トークイベント「パヴァン・スクデフ氏と語ろう~自然と調和する世界の作り方~」
11月14日に東京大学で行われたトークイベント「パヴァン・スクデフ氏と語ろう~自然と調和する世界の作り方~」をレポートします。
パヴァン・スクデフ氏は、生物多様性と経済社会との関係を明らかにするための研究レポート「生態系と生物多様性の経済学:The Economics of Ecosystems and Biodiversity (TEEB)」の研究リーダーとして世界的プロジェクトを指揮しました。このような、包括的なグリーン経済への移行を促進させることに貢献したことが評価され今年“環境業界のノーベル賞”ともいえる、地球環境国際賞「ブループラネット賞」を受賞し、来日しました。国連環境計画(UNEP)親善大使、GIST(Green Indian States Trust)アドバイザリー創設者・CEOなど、多くの肩書きを持つスクデフ氏ですが、コンサベーション・インターナショナル(CI)の理事でもあります。
今回のイベントでは、パヴァン・スクデフ氏のほか、IUCN-Jの道家哲平氏、メディアの代表としてThink The Earthの上田壮一氏、そして、ビジネスからの視点をお話頂くためにKPMGあずさサステナビリティ株式会社の斉藤和彦氏、学生代表として、TED-UTokyoから奥部諒氏、鬼沢綾氏にご登壇頂きました。
<前半 ウォームアップセッション>
名取からは、生物多様性とは何か、について4つの生態系サービス(供給、調整、文化的、基盤)をメインに紹介しました。モノの提供、文化や知識の提供はこれら生態系サービスからきており、生物多様性や生態系サービスが健全であることで人間生活が豊かになっていくのです。しかしそれと同時に環境へのインパクトは生活が豊かになればなるほど大きくなっているのが現状です。このグラフは環境へのインパクトを示したグラフです。この点の位置をいかに右上にずらしていけるかが大切です。
3.「自然と共生した世界のためのビジネスとメディアの役割、自然資本のアプローチについて」パヴァン・スクデフ氏
エコロジカルフットプリントと人間開発指数2.「“ニッポンにいたら取り残される!?”持続可能性に向けて動き出した世界と自然資本」IUCN日本委員会 副会長兼事務局長/道家哲平氏
道家氏からは、環境保全に関するこれまでの世界的な流れ、また、IUCNの紹介、そして「自然資本会計」について話して頂きました。IUCNは主に世界遺産条約の審査、絶滅危惧種のリスト作成、オリンピックが自然に考慮できているかの管理を行っています。道家さんのおっしゃるこれまでの「岐路」とは、未来を変える3つの合意=過去を壊す3つの合意であり、その3つとは1.持続可能な開発目標2.パリ協定3.生物多様性愛知ターゲットということでした。そして、「自然資本会計=経済がお金を考えるのと同じように当たり前に環境/自然のことを考える社会」として、金融が変わってきていることについて説明していただきました。
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道家氏プレゼンテーションの様子 |
パヴァン氏プレゼンテーションの様子 |
今回のメインスピーカーであるスクデフ氏は、自然資本、ビジネス、メディアの観点から、持続可能な世界の構築のためにどう取り組んでいくことが望ましいのか、3つの大きな仕組みづくりを提案されました。一つは、「外部性を開示するルール」。事例として出たパタゴニア社のような正直でオープンな広告は技術的にも可能であるし、また自社の事業が環境にどれだけの負荷をかけているなど、計測する技術はあり、それを公開するしくみです。次に「レバレッジを制限するルール」、これは、現在のしくみでは、企業が銀行から資金を調達する際に、そのビジネスが本当に資金を割り当てられるのに適しているのかどうかについて、評価の基準がないことについてルールを作るべきだということです。例えば、大きな企業が倒産しそうになったときに、政府つまり私たちの税金で救済せねばならないことがありますが、そうした、倒産すれば与えるインパクトが大きすぎるために、救済せねばならないような事態が起こりえるのはそこにはルールが不在でからであり、社会にとって、正しく資金が割り当てられているとは言えません。また、3つめの提案は、「善」ではなく「悪」に対する税制改革が必要ということでした。現在では、法人税などはありますが、例えば、炭素排出や採掘などにもその量に応じて課税すべきであるということです。
Q1.「日本で はまだあまり浸透していない自然資本という考え方は、政策として、どのくらいの実現可能性があるのか。政府として何ができるのか。また、導入するとしたらどのような国でどのような形で導入するのが効果的か。」A.
スクデフ氏「自然資本の考え方は約40年前から存在しており、世界的なものであるため,既にTEEBはスウェーデン、ブラジル、ドイツ、インドなどで取り入れらているのです。自然資本とは、自然の価値を説明するためのエコノミックメタファーのようなもので、価値を認識し自動的に保全する行動につながります。つまり、経済的な認識はそこにいらないのです。しかし、そのような認識がされないことがあります。そのようなとき、政策立案者→国、ビジネス→消費者→バリューチェーン→ビジネスの人々へ価値を実証することが必要とされます。これらが自然資本の概念です。実際に、政府に何が出来るかといったアイディアは、既に存在しています。政府ができることとしては、企業に外部性の開示を求めることであり、これは政府にしかできないことでもあります。
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4.ダイアログ「自然の価値をいかに社会へ根付かせるか?」
パヴァン・スクデフ氏、上田壮一氏、斎藤和彦氏、奥部諒氏、鬼澤綾氏、日比保史(ファシリテーター)
今回はパネルディスカッション形式で、主に学生側からの質問をメインに進めていきました。その内の2つを紹介します。
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Q2.「発展途上国の経済成長を上げ続けながら自然資本を保全していくことは本当に可能なのか。」A.もし、森林が無くなってしまったら、自然からの恩恵を多く受け、森林に頼っている農業者が一番困ってしまいます。以下のスライドにあるように、3つの大国(インドネシア、インド、ブラジル)の貧困層が直接的に自然資本に依存しているのがわかります。このように農業者にとって、自然資本から恩恵を受け、水資源ともなっているこれらの生態系サービスは非常に大切です。実際、それぞれの国において、家庭の収入の47%~89%は自然資本からきています。これらの数字はTEEBで出された数字です。このように、発展途上国で、自然資本を失ったら、GDPの成長を止めることになります。そして、自然資本が人的資本、教育、社会資本をキープしつつ発展させていくことが出来るのです。
トークの様子 |
多くの皆様のご参加ありがとうございました。
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