブを与えることで森林が吸収固定している二酸化炭素の大気への排出を防止するためのしくみである、REDD+(レッドプラスと読みます)は、PESの代表例となります。セミナーでは、ノルウェー政府が参画しているインドネシアでのREDD+、カンボジアやスリナムでの河川上流域の森林を保全することにより水源、治山・治水、さらには重要な漁場となる淡水生態系を守る「緑のインフラ」プロジェクト、禁漁区や禁漁期間を設定することにより漁業資源だけでなくその生息域の生態系を保全する取り組みなどを対象にした資金調達事例が紹介されました。国内でも、水源地の上流域の森林管理のための費用を水道利用者に課す「水源税」のような取り組みもPESのひとつといえるでしょう。
以上の資金調達モデルは、対象となる生態系サービスの「収益性(すなわち経済的な費用と実際に生態系から得られる便益の価値のバランス)」の最大化をどう設定するのか、また、投資家やアウトカムファンダーの長期的コミットメントの確保など、課題はありながらも、自然の価値を正しく認識し、その生態系サービスを守る資金を調達する画期的な手法といえます。そして、それは私たちに新たな便益をもたらしてくれるのです。

 最後に、こうした自然資本会計の考え方を今後どう広めていくのか?という議論では、先行投資の費用を負担するのか?またガバナンスの問題、これまでになかったパートナーへの巻き込み方などの意見が交わされ、また、パネルディスカッションにご参加頂いた、三井物産戦略研究所新事業開発部イノベーション室シニア研究フェローの本郷尚様より、投資する側からとして、持続的な利用の仕方を考えるときの“期間”の概念の考え方の重要性や、どの程度の自然を利用するのが適当なのか、ある程度制約を課すことにより、自然資本の値段が出てくるので、そのような定量化することで、主流化につながるのでは、という指摘がなされました。
また、JICA地球環境部次長兼森林・自然環境グループ長の宍戸健一様からは、現場での実践からご意見を頂き、途上国でのキャパシティビルディングの大切さや先行投資の考え方がカギである点、また、現地政府も納得できるよう、成功事例を地道に積み上げることが必要である、といったコメントがでました。


印象的だったのは、ワシントンDCの世界銀行本部からビデオ会議で参加してくださった、もう一人の基調報告者の世界銀行グループ環境エコノミストのステファニー・シーバーさんの発表中にあった「自然はその存在自体に経済的価値がつくものではなく、人間が利用することで、経済的価値が生まれる」という言葉です。私たちがどれだけ自然を持続的に利用しているのか、正しく理解することが、持続的に自然の恩恵を受けるために人間が取組むべきまず第一歩である、と感じました。


最後に、このような貴重な機会をCIとともに開催して下さった、世界銀行東京事務所ならびに森林総研総合研究所のみなさまに感謝と御礼を申し上げます。
ありがとうございました!

当日使用した資料および動画は、世界銀行様ウェブサイトより閲覧していただけますので、ぜひこちらもご覧ください。
http://www.worldbank.org/ja/events/2015/02/05/funding-mechanism-for-natural-capital



自然を守ることは、人間を守ること。


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