地球の生命を守る 世界は遅延 ~愛知目標への進捗状況について~

Granada cross-banded tree frog in the Choco region of Colombia. (© Robin Moore/iLCP)


2010年、世界中の国が、絶滅危機を回避して地球上の生命の多様性を守る20の野心的な目標(愛知目標)に合意しました。それから6年経った今週、生物多様性条約の会議のため、交渉官がメキシコのカンクンに集まっています。目標の達成にどれだけ近づいたのでしょうか?

愛知目標は、陸域の17%および海域の10%を保護するといった具体的な目標から、生物多様性の価値に対する認識を世界中で高めるといったやや漠然とした目標までありますが、2020年を達成の期限としています。期限までに残された時間は4年。コンサベーション・インターナショナルは、4つの国際的な自然保護団体(バードライフ・インターナショナル、英国王立鳥類保護協会、コンサベーション・インターナショナル、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー、WWF)と共に、各国の計画が目標の達成に十分かどうか、実際の進捗度合いはどうかについて、20の愛知目標それぞれについて評価しました。

結果としては、多くの目標において達成に向けた進捗が見られるが、ほとんどの国で進捗は不十分であり、全体としては芳しくない、といわざるを得ません。生物多様性を守るためのリソースと政策を強化して野心を高めない限り、愛知目標は達成できません。このことは、長期的にみた人類の安定した生活をどんどん脅かしていることを意味しています。

順調な取り組みは?

締約国が条約事務局に提出することが義務付けられている国別報告書から、進捗状況を評価しました。この報告書を提出している国のうち、愛知目標の達成のために順調な進捗を見せているのはわずか5%に留まりました。手続きを進めることで達成できる目標については、多くの国で順調な取り組みが認められます。生物多様性国家戦略を愛知目標に合わせて改訂するという愛知目標17がその例です。

愛知目標11は、保護地域の面積を陸域の17%および海域の10%に拡大することを掲げています。保護地域の拡大は、各国の戦略に長年位置づけられているので、この目標の進捗状況が高めであることは理解できます。データは不十分ですが、国連環境計画(UNEP)によると、2014年現在、陸域の15.4%と海域の3.4%が保護されています。

遅れが見られる取り組みは?

約75%の国で、前進はしてはいますが、このままのペースでは2020年までに目標の達成が期待できません。さらに20%の国では、全く前進が見られないか、悪化の方向に進んでいます。

多くの国で、国内の別の目的との間で資金的リソースの競争があることが、前進を妨げる一因として考えられます。愛知目標20は他の目標の達成に必要な資金動因に関する目標ですが、この達成に向けた進捗はもっとも低く、国別報告書を提出した国の35%で全く前進が見られませんでした。この分野は、もっとも野心的で勇気ある取り組みが求められるだけに、この現状は非常に心配です。

例えば不況対策や直近の開発要求に比べると、生物多様性の保全にお金を回すのは優先度が低いと考えられるかもしれません。しかし、生物種や生態系は地球の生命を形成するものであり、私たちの生活と切っても切れない関係にあります。生物多様性のための活動を進めるには、十分で持続可能な資金にアクセスできることが不可欠です。そうすることで、自然の恵みを維持することができることを理解しないといけません。ある研究によれば、愛知目標の達成のために出資すれば、その7倍の価値がある水の供給、花粉媒介、二酸化炭素の固定などの自然の産物や機能が守られることが示されています。

これから何が必要か?

世界銀行のグループ分けに従って、国の経済状況が生物多様性のための行動にどう影響しているか調べてみました。収入が多い国(高所得国)は、低めの国別目標を立てていますが(愛知目標を上回る目標を立てているのはわずか5%)、収入が中程度か少ない国(中・低所得国)に比べ愛知目標へはより前進していました。逆に、低所得国は、より高い目標を掲げているのですが、進捗度は低いのです。

2020年までに大きな前進をするためには、高所得国は、資源動員、環境ガバナンスの向上、民間セクターなど他のセクターとの協働を進めることなども含め、国別目標の野心を高める必要があります。

高所得国は、低所得国の野心を行動に移すための技術的・財政的支援を拡大しなければなりません。二国間・多国間援助でも、低所得国の支援が優先されるべきです。2015年に合意された国連持続可能な開発目標(SDGs)は、生物多様性に関する取り組みを国家の開発計画に組み込む絶好のプラットフォームです。生物多様性や自然生態系の保全は、持続可能な開発に向けた目標と深く関係しているからです。生物多様性は農林水産業や水資源、きれいな空気などを支えているため、健全で多様な自然があることは、、気候変動に対してもレジリエンスが高いと言えます。食料、薬品その他私たちの生活に必要な様々なものについて、より多くの選択肢があるからです。

さらに、報告(レポーティング)を改善することで、順調なこと、順調でないことを皆が理解しやすくなります。各国は、成功例については共有し、他の国でも実践できるようにするのが望ましいと考えます。また、計画と実際の進捗について、正確かつ定期的な報告が求められます。現状では、どこで効果的な前進があり、どの国が大きな課題に直面しているかを把握することが非常に難しいのです。

愛知目標は、全ての国が責任を持つ世界的合意です。今から2018年の次の生物多様性条約締約国会議までの間、コンサベーション・インターナショナルはパートナーとともに、愛知目標に向けた各国の進捗についての評価を続けていきます。進捗についてより良く知ることにより、ギャップについてより早く対応できるようになるからです。

執筆: ロワン・ブレイブロック

記事原文
In protecting the diversity of life on Earth, the world is behind schedule

2016年12月8日 (訳:CIジャパン 科学応用マネージャー 名取洋司)

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