パーム油について知るべきこと
インドネシアの北スマトラにある小自作農パーム油プランテーションで、パーム油の中間業者に引き渡す前に、収穫した実の束を仕分けて計量する労働者たち。(© Conservation International/photo by Tory Read) |
スーパーマーケットのタブロイド紙の見出しに「あなたの戸棚、冷凍庫、そして薬箱に潜んでいる秘密の原料」と書かれるのはもっともです。多くの消費者はパーム油について聞いたことがなくても、スーパーマーケットに並ぶ製品の約半分に含まれている原料です。そのうち約80%は、アイスクリームからピーナッツバターやマーガリンに至るまで、あらゆる加工食品に使われています。それ以外ではパーソナルケア用品や掃除用品に含まれていたり、バイオ燃料に使われています。
あらゆるところに偏在しているこの製品は、絶えず、熱帯雨林の伐採や減少を引き起こすものだと捉えられてきました。そのため、多くの組織や個人レベルにおいて、パーム油のボイコットを求める運動が起こっています。しかしながら、この問題を解決するのはそんなに簡単なことではありません。ここに、パーム油に関する事実を5つ挙げていきましょう。
1. パーム油の消費は、急上昇している
世界のパーム油消費量(2005/2006-2015/2016) |
ここ数十年、世界的な植物油産業は、世界中の冷蔵庫やレストランの加工食品利用の標準化にともなって急成長してきました。この10年で需要は倍以上になったことに加えて、特にパーム油産業の成長は、インドネシアでの伐木搬出産業の拡大(パーム油を生産するアブラヤシの新たなプランテーション開拓を助長することになった)から、アメリカ・カナダ・ヨーロッパの一部でのトランス脂肪禁止(食品会社が代替品を求めることになった)に関連する政策に至るまで、複数要因によって拡大しています。
最大の消費者はどこにいるのでしょうか。インド、インドネシア、中国、そしてヨーロッパ諸国です。
(なお、パーム油は偏在しているにも関わらず、アメリカは世界のパーム油市場の約2%にしか相当しません。しかしながら、パーム油を使って製品を開発しているのは、アメリカに拠点を置く多くの多国籍企業であるということは、アメリカが影響力のある市場であることを示しています。)
2. 大部分は東南アジアで栽培されている
2015年におけるパーム油生産の上位5ヶ国 |
現在、世界のパーム油の約86%はインドネシアもしくはマレーシアで栽培されています。そこでは、450万人がその産業による収入で暮らしています。さらに数百万人―インドネシアだけで2500万人ほど―の人々が、間接的にパーム油生産による利益に頼った暮らしをしています。
パーム油の需要増加につれて、特に南米やアフリカなど、他の熱帯地域での生産も拡大しています。
3. パーム油生産は深刻な森林減少だけでなく、さらなる被害ももたらした
インドネシアの総森林被覆面積(1990-2010) |
世界でアブラヤシが植えられている18万㎢(カンボジア一国に当たる土地)のうち、60%は原生林から直接転換されたと推定されています。上図に示されているように、1990年から2010年の間にインドネシアだけで失われた森林の総面積は、ウガンダ一国に当たります。
大規模な森林農場は上空から見れば緑色かもしれませんが、地上では、かつてその土地を覆っていた森林とは程遠いものです。油ヤシを作るために、森を燃やし土地を農場へ転換することは、-さらにひどい場合には森林よりも炭素を蓄える土泥炭地の焼失や転換もーは、気候変動を引き起こす温室効果ガス排出につながるだけでなく、極度の大気汚染やオランウータンやゾウ、トラやサイなどの絶滅危惧種の生息地の減少などの形で、近くの人間や動物へのより直接的な影響を及ぼすのです。油ヤシに転換されてしまった土地でも生き残ることができるのは、森林に存在する生物多様性のほんの一部でしかないとの研究もされています。
4. しかし、パーム油はもっとも効率的に栽培できる植物油である
1平方メートルトンの植物油を生産するために必要な面積 |
アブラヤシは、同じ面積で他のどんな植物油よりも多く生産することができます。また、アブラヤシは、あらゆる土壌で生育することができ、肥料や殺虫剤も比較的少量で済み、一年中実をなすため、農家にとって魅力的な作物であるといえます。現在、アブラヤシが栽培されている土地面積、全植物油用作物栽培地の約7%ですが、全植物油の39%に当たる生産量を誇っています。
この作物の効率性は、パーム油へのボイコットが森林破壊を止められない理由を明らかにしていると言えます。もし、明日、全パーム油への需要がなくなったとしても、他の植物油への需要に取って代わられるでしょう。そうなれば、同量の油を生産するのに必要な土地を増加させ、ひいてはより多くの森林破壊や、大気への温室効果ガス放出をもたらすでしょう。
5. 持続可能なパーム油への需要は増加しており、生産側はそれに応えはじめている
認証を取得した持続可能なパーム油が生産されている面積 |
上図が示す通り、持続可能なパーム油生産は、企業や生産者、そして国がパーム油産業がもたらす森林破壊の損害に気づくにつれて劇的に拡大しています。これらの多くは、持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)によって推進されています。RSPOは、パーム油に関する全ての産業が、原生林をそのままの形で残し、コミュニティの対立を避け、土地利用や質の低下を最小限にとどめ、全サプライチェーンにおいて持続可能性を追求するようになるまで変革させることを最終的な目標としている国際フォーラムです。
様々な場所を原料の産地にもつ大きな企業が、どこから原料を調達しているのか追求することの困難さを考慮に入れると、このように大規模な製品の成長と販売に関する改革を行うことは容易ではありません。そして、RSPO認証を得ることは任意であって強制ではないので、現時点でのRSPOの成功は限界に直面してきたと言えます。しかし、たったの10年で、RSPOはすでに市場に出回る17%のパーム油を、その定める基準において「持続可能である」と認証してきました。
最終的には、この巨大な産業を変革させることはRSPOだけに課されたものであってはなりません。この取り組みを促進するため、CIは:
- パーム油生産を増加し、生活向上に関するトレーニングの実施や資金面において、小自作農家を支援しています。
- 森林や泥炭地などの重要な自然の地域保全や、サステナブル・コーヒーや他の補完的な作物の促進を含む土地利用計画など、政府が持続可能なパーム油の生産を組み込むことができるようにサポートしています。
- ウォルマート社やアグロパルマ社(ブラジル最大のパーム油生産者)などの企業に対し、どのようにRSPO基準を満たすのか、または超えてしまうのかというガイダンスを提供しています。
パーム油産業が本当の意味で持続可能になるまでは相当の時間がかかりそうですが、私たちは着実に進んでいます。
※本ブログ記事は2016年10月4日に投稿されたCI本部のブログ記事を和訳したものです。
翻訳協力:中島美紗子
編集:CIジャパン
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