「自然資本」主義的まちづくり 下川町訪問記①

「環境未来都市『北海道下川町』で持続可能な調達を探るビジネスマッチングツアー」


少し前になってしまいますが、旧知の日経エコロジー生物多様性プロデューサーの藤田香さんにお声掛け頂き、10月3-4日の二日間「環境未来都市『北海道下川町』で持続可能な調達を探るビジネスマッチングツアー」に参加してきました。

北海道の下川町は人口3400人、鉄道も高速道路も通らない、一方で町の9割が森林という、一見厳しい条件にある過疎の町のひとつと思いがちな町です。しかし、環境未来都市、バイオマスタウン、環境モデル都市、次世代エネルギーパークなど種々の国の補助金制度を活用しながら、積極的に文字通り「自然資本に立脚した町づくり」を推進し、CIで言う所のデモンストレーション(実証)をし続けている先進自治体です。そんなわけで、前々から一度訪れたいと思ってたのですが、ついに行く機会が得られました。

行った結果は、、、期待以上でした!地域おこしというレベルを遥かに凌駕する、未来の持続可能な日本を地方から支える、まさに先進的な自然資本タウンでした!

<写真上>下川町の中心街。どこかアメリカ西部の開拓者の街のような雰囲気が流れてたのが印象的。

旭川空港からバスで北へ2時間ほど走ると下川町です。東京都23区とほぼ同じ広さがありながら人口は3400人(東京都23区は936万人ほどなので、人口密度はざっくり1/3000!)で、町の約9割が森林という町です。気候は厳しく長い冬が特徴で気温マイナス30度(!)にも達するとのことです。僕たちが訪れた10月頭も、都内はまだまだ暑い日が続いていましたが、下川町は最高気温が10度以下、最低気温は0度前後。風も強く、東京から訪れた者には「真冬並み」の寒さでした。

しかし、この豊かな森林と長く寒い冬が、環境先進都市の可能性を生み出しているのもまた事実です。

下川町の森林
ご存知の通り、日本の森林の多くは、ごく一部の手付かずの原生林を除き、植林された人工林あるいは何らかの形で人の手が入った二次林です。

下川町も、明治時代から林業が栄えたこともあり(と鉱業。最盛期には今の4倍以上の人口規模だったそうです。鉱山の炭坑資材として木材が使われ、林業は発展したそうです)、人工林や二次林が大半を占めています。一方で、森林の8割以上が国有林(全国では30%)なのも特徴ですが、戦後徐々に国からの払い下げを受けて町有林も増えています。トドマツ、カラマツ、エゾマツ、シラカバなどが主な樹種です。

 <写真上>下川町の町有林の中。よく手入れされています
<写真下>森の中では、野生の鹿の足跡も!




さて、ご多分に漏れず、下川の林業経営は厳しいものがあるようです。伺ったところでは、60年の伐期サイクルでヘクタール当たり250万円の費用(間伐や搬出)がかかり、180万円の補助金を含めて290万円のほどの収入にしかならないと。つまり、補助金なしの林業としてだけみれば、60年で100万円以上の赤字(逆にいえば、補助金を含めても1年でヘクタール当たり1万円の収益にもならない)で、補助金がなければ全く成り立たないのが現状です。

一方で、町民一人当たりの森林面積は全国値の約100倍(!)と非常に高い水準にあり、貨幣価値だけでは測れない森林生態系がもたらす豊かな恵み(aka 生態系サービス)は、極めて高いといえます。

森林生態系がもたらす自然の恵みには、木材はもちろん、木材以外の林産物(たとえばキノコなど)、バイオマス利用、水源涵養、土壌保持、治山治水、気候調整、CO2の吸収固定、生物の生息地、森林浴などの癒しやエコツーリズムなど様々な生態系サービスがあります。これらの恵みをあらゆる場面で徹底的に利用し、森林をマネタイズ(貨幣価値化)し、町の発展に繋げていこうというのが、下川町の環境未来都市の基本コンセプトです。

森林の自然資本化
人口一人当たりの面積が全国比100倍(そりゃ地方の町なら森林多くて当たり前と思うかもしれませんが、北海道全体と比べても約20倍!いかに一人当たりの森林面積が広いかお分かりいただけるのではないかと思います)という森林資源を、あらゆる可能性を追求して使い尽くして(←この森林資源の重層的な利用を林政用語で「カスケード利用(カスケードとは、小さく連なる階段状の滝を意味する)」といいますが、下川町の谷一之町長は「森をしゃぶり尽くす」と表現しておられました)町の発展に繋げようというのが、下川町の町づくりの基本戦略と理解しています。これは、まさに「自然資本主義的な社会・経済モデル」の実証/実践に他ならないと思っています。

ここで僕がいう「自然資本主義的な社会・経済モデル」は、2012年に開かれた国連持続可能な開発会議(通称リオ+20)の成果文書で言及された「グリーン経済」の定義が一番しっくりくると思っています。

すなわち「自然界からの資源や生態系からの便益を適切に保全・活用しつつ、経済成長と環境を両立させることで、人類の福祉(human well-being)を改善しながら、持続可能な成長を推進する経済システム」で、「自然界からの資源や生態系からの便益」がまさに近年「自然資本」という社会経済学用語で捉えられているところだと理解しています。

ちなみに谷町長が「森をしゃぶり尽くす」とおっしゃるのは、森が禿山になるまで使い尽くすという意味ではもちろんなく、持続的な木材利用をしつつ、立っている森林生態系が持つ他の機能(=生態系サービス。日本の行政では多面的機能と言ったりもします)を経済価値化し、それを経済社会のしくみに組み込んで行こうという取り組みです。


下川町訪問記の第2弾は、今回のツアーで見学の機会を得た様々な森の「しゃぶり尽くし」を紹介します!(やすきゅん)

<写真>町有林遠景。風が強く、冷たかったです。。

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