イベントレポート:Fashion & Biodiversity ケリングと共に考えるファッションと生物多様性


イベントの目的 Keringの想い・狙い

Keringは「生物多様性」を大切にしているファッションブランドです。ファッション産業と生物多様性は、あまり関連性がないかもしれませんが、服を製作する上で必要な繊維や染料の原材料となっていたり、デザインのインスピレーションとなっていたりします。

Keringは「私たちと密接につながる自然、そして地球の未来はひとりひとりの選択にかかっているということに気付くきっかけ」を作るために、展覧会を開催しました。そんな11/26〜11/28に表参道で行われた展覧会では、ファッションと生物多様性の「繋がり」を学ぶことができました。

本レポートでは、Keringともパートナーシップを組んでいるコンサベーション・インターナショナルでインターンをしている、佐伯が展覧会に参加した際に感じたことを伝えたいと思います。

ストーリーがあるイベント会場

「ファッションのルーツや私たちが直面してい危機」が繋がっていることを示すように、会場は「樹木の根や枝」をたどるようにデザインされていました。

展示を見ながら床に描かれた木を辿っていくと、次の展示へと導かれました。
 


Section 1 ファッションのルーツ

木の根元となる最初の展示は「ファッションのルーツ」、ファッション産業と自然の関わりが学べるセクションです。「あなたは今日、カシミヤでできたセーターを手に取りました」という文章から、カシミヤセーターがどのようにしてできるのか、原材料調達に関する情報や、自然や動物がどうしてファッション産業に取り込まれることになったのか、歴史を学ぶことができました。

Section 2 私たちが直面している危機

このセクションでは衣服がどれくらい環境に影響を与えているのかを学びます。ファッション業界は、世界全体の温室効果ガス排出量の4%への責任があると言われているそうです。衣服を製作する過程において排出される温室効果ガスだけではなく、完成してから消費者の元に届くまでの輸送の過程でも、多くの温室効果ガスが排出されています。また、衣服を作る上で欠かせない、綿花は大量の水を使用することでも知られています。なんと、綿花の生産から店頭に並ぶまでに、コットンシャツ1枚は2700Lもの水を、ジーンズ1本は3781Lもの水を消費します。私たちの生活に欠かせない衣服ですが、環境に多くのダメージを与えることがわかりました。
 

Section 3 EP & L:自然への影響をみえるようにする

EP & LはEnvironmnetal Profit & Loss Accountの略で、環境損益計算というKeringが独自に開発したものです。EP & L を使用する目的として、
  • 環境負荷の発生場所を把握する
  • 情報に基づいた決定プロセスを構築する
  • 責任あるビジネス戦略を推進する
  • 事業強化を図り、将来のリスクを管理する
  • ステークホルダーに対する透明性を確保する
といったものがあります。Keringは、このEP & Lを使用して、製作過程のどの部分で環境に大きく負荷がかかっているのか、環境への負担をなくすための改善方法などを日々考えています。KeringのEP & Lの分析によると、環境負荷の65%が原材料の調達に関係していることが分かったそうです。



Section 4 Keringの生物多様性戦略

Keringは生態系を守るために、2020年に生物多様性戦略を発表しました。この戦略には4つのステージがあるそうです。

<避ける>生態系への影響を未然に防ぐ
Keringは環境保護価値が高い地域からは、原材料としての生物を採取・捕獲しないようです。特にブラジルのアマゾン地域は、森林破壊の問題があると言われていて、Keringは生態系破壊に繋がるサプライヤーとは取引を行なっていません。

<減らす>避けられない影響を最小限にする
Keringは倫理的な調達が認証されているサプライヤーとの取引や、科学テクノロジーを利用しながら、生物多様性への影響を減らしています。

<修復・再生する>自然にプラスの影響を与える
原材料の調達先において、研究者と連携しながら生態系の修復や再生に力を注いでいます。

<変える>状況を変える行動を起こす
Keringはサプライチェーンを超えて協働を呼びかけ、他のファッションやラグジュアリー業界に変革を起こしています。Keringの会長兼CEOであるフランソワ・アンリ・ピノーが中心となって、2019年には「ファッション協定」を制定しました。現在は77社のブランドが賛同しています。

Section 5 ブランドの取り組み

Keringにはマテリアル・イノベーション・ラボと呼ばれる、新たな素材開発や問題解決法を開発する場所があります。合成染料は染色の際に大量の水を使用したり、重金属や有害な添加物である有機溶剤を使用しますが、KeringではColorfix社と共同で、動物や植物の遺伝子から色彩の情報を安全に抽出し、微生物の力を借りて新たな染料を開発しています。このように、より環境にやさしい方法を常に追い求めているのです。

Section 6 Keringの約束

具体的に目標設定をしているKering。どんな目標を立てているのか学ぶことができました。例えば、2022年までに100%の再生可能な電力を調達すること、2025年までに100%のトレーサビリティを(商品が完成されるまでに、どのようにして原材料が調達され製造され、消費者の元に届くのかの一連の流れのこと)達成すること。未来の地球環境のために具体的に取り組んでいることがわかりました。
 

印象に残った展示 



先ほども述べましたが、展覧会の1番最初に「あなたは今日、カシミヤでできたセーターを手に取りました」という文章が提示され、そこからファッションと環境の繋がりを学んでいくことは、一消費者として分かりやすいものでした。衣服は毎日欠かさずに着る物で、またショッピング欲を満たすアイテムでもあります。オシャレをすることが楽しみな人も多いです。そんなファッションと、環境、特に生態系との関係が密接であることを伝え、展覧会の参加者を惹き込むような展示の工夫が印象に残っています。

またKeringがColorfix社と共同で開発している染料に関しての展示は、新鮮で興味深かったです。微生物の力を利用して染料を開発し、またその微生物を育てるために植物や酵母、砂糖の力を利用する環境に負荷をかけない過程は、生態系を守るともに生態系を利用させてもらっているバランスの取れたアプローチだと思います。ファッション産業が環境に負荷を与えていることは知っていたのですが、実際に技術を使って、解決に向かう開発が行われていることを知ることができ、良い機会になりました。


今後取り組みたいこと

ファッションと環境問題は、SDGsの12番目のゴール「つくる責任 つかう責任」と関わりがあると思います。今回のKeringの展覧会では、Keringというファッションブランドがどのようにして「つくる責任」を果たしているのかを学ぶことができました。

展示の最後には、このようなメッセージがありました。



消費者には商品を選ぶ権利があります。各ブランドがどのような環境配慮への思い・目標を持って商品作りに携わっているのか、事前に調べて購入することが大切だと思いました。また「つかう責任」として、一度購入したものは使えなくなるまで、できるだけ長く大切に使うことができます。大学で環境問題に興味を持つようになってからは、新しい服を容易に購入することがなくなりました。ファッションは毎年トレンドがあり、つい新しい商品が欲しくなってしまいますが、一度立ち止まって考えること、購入するときはサスティナブルなブランドを選ぶことが大切だと思います。また、自分が必要でなくなった衣服は、リサイクルに回す、少し手を入れてアップサイクルするなど、楽しみ方は無限大だと思います。

ライター:佐伯栞(CIジャパンインターン)

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