2012年8月30日木曜日

「海洋健全度指数(OHI)の意義と今後の展望



Yasuです。お盆休み中に、世界の海の健康度を評価した、「海洋健全度指数(Ocean Health Index: OHI)」が、発表されました。新聞やネットニュースでも報道されていたので、目にされた人もいるかもしれません。このOHIは、CIとナショナルジオグラフィック協会、ニューイングランド水族館による研究をベースに、世界60名以上の研究者が参加して開発されたもので、この度、科学誌「ネイチャー」に発表されたものです。
インドネシアのRaja Ampat

■日本の総合評価は100点満点中の69
海岸保護や生物多様性、水のきれいさ、零細漁業の可能性など10の目標別に各国の排他的経済水域(EEZ171カ所ごとに、持続的な海洋環境の状態を100とした場合の現況を指数化したものです。総合スコアの世界平均が60点で、日本は69点で世界11位との結果になっています。
 この日本のスコアを高いと見るか低いと見るかは、意見の分かれるところかと思っています。実際、メディアやネットでの反応も「思ったよりも高くてよかった!」という意見もあれば、「低くて、けしからん」あるいは「低くて、よかった」、さらには「思ったより高いのは、けしからん!」まで、様々なものがあるようです。また、「フクシマから放射性物質を大量に放出しているのに、評価が高いのはおかしい!」というご意見も私たちのところには寄せられています。(グローバルに入手可能なデータを使っているため、放射能汚染はOHIの評価には含まれていませんし、ほとんどのデータは時期的には震災前のものになっています。)



<世界>

<日本>
食料供給
 24

 56
零細漁業の可能性    
 87

 93
海洋生産物
 40

 28
炭素貯蔵量
 75

 96
海岸保護
 73

 95
生計手段および経済
 75

 75
観光およびリクリエーション 
 10

  1
場所のイメージ
 55

 77
きれいな水
 78

 76
生物多様性   
 83

 88




グローバルスコアの総合点
 60

 69

日本の漁師
CIとして、日本の総合スコア69点、第11位をどうみているかというと・・・一言で言えば、世界平均よりも高いわけなので、他国との比較においてはそれなりにいい面もあるものの、持続可能な状態を100としている以上、日本の海が持続可能な状態までは、まだまだ取り組みが必要、ということでしょうか。

■日本が何点かは、重要でない!?
もちろん、スコアや順位に関心が集まるのは理解出来ますが、CIではOHIの意義は、スコアや順位とは別のところにあると考えています。まず、これまでは、海の状態を総合的に評価する手法や指標がほとんどなかった中で、多角的かつグローバルに評価し、比較可能な100以上のデータセットを利用して総合的な評価を試みたこと自体、より海というものを人々が理解する上で、重要な役割を果たすことになると考えています。海の状況は、世界のサンゴ礁生態系の3分の一が危機的状況にある、世界の漁業資源の3割が枯渇の危機にある(いずれもUNEP報告書)といわれるなど、陸上環境以上に危機が進行しているとも言われています。しかしながら、いかんせん海の中のことでまだまだ分からないことも多く、また目にも見えないこともあって、海洋環境の現況を実感を持って認識するのは難しいのが現実です。その中で、世界基準となる手法を開発することにより、文字通り海洋の健全度を数字で認識出来るようになったことは、今後の海洋環境の保全と利用を考える上で大きな意味を持つと思います。

次に、従来の指標の多くのように、海の自体の状態(たとえば、水質、海洋保護区の面積、生物多様性)だけでなく、「零細漁業の可能性」、「生計手段および経済」、「観光およびレクリエーション」など、人と海の関係性についての評価を試みていることです。「食糧供給」や「海洋生産物」などについても、持続的な利用の状態を100とすることで、人の関わり方も評価に反映させるようになっています。また、「場所のイメージ」というような、人びとが海に持つ主観的なイメージを科学データを用いて評価することも試みています。人と海の総合的な関わり方を評価するフレームを提言しているともいえるかもしれません。日本の「里海」の考え方に少し近いかもしれませんね。(フレームを提言しているということは、すなわち独自のデータを使えば、国内の都道府県別OHIというような評価も出来るわけです。機会があればぜひやってみたいな~。)
今後、ますます世界人口が増え(日本は人口減少が問題になってますが、世界人口は、
2050年には今日より20億人増えるといわれてます)、人と海の関わりがますます重要となっていく中で、このようなフレームを提供することの意義は高いといえます。

そして、3点目として、これが今後(データの更新状況にもよりますが)毎年更新され発表されていくということです。つまり、今回の第1回目だけの国別スコアを見ると、どうしてもランキング(すなわち国と国の比較)に目が行きがちですが、OHIの指標化されたスコアが毎年発表されることによって、対象となるEEZの健康度の変化を経年的に測ることができるわけです。海の持続可能な保全と利用に向けて、取り組みとその結果が改善しているのか、いないのかが、中長期的に明確になるところに、OHIの真の意義があると思っています。

何よりも、OHIによる海の健全度の評価を受けて、これから私たちが何をしていくかが、最も重要であることは、言うまでもありません。

■まだまだ不完全なOHI
今回の指標化では、多くの国で観光・レクリエーションのスコアが0点または1点になってしまうなど、評価手法として改善が必要な面があるのも事実です。また、全体的に先進国の評価が高く途上国の評価が低い傾向が出ていますが、それがそのまま海の状態の評価になっているわけではありません。(例えば、日本の「海岸保護」は、世界平均の73点に比べて95点と非常に高くなっていますが、これはこの目標の比較の基準年が1980年で、その頃には日本の海岸線の多くが既に開発されてしまっていたからともいえます。)

また、総合的多角的に評価したといっても、OHIで海洋の状況が全て評価できているわけでは当然ながらありません。特に、今回は国のEEZ毎に評価しているため、どの国にも属さない公海の状態や公海での人の振る舞いについては、全く評価対象になっていないわけです。(但し、人間の海洋利用は、その大部分が沿岸部、すなわちEEZで起こっているのも事実で、公海が含まれていないからといって、EEZの評価が意味ないわけではもちろん無いですが。)ご存知のとおり、わが国の国際水域での漁業については国際的な批判も多いわけですが、それらは今回の評価の対象にはなっていません。それから、日本にとって今放射能汚染への関心が非常に高いように、各国それぞれ個別の関心や事情があるわけですが、それらが必ずしも評価されていないことも、今後どのように対応していくか、考える必要がありそうです(今回は、あくまでグローバルに海を評価することが目的だったことを強調しておきたいと思います。)

OHIは今後毎年改定されていく予定なので、評価手法についても改善されていくことになるでしょう。そのプロセスに、日本の科学者や専門家が参加していくことも、必要になってくるかもしれません。

OHIは、100以上のデータセットを用いて、複雑なモデリングをするなどして、評価しているため、各目標のスコアが何を意味するのか、分かりにくい面があるのも事実です。(なぜ、日本の「観光とレクリエーション」が1点しかないの?とか。)

これからしばらく連載で、日本のスコアが持つ意味を解き明かすことを中心に、OHIの解説をしていきたいと思います。

OHIに関するCIジャパンプレスリリース:http://www.conservation.org/global/japan/regions/ocean/Pages/oceanhealthindex.aspx

OHIのホームページ(英語ですが、非常に詳細かつ豊富な情報が掲載されてますので、是非見てみてください。)