炭素市場の批判は的外れ-科学者の視点



ある日の朝、コーヒーを切らしていたことに気が付きました。そこで私は、道徳的に優れた人ならするであろうことをしました。


コスタリカ行きのフライトを予約したのです。


コスタリカに着いてから、コーヒー農園までタクシーで行き、熟したコーヒーの実で袋をいっぱいにして、農家と公正な価格を交渉して、アメリカに戻りました。コーヒーの実を剥いて、精製して、乾燥させて、豆をローストして、挽いて、コーヒーを淹れて・・・3日後にはとても香ばしいコーヒーを味わいました。



・・・もちろん、そんなことはしませんでした。極めて非効率的だからです。

ありがたいことに、世界には市場があり、非効率的なコストを最小限に抑えながら(加えてフェアトレードのオプションもあります)、コーヒーを売買し、加工し、世界に出荷することができます。コーヒーの人気を見ると、この市場は非常に高く評価されています。

だから私は炭素の市場について攻撃的な人々に出会うと困惑するのです。

炭素市場の背景にある考え方は、地球温暖化の原因となる炭素を排出する企業や個人(つまりはすべての人びと)が、自主的にお金を払って「炭素クレジット」を購入・取引することで、その排出量の一部を埋め合わせるというものです。最近の報告によると炭素市場はまだ初期段階ですが、急速に成長しています。企業、科学者、政策立案者は、この市場がどんな形になるべきかをまだ整理しているところであり、より強力なルールと構造が導入され、民間セクターからの投資が更に促進することが見込まれます。

一方で、市場が提供するコーヒーを大切にしている人びとの多くは、炭素市場をあからさまに軽蔑しています。炭素クレジットは悪質な企業が環境汚染を正当化し、悪質な非営利団体が資金を追いかけ、臆病な政策立案者が厳しい決断を避けるためのものに過ぎないと主張しているのです。

これはナンセンスです。炭素市場の存在自体を攻撃するのは、論理的に考えることを怠けてしまっているにほかなりません。さらに最悪なのは、気候変動対策の進展を妨げています。

そして、私たちは早急に進展させる必要があります。

数十年前であれば、炭素市場が化石燃料削減の代替手段になるかどうかを議論する余裕があったかもしれませんが、今は違います。化石燃料の削減と炭素市場、両方が必要です。今年のはじめにアメリカの太平洋岸北西部を襲った記録的な熱波は、あらゆる手段を講じて二酸化炭素排出量を削減しないと何が起こるかを示しています。今年の8月に公開され大注目を浴びた報告書では、私たちが生きている間にはもとに戻らないかもしれない気候変動の「転換点」に地球が近づいていることが明らかになりました。

炭素市場は私たちが今必要としている2つのものを提供してくれます。

1つ目は「スピード」です。炭素市場はより多くの気候のための恩恵を、より速く、より少ない費用で大規模に提供することで、低炭素な未来へと加速することができます。

たとえば、アメリカ・カリフォルニア州のキャップ・アンド・トレード制度は、義務的な排出量削減に加え、高価な排出削減量と安価な排出削減量を交換する機能を統合し、炭素の市場価格を継続的に引き上げることで、各業界の変化のスピードを速めています。

ある予測では、地球の気候を非常に危険な基準値である摂氏2度以下に抑えるために必要な投資を可能にするには、炭素市場が2030年までに15倍以上に成長する必要があるとしています。幸いなことに、適切なシステムとルールが確立されれば、人類は正しく機能する市場を迅速に構築することができるという多くの経験があります。

2つ目は「リーチ」です。炭素市場は規制や炭素税だけでは実現できない解決策を可能にします。それは、自然の力を使って大気中の二酸化炭素を減らすことでもあります。

たとえば、中米の自給自足のコーヒー農家は、企業の化石燃料排出を止めるためのアメリカの法律には何の反応もしないでしょう。しかし、炭素市場は森林を伐採してコーヒーを生産する通常のやり方ではなく、炭素吸収力のある森林を回復させながら、シェードグロウンコーヒーを栽培することで、その農家が持続可能な生活を送るための資金を提供することができます。

もちろん新たなグローバル市場を作ること、とりわけ地球のすべての命を支える炭素の市場を作るのは、シンプルなことではありません。ですので、市場が成長する上で出てくる痛みにめげないでください。私たちは市場の力と影響力に対してオープンで楽観的であり続けなければならない一方で、共有する道徳的価値観によって市場を慎重に抑制しなければいけません。市場は手段であって目的ではなく、ニュアンスや限界を見極める必要があります。

炭素市場の批判をする人びとは、不可能を可能にした例としてコーヒーに目を向けるべきです。

コーヒー業界では長年、非持続的な農業と非倫理的な行為が行われてきました。私が所属するコンサベーション・インターナショナルは、小規模農家や世界的な小売業者などと協力して、コーヒーを世界初の持続可能で倫理的な農産物とするために取り組んできました。やるべきことはまだまだありますが、順調に進んでいます。

今度あなたが(持続可能に調達された)コーヒーを飲むときは、市場のおかげでそれを口にすることができたことを思い出してみてください。気候危機の解決には、市場が必要なのです。



ライター:ブロンソン・グリスコム-コンサベーション・インターナショナル自然気候対策シニアディレクター
カバー写真:アルトマヨ森林保護区の夕焼け。 (© Thomas Muller)
この記事はコンサベーション・インターナショナル本部ブログ“A scientist’s view: Critics of carbon markets miss the mark" を日本向けに和訳・編集したものです。


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