【気候変動:COP21特集ブログシリーズ(2)】
自然は気候変動の適応に対して、どのような役割を果たせるでしょうか?
CIの気候科学者、デイビッド・ホールへの3つの質問

猛暑や非常に強力な台風、記録的な豪雨など、私たちの日々の生活の中にも極端な気象現象を感じることが増えてきました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書は、気候変動は既に人々や自然に影響を与えており、今後さらに気候変動が進むと、より深刻で不可逆的な影響が発生すると述べています。

【気候変動:COP21特集ブログシリーズ】の第2弾では、「生態系を活用した適応策(EbA)」を取り上げ、気候変動への適応において自然が果たしうる力について考えます。そして、私たちが気候変動に適応するためにどのように自然を活用していけばいいのか、COP21でどのように取り扱われる見込みなのかを説明します。

※以下のブログ記事は、CI本部の記事「How nature can help us adapt to a changing climate: 3 questions for David Hole」を日本語にしたものです。文:SARAH HAUCK

ホンジュラスのアオブダイは藻を食べ、サンゴ礁を健康に保ちます。サンゴ礁はそれと引き換えに、海岸の侵食や洪水を引き起こす波の力から、沿岸部のコミュニティを守ります。(© Davey6585/Flickr Creative Commons)
説明するのは難しく、測るのはもっと難しい。でも、気候変動に取り組む際の希望の一つと考えられていること。いわゆる「自然を活用した対策(nature-based solutions)」は、私たちが将来の気候変動に備えるための最善の方法の一つです。

CIの気候科学者であるデイビッド・ホールが、科学者や気候変動政策通が「生態系を活用した適応策(EbA)」と呼ぶこれらの方法がなぜ気候変動交渉で大きな位置づけを持ちつつあるのか、この対策が私たちにとってどのような意味を持つのかを説明します。

質問:「自然を活用した対策」は、自然にとっても人間にとってもいい気候変動適応策のように聞こえます。なぜ私たちはこれについてあまり聞かないのでしょうか?

回答:24時間メディアが動いている今の世の中、私たちは短いメッセージを求めがちです。しかし、EbAは時に複雑で、微妙なニュアンスを伴うものです。メディアはニュアンス的なものはあまり取り扱いません。なぜなら、一般の人々はそのようなものを理解しにくく、詳しく知りたいとは思わないからです。沿岸部に住むコミュニティを守るマングローブ林のような例は説明しやすいですが、他のEbAの事例はそれよりずっと複雑です。

例えば、ブラジルの東岸の沖で、私たちはアオブダイの保全に取り組んできました。アオブダイは藻を食べ、そこにあるサンゴ礁を健康に保ちます。サンゴ礁はそれと引き換えに、侵食を引き起こす波の力から沿岸部のコミュニティを守ります。海面が上昇したときに、もしサンゴ礁が健康でなければ成長し続けることができず、より強い波が沿岸部に届き、観光用のビーチを侵食し、最終的には人々の住居をも損なうでしょう。このことすべてを明確にとても短いメッセージで伝えることを想像できますか。この例からの分かることは、EbAは複雑だということです。さらに、異なる文脈の中でEbAがどのように有効に機能するのか、まだ限られた証拠しかありません。それゆえに、私たちは私たちの仕事において曖昧さが残らないようにする必要があるのです。多くの場合、生態系により直接的に依存するのは地方にあるコミュニティです。私たちは、コミュニティの人々がどのようなリスクに直面しているのかを理解し、どのように生態系がそれらのリスクを減らすのに役立つかを見つけ出していかなくてはなりません。私たちは、リスクをなくすのではなく、リスクを減らすよう務めています。


質問: 世界の人口の半分以上が都市に住んでいて、その割合は増え続けると予想されていますが、EbAは大都市にも適用できますか。

回答:EbAの活動の中心は地方の小さなコミュニティです。そして、それは実に重要なことで、私はEbAの活動はそこで行われるべきと考えています。しかし、EbAは都市でも有効という議論もあります。
200億ドル近い金額を適応策に支払っている、ニューヨーク市のような場所を取り上げてみましょう。ハリケーン・サンディの後、ニューヨーク市は多くの工学的なインフラ施設を設置しました。でも、それと同時に、カキの岩礁や砂でできた丘など、生態系を活用した解決策も導入しています。それは、これらの方法は、ある場所においては最善でリスクを減らすために最も費用対効果が高い方法だからです。今私たちは、カキの岩礁でマンハッタンのダウンタウンすべてを守ってもらおうとは思っていません。それは、荷が重すぎます。そのような場合は、費用は高くつきますが、非常に高価な資産を守ってくれる大規模な防波堤のようなインフラ構造物を活用すればいいのです。
最終的には、システム全体を見て、工学的な方法だけが唯一の解決策ではないことを認識しなければなりません。多くの場合、EbAも唯一の解決策ではありません。全てのリスクを理解し、最適な適応のオプションを選択するということなのです。


質問:EbAは差し迫る気候変動の影響に対処するための実行可能な解決策のようですが、パリの気候変動交渉で何らかの役割を果たせるのでしょうか。

回答:もしあなたが資金がどこに流れているのかを見れば、今も適応には緩和に流れる資金のごく一部しかいっていないことに気づくでしょう。でも、今回は、適応が緩和と同等に扱われ始める初めてのCOPかもしれません。
緩和は重要です。私たちは排出量を減らさなくてはなりません。幸いなことに、炭素を吸収し、その炭素を土に貯留するマングローブの保全・回復といったいくつかの主要なEbA策は、気候変動の影響に対するコミュニティの強靭性を高めつつ、気候変動の緩和にも貢献します。私たちはすでに気候変動の影響を経験しつつあるという現実を受けて、適応の仕事も増やしていかなくてはなりません。私たちは気象がもたらすどの災害についても気候変動によってもたらされたと言い切ることはできませんが、気候変動ゆえに、今年起きたいくつかの事象がよりパワフルでより多くの被害をもたらすものになったことには疑いの余地がありません。1度以下の世界的な気温上昇が今起きているような被害を生み出しているのであれば、今後数十年間に想定される2度、3度、4度の気温上昇の世界において適応は非常に重要です。
いいお知らせは、適応についての世界的な目標を設定しようという議論がされていることです。適応の目標がどのようなものになるかは明確ではなりません。なぜなら、10億トンのCO2といった数字で測れる緩和と違い、適応は私たちの社会や経済のほとんど全ての要素で必要とされるものだからです。COPがどんな結果であっても、私たちは気候変動への適応にとても大きな力を注いでいかなくてはならないのです。


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