自然資本をビジネスで換算する方法

※本記事は、 2012年6月22日Greenbizに掲載された記事です。


持続可能な開発に関する国連の会議である、「リオ+20」の会期中、私がリオデジャネイロの街を歩き回っていると、至る所で「自然資本」という言葉を耳にしました。これは進歩の兆しといえます。

簡単にいうと、「自然資本」とは地球上に残された自然資源のストックであり、人が繁栄、安全、健康、そして文化的伝統のために依存しているものです。しかし、直接消費している自然資源 (食料や動物性たんぱく質、水など)の価値は理解されやすいのに比べて、自然資本から間接的に得られる「配当」の多くは経済的に目に見えにくいものになっています。花粉の媒介や、浄水機能などといった自然の再生可能な生態系サービスは、しばしば見落とされがちです。これは世界中で共通の課題であるということを、誰しもがここリオで同意しています。

再生可能な自然資本の保全は、環境保護論者の周囲のみにある課題ではありません。自然資本をビジネス会計に組み込む方法の開発を進めてきた86人の企業CEOに聞いてみて下さい。これまでアメリカを含む57カ 国からなる企業が、自然価値を評価する施策への支援を表明し、自然が供給してくれるサービスに価値をおき、それを会計に計上することに同意しました。この取り組みは、企業および国が、自らの財務状況を評価する方法を変え、企業のサプライチェーンと国の財務状況に潜む、自然によって生じるリスクと機会を理解することを可能にします。

自然資本会計はこれらの潜在的なコストを事前に明らかにし、自然によって生じるリスクを企業が認識するのを手助けします。もしこれらのリスクが対処されなければ、財務状況に長期間影響を与えることになるでしょう。ユニリーバのCEOであり、サステナビリティ・チャンピオン[1]でもあるポール・ポルマンは、「私たちは負のフットプリントから正のハンドプリント[2]へと動かなければならない。」と述べました。
自然資本会計は、その言葉を達成するために不可欠です。

そして、いまやアフリカ以上に自然資本の課題を重要と捉えている国は他にありません。アフリカでは国民の大半が生きていくために直接的に自然資源に頼っており、さらに次の40年間でアフリカ大陸において人口が10億人増加すると推定されているため、自然資本の保全は人々の健康と福祉のためになくてはなりません。

こうした状況を踏まえ、先月CIはCIのリーダーシップメンバーと、市民団体、公的機関、そしてアフリカ諸国の10人のリーダーをボツワナのハボロネに召集しました。その成果はハボロネ宣言にまとめられています。ハボネロ宣言は、国家や、ネスレやウォルマート、アルセロールといった企業に、自然資本の会計への取込みと報告を含む5つのキーアクションを自発的に採択することを約束させるものです。

しかしながら、企業や国家の会計に変革をもたらすことは、正のハンドプリントへの道のりの始めの一歩に過ぎません。CIは、企業の環境リーダーシップの次の世代を信じ、経済学者でUNEPのアドバイザーでもあるパバン・スクデフ氏が述べた「”corporation 2020” は、気候の安定化、食料保障、清潔な水、豊かな生物多様性、そして他の生態系サービスを促進する一方で、フィールドレベルでの保全や地域のコミュニティへの経済的利益を確保するような企業や産業なのです。」という言葉を支持します。

CIは 収穫量の増加、生態系資産の保護、生活力の強化を通じて、漁師や農家、放牧民などといった小規模農家の権限を強化することを、世界中のパートナーに約束し ました。ブラジルでは、沿岸の住民は何世紀にもわたって、アブロルホス地域において漁業で生計を立ててきましたが、産業用エビの養殖、石油の掘削、そして 浚渫(しゅんせつ:海底の土砂を、水深を深くするために掘削すること)などの破壊的行為によって、その生活が脅かされています。

CIやパートナーの市民ネットワークは、コミュニティを支える価値ある自然資本がどのように、"配当”を生み出すかを実証しました。コルンバ保護区において、漁獲禁止区域と漁獲許可区域の両方を作ることで、魚数が元に戻っただけではなく、元の数以上に繁栄しました。漁獲禁止区域から魚が許可水域へと流れ込むことによって、いくつかの商業的に重要な魚が約300%増加したと、地元の漁師たちは言います。

小規模農家へのサポートは、農業の保全、アグロフォレストリー、放牧地の管理、そして生態的養殖システムなどといったマネジメントの向上を通じて、長期的な持続可能性につながります。これらは、生産量を増加させる一方で、炭素貯蔵量の増加と海洋健全度の向上などといった副次的な効果も生み出すことが出来ます。

こうした働きかけは、社会や経済に確実な影響を与えます。CIは、リオでの画期的な会議で繰り広げられてきた議論や討論の中で高まる自然資源を評価する必要性を、今後も訴えていくことが重要だと考えています。

それが私たちのこれまでのフットプリントをポジティブなハンドプリントへと変えることになるでしょう。



By Jennifer Morris


1) サステナビリティ・チャンピオン:ボストン・コンサルティング・グループが調査発表する賞で、今日世界の経済成長課題に対して、革新的で実用的なソリューションを生み出し推進し、グローバル社会に広めている組織に対して与えられる。

2) ハンドプリント:エコロジカル・フットプリントを削減するためにどれだけ行動したかを測る指標。

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