研究報告:マグロ・カツオの個体群の移動が引き起こす「気候正義問題」



太平洋諸島の国と地域は、陸地面積は小さいながらも、世界のマグロ・カツオ(以下マグロで統一)漁獲量の3分の1以上を占める漁業のキープレイヤーです。

しかし、これらの島々の状況には変化が起こっています。悪い方向へと・・・

温室効果ガスの排出によって上昇している海水温は、マグロの生息域に変化をもたらし、多くの太平洋諸島の管轄外である排他的経済水域(EEZs)外へとマグロを移動させることにつながっています。コンサベーション・インターナショナルのヨハン・ベル率いる専門家チームは、マグロの個体群が2050年までにどのように移動するのかをシュミレーションし、西はパラオから東はキリバスまで、10の太平洋島嶼国と地域では、マグロの大移動によって平均漁獲量がなんと平均20%減少してしまうと予測しました。

ネイチャーサステナビリティ誌に掲載された研究によると、大規模な漁獲量の減少は2050年までに、毎年1億4000万ドルの損失を招き、島嶼国と地域の歳入の17%が失われてしまうことになると報告しています。

「現在カツオ、キハダ、メバチマグロが好む温かい水温の熱帯地域の多くは、太平洋島嶼国と地域のEEZs内です。」「けれども、このまま海水温が上昇し続けると、マグロが好む海域が国の管轄ではない、公海を含む東方へと移動してしまいます。」とコンサベーション・インターナショナルのマグロ漁業プログラムを主導するベルは話します。

「これは気候正義の問題です。」

世界的な温室効果ガス排出量における太平洋島嶼地域の割合は微々たるものですが、この地域の人びとは気候危機の最も過酷な影響をすでに受けています。

「これは気候正義の問題です。」とベルは語ります。「太平洋島嶼国と地域は、他国が自国の管轄地域でマグロを漁獲する際、入漁料を課しています。ただ、マグロが公海へとますます移動するにつれ、自国の領海で行われる漁業が減り、歳入が減ることで、マグロ漁に頼った経済が疲弊してしまうのです。」一方で、海水温の上昇を引き起こす温室効果ガスの大半を排出してきた大国は、マグロ・カツオの移動の便益を受けることになるとベルは言います。

「公海でマグロを獲られるようになれば、公海では入漁料を支払う必要がないため、裕福な国の漁船がより利益を受けられることになります。」

西太平洋、中央太平洋、東太平洋の公海でのマグロ漁は、2つの漁業管理機関の統括となっています。本研究では、国際弁護士の知見を得て、より公平な結果を得るための提言を行いました。太平洋島嶼国と周辺地域は、漁業管理機関と交渉し、魚が気候変動によって公海へ移動したとしても、しなかったとしても、EEZs内での歴史的な漁獲量のレベルの権利を保つことができます。今までと同じ量のマグロが太平洋島嶼国と地域のEEZs内に生息しなくなった場合でも同等の経済的価値を得られるということです。

しかし、気候正義の問題を避ける最適な方法は、マグロの生息域が変わらないようにすることだとベルは言います。

二酸化炭素の排出量を減らしてマグロ漁に頼る経済を守る


パリ協定のもとで世界各国が気温上昇を1.5度以下に抑えるために劇的に温室効果ガス排出量を減らすことに合意しました。この目標を達成することができれば、太平洋島嶼国と地域のマグロの漁獲量の減少は3%にとどまると本研究の著者は推定しています。

そして、世界のリーダーたちが国際的な気候会議交渉する今、これらの問題の解決には、大国がより大胆な排出量減少の目標を掲げて、気候格差を防ぐことだとベルは言います。

「 気候変動によってもたらされるマグロの再配分は、開発途上国の経済に深刻な影響を与え、マグロ資源の持続可能な管理を脅かす可能性があります。」

「マグロの再配分のタイミングと、規模をより適切にシュミレーションするためには大規模なモデリングが必要です。私たちは経済的災害を避ける時間が残されている今のうちに、警笛を鳴らしているのです。」



マグロの再配分が気候正義においてどのような意味合いがあるか調査するべきだと声を上げたのは元コンサベーション・インターナショナルの太平洋諸島地域プログラムのエグゼクティブ・ディレクターで本論文の共著者である故スー・タエイでした。
タエイの地域への貢献を記念し、コンサベーション・インターナショナルとNia Teroは太平洋先住民女性のためのSue Taei Ocean Fellowship for Indigenous Women of the Pacific(スー・タエイ海洋奨学金プログラム)を立ち上げました。ヨハン・ベルが共著したこの分野横断的な研究への貢献はモカシン・レイク基金の支援のもと実施されました。



冒頭写真:モルディブのツナの群れ (© Sebastian Pena Lambarri/Unsplash)

この記事はコンサベーション・インターナショナル本部ブログ“Shifting tuna populations could trigger ‘climate justice issue’: study" を日本向けに和訳・編集したものです。

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