「自然資本」主義的まちづくり 下川町訪問記②

北海道下川町訪問記の第2弾は、下川町長が「森をしゃぶり尽くす」と表現された、森の恵みを無駄なく徹底的に使い切る、下川町流「カスケード利用」のご紹介です。

<写真上>谷一之下川町長。ツアー参加者をお迎えいただきました。

カスケード利用で無駄なく製材

下川町では、林業組合で持続可能な森林経営や木材の加工・管理の仕組みである森林管理協議会(FSC)(注1)緑の認証機構(SGEC)(注2)の第三者認証を取得し、持続可能な森林経営を積極的に進めています。主伐材から間伐材、中小径木まで無駄なく加工・製品化できる体制を民間と連携しつつ確立し、木材資源のカスケード利用を確立しています。 

(注1)FSCジャパン公式ホームページはこちら 👉 https://jp.fsc.org/jp-jp/4-fsc/4-2-fm/2226920869fm3546935388265193205720171/-07
(注2)SGEC公式ホームページはこちら 👉 http://www.sgec-eco.org/index.php? ←ちなみに僕はSGECの評議員を務めています

収益力があり民間で担えるところ(集成材加工など)は民間に任せ、行政では林業組合を支援することで中小径木の製品化(丸木材、木炭、土壌改良剤、融雪剤など)を行っています。丸木材は確か建材や建築外構でのニーズ、木炭は効率的に燃焼する良質な木炭としてBBQや業務用に需要があるそうです。土壌改良剤は、化学薬品を使わないオーガニックであり、土壌にもより良い影響をもたらすとか。融雪剤は、雪国特有のニーズですが、散布してもやはりオーガニックなので環境汚染の心配が無いと。ただし、価格面、融雪機能の面(つまりの生態系サービスの適正な貨幣価値化)でまだ改善の余地があるとのことでした。


 <写真下>下処理された中小径木の間伐材。民間では収益が上がらないそうです
 <写真上>間伐材から製材された丸木材。外構(庭)などに使われることが多いそうです
<写真下>木炭も作ってます
 <写真下>土壌改良材は、オーガニック

非木材林産物(NTFP)としてのエッセンシャルオイル

興味深かったのは、組合の加工工場の一画で、間伐材の樹から精油(エッセンシャルオイル)を精製し、アロマオイルやアロマ枕(←Want!)の商品化を行なっていること。ここも補助金を利用しつつ組合が運営していたものを2012年に株式会社フプの森(注3)として民営化し、今ではネットで全国に販売しているそうです。こういう管製スタートアップを軌道に乗り出したらスピンオフさせていくというのも下川町の自然資本主義の特徴だと思いました。
フプノ森の社長さんは、30代の女性で、赤ちゃんを背中に背負って仕事されていたのが、なんともSDGs(注4)的でとても魅力的でした。

<写真上>フプの森の精油設備。間伐木の葉っぱから精油するそうですが、量はわずかしか取れない。でも、なんとも清々しい森の香りのアロマオイルが出来上がります

(注3)フプの森の公式ホームページはこちら 👉 http://fupunomori.net/
(注4)持続可能な開発を達成するために社会、経済、環境などに関して国連総会で設定された17の目標。詳しくはこちら 👉 http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

カーボンニュートラルからの地域おこし

下川町では、製材時に出る木くず等を原料とする木質ボイラーを北海道で最初に導入し、町営公営施設(僕らが宿泊した五味温泉(注5) もその一つ。暖房は木質ボイラーが熱供給してます)や集住化集落として新たに開発された一の橋バイオビレッジ(注6)での地域熱供給システムなど、町の公共施設30+カ所のうち11カ所にバイオマスボイラーを導入しています。これで、公共施設の必要な熱量の6割を賄えるのだとか。経費的にも町の光熱費予算から年間1700万円節減されるそうです。町有の森林資源が利用され、CO2の排出削減につながり、後で紹介するように雇用も創出し、しかも町予算にも優しい(町の一般予算は53億円ほど)。このモデルは、従来、化石燃料の調達という形で町外に出ていたお金の流れを、予算を削減した上で、しかも熱エネルギー調達の対価が町内に残る、つまり町内への再投資に向かうという面で、CIが海外で実施する環境債務スワップ(debt-nature swap: 途上国の対外債務を軽減する代わりに、利払いに当てていた国家予算を自然保護に振り向けるというスキームで、やはり国外へ出て行っていた国家予算が国内の再投資に向かうということで、一石二鳥なしくみです)に通じるものです。自然資本アプローチは、このように適切に設計されれば、一石二鳥にも三鳥にもなるポテンシャルもあるのです。それを体現しているところが、下川町凄い!

(注5)下川町五味温泉について、詳しくはこちら 👉 http://gomionsen.jp
(注6)下川町一の橋バイオビレッジ公式ホームページはこちら 👉 https://www.town.shimokawa.hokkaido.jp/kurashi/kankyo/kankyou/20140221itinohashi.html)

一の橋バイオビレッジは、国の環境未来都市事業の補助金10億円を活用し、総額12億円で平成24年に建設された26戸の町営住宅を核とした新たな集落。これは、高齢化と過疎化が進む遠隔地に分散した集落を敢えて集めて移転させ、木質ボイラーによる分散型エネルギー(注7)カーボンニュートラル(注8)に暖房・給湯用熱が供給される熱エネルギー自立型集落ということになるわけです。

(注7)分散型=大手電力会社やガス会社のように一元的に広域に同じエネルギーを供給するのでなく、地域々々に分散したエネルギー供給源)の地域熱供給システムで効率的。エネルギー供給源と使用者が近いので、送致ロスが少ない(出所:三菱重工ホームページ)
(注8)カーボンニュートラル=二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量あるいは排出権取引などを組み合わせることで排出量が正味ゼロ、すなわち大気中に追加的にCO2は排出されず、気候変動への負の影響がない状態。木材は、木が成長する際にCO2を大気から吸収し固定するので、再植林などにより持続的に森林が管理されれば、大気中には追加的なCO2は排出されないので、カーボンニュートラル

ハイテク設備であるバイオマスボイラー

一の橋バイオビレッジに導入されているバイオマスボイラー2台はスイス製で、一台7000万円、最大出力550kw。原料となる木質チップに対して、出てくる灰は投入量(重量)の僅か1%。それだけ、高効率で燃焼させる最新技術が投入されてるんですね。ただし、焼却灰からは、なぜか微量の重金属が検出されていて、灰のカスケード利用には至ってないことを施設長さんが残念そうにしてました。
ところで、個人的な話になりますが、僕は自宅にアメリカ製の薪ストーブを入れて、冬場の暖房はほぼ薪ストーブだけで賄っているのですが、アメリカ製や欧州製の薪ストーブは、触媒や炉の構造などの最新技術が投入されていて、極めて効率的に、かつ高い熱量が得られるようになっていまて、極めて"ハイテク"な設備なんです。

<写真上>バイオマスボイラー施設の燃料投入口。町産の木質チップが使われて、カーボンニュートラルかつ地域内のクローズドシステム

<写真下>欧州製のハイテクボイラーの制御盤。最適な燃焼条件をコントロールし、燃焼後の排気に酸素を混ぜながら炉に戻すことで燃焼効率を高める結果、灰は投入バイオマスのわずか1%

<写真上>バイオマスボイラーで作られた熱は、各戸に供給される。送熱距離が短く、かつ送熱管が地中を通るることで、送熱ロスは最低限に

バイオビレッジ町営住宅の家賃は、世帯の収入、広さに応じて1.25.3万円。高気密・高断熱住宅(もちろん地元産の建材を使った木造住宅!因みに、下川町では、町内で家を立てる際、町内産建材を使うと、1軒あたり500万円ほどの補助金が出るとのこと。これはデカい!凄いなあ、下川町!)なので、光熱費は月6000円ほど。暖房需要から考えて、これはかなりお得!?
ただ、再生可能エネルギー導入の際によく議論になる需要のピーク時の安定供給の問題ですが、バイオビレッジでは、各戸に付けられたスマートメーターで需用量をモニターし、例えばお風呂を沸かす時間をずらしたりを住民にお願いし、ピーク管理してるそうです。必ずしも好きな時間にお風呂に入れないのは不便かもしれないけど、でもそれしきのことでカーボンニュートラルが実現できるならお安い御用ともいえないですか??それに、例えば温泉旅館で入浴時間が制限されててもそんなに困らないですよね?コミュニティの力を結集することが、自然資本主義的アプローチの鍵といえるかもしれません!

下川町訪問記、次回は最終回になります。町長と語り合った中から感じたことをまとめてみたいと思います。(やすきゅん)

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