生産性を上げるには、木を植えよう
村長であり、商店の経営者であり、農家でもあるレラ・カビ―カンが、森林の木々と作物を混在させる農法であるアグロフォレストリーで育ったターメリックを仕分けしている様子。この農法であれば、土壌は健全に保たれ、農地開拓のために木を伐採する必要がない。 (© Conservation International/photo by Syaiful Purba)
エディターズノート: 国連食糧農業機関(FAO)のレポートによると、2050年までに増え続ける世界の食糧需要を満たすためには、生産量を60%向上させなければならないといわれています。農業はすでに森林破壊の大きな原因となっているにも関わらず、です。人類の食糧需要を満たすためには、土地を持続可能な方法で、効率的に使わなければなりません。その解決方法の一つとして期待されているのが、「アグロフォレストリー」と呼ばれるものです。アグロフォレストリーは高木や低木を伝統的な農法の中に組み込む手法で、自然や人の生活を守り、経済発展の可能性も秘めています。アグロフォレストリーの発展は、食料の6割を輸入に頼っている日本人の私たちにも関わる問題です。
違法な伐採などにより、この数十年の間で大規模な森林破壊が進んだインドネシア北スマトラ省で、ある一人の女性によってアグロフォレストリーが、彼女の住むスルング・メルサダ村に導入されました。
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北スマトラ西パクパク地方、スルング・メルサダ村の村長であるレラ・カビ―カンが耕された土地を見る時に彼女の頭をよぎるのは、彼女の子どもたちの未来です。
農家出身の彼女は、肥料や種子を売る小さなお店を経営して生計を立てる一方、村の土地1.5ヘクタールを持つ、3人の男の子の母親でもあります。「まずは米や落花生、生姜を植えることから始めました。」とカビ―カンは説明しました。「トウモロコシやターメリック、そしてバンバラマメの収穫をちょうど終えたところです。」
北スマトラのパクパク・バラット地方、スルング・メルサダ村のレラ・カビ―カンの家と商店(右) (© Conservation International/photo by Syaiful Purba)
何年もの間、カビ―カンは土地の最適利用のために、複数の作物を時期をずらして栽培する間作農法を取り入れていました。間作農法は、一つの作物に収入源を頼らなくて済むため、家計に余裕を生む傾向があります。
しかし実際、この農法は森林に悪影響を与える恐れがあります。作物が植えられると、すぐに栄養素を吸収してしまうため、農家はより肥えた土地を求めて常に移動し続けなければなりません。70%以上が森林からなるカビ―カンの村では、このやり方では森林とその上に成り立っている村の両方にとって大きな脅威となります。降水を吸収する十分な木々がなくては、洪水や地滑りの影響を受けやすい地域となってしまいます。さらに、木を切り倒すことによる大気への炭素放出は気候変動につながり、インドネシアにとって農業がさらに困難となる影響を与え続けてしまうことになります。
北スマトラのタパヌリ・セラタンにて、焼畑農業による森林開拓。 (© Conservation International/photo by Tory Read)
幸いなことに、村民たちが新しい土地を開拓し続けなくてもよい、アグロフォレストリーという環境に優しいオルタナティブな農法があります。この方法なら、既存の森林の木陰により植物が守られる中で、ゆっくりと時間をかけて成長する作物と、すぐに成長する作物を組み合わせられます。
カビ―カンのように経験ある農家や仲間の村民たちにとって、この方法はとても理解しやすいものです。それは、まさに間作をより環境に優しくした方法だからです。土の中の有機物を維持することによって、アグロフォレストリーは土地の栄養が失われることを軽減し、農家が同じ広さの土地での生産性を最大化することを可能にします。そのため、新たに森林を開拓して農地にすることも減ります。このように、農家は主な収入源としての農業の長期的な持続可能性を確保しつつも、森を水源や浸食防止、そしてその他のサービスをコミュニティーにもたらすものとして、その恩恵を受け続けることができるのです。
CIは、ウォルトンファミリー財団と共同で行っている低炭素開発を促進するサステナブル・ランドスケープ・パートナーシップの一つとして、西パクパク地方の農家と協働しながら、アグロフォレストリーの手法を取り入れるよう働きかけています。
CIのトレーニングワークショップにおいて、アグロフォレストリーの導入方法を学んだあと、カビ―カンは共にアグロフォレストリーを始めるよう、同じ村の農家である16名の女性たちへの説得に成功しました。スルング・メルサダ村では、土地の管理・保護において、女性も男性と同じ役割を持っています。収入のためにどの木が最も重要であるかということに関する彼らの知識は、アグロフォレストリーを行う上でどの木を切らずに残しておくか決める際の情報として役に立っています。
害虫に侵されたオレンジの木の葉を切り取るレラ・カビ―カン (© Conservation International/photo by Syaiful Purba) レラ・カビ―カンの農園の除草を一緒にする農家の女性たち (© Conservation International/photo by Syaiful Purba)
カビ―カンのリーダーシップのもと、農家たちは農園に2~3年目程度の作物を組み合わせながら、成木を植えていきました。また3~4か月で収穫できる、とうもろこしのように成長の早い作物も植えました。カビ―カンは、土地の養分の問題に取り組むために、農家たちに様々な種類の有機肥料をつくる方法を学ぶことができるCIのトレーニングプログラムに参加するよう求めました。その後、女性たちによって数種類の肥料がつくられ、まだ成長途中の作物に追肥されました。
カビ―カンにとって、アグロフォレストリーは子どもたちの未来について彼女の夢への答えを与えてくれます。それは健全な環境、そして利益を生み出すことのできる生活です。今日、彼女の農園にはドリアンやプテ、ジリンマメ、そして樹齢400年のオレンジの木々など、様々な種類の木が植えてあります。2016年6月、カビ―カンと女性たちの農家グループは育て始めたばかりのとうもろこしを売ることによって、はじめて付加的な収入を得ました。そのお金は子どもたちの教育や家計、そして彼女の土地で使うための作物の種子のために使われました。
「アグロフォレストリーとの出会いは、私の農業生活を変えました。アグロフォレストリーは、より良い土地利用の方法であると分かったからです。」カビ―カンはそう振り返りました。「私たちはこの農法を使うことで、今収穫するために成長の早い作物を育てるための土地も、未来のための土地も、どちらも持つことができるのです。」
※本ブログ記事は2016年10月20日に投稿されたCI本部のブログ記事を和訳したものです。
翻訳協力:中島美紗子
編集:CIジャパン
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