コーヒーとハチ、森林の関係

コーヒーの木の花をハチが授粉している様子。コーヒーの生育にはハチの存在が欠かせない。ハチは、気候変動に伴う気温上昇により生存が脅かされると予測されている。コーヒー栽培地域のハチの多様性は今後18%まで減少すると言われている。(©Matyas Rehak)

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エディターズノート:世界では少しずつ深刻な現実が明らかになっています。気候変動によって、世界的に需要が急増しているコーヒーの供給が危機に陥る可能性が出てきています。コーヒーを完全に持続可能な作物にするための主な取り組みから、最近発表された研究レポートでは世界で最も広く取引されている商品の一つであるコーヒーの生産が今後危機に陥ることが指摘されています。日本は、アメリカ、EU諸国、ブラジルに次ぎ、第4位のコーヒー消費国であり、この発表は見過ごすことはできません。

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コーヒー愛好家にとって、新しく発表された研究レポートは心配の種です。

気候変動によって引き起こされる平均気温の上昇により、2050年までに世界最大のコーヒー生産地域である南米のコーヒー栽培適地が最大88%も減少する可能性があるという研究結果が出ました。

しかし、私たちが普段飲んでいるコーヒーは、気候の変化だけに左右されるわけではありません。コーヒーの木の花粉を媒介するハチも重要な役目を果たしています。これらのハチたちは気候変動によってどのように影響を受けるのでしょうか?研究結果によると、ハチの多様性はコーヒーの栽培適地において8%から18%まで減少することが分かりました。そして研究では、気候変動がハチの減少だけでなく、コーヒー栽培地域における木の発育をも脅かすことが明らかになりました。

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南米のコーヒー栽培地域のうち91%は、森林から1マイル以内に位置する。ハチは一年中木々に生息しており、コーヒーが開花する時期に受粉するために畑に飛んでくるため、気候変動の影響下でもコーヒーの木を健康で生産的な作物として維持するためには、近隣の森林をそのまま保全することが必要だ。(© Neil Palmer, CIAT)

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「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載されたこの新しい研究レポートでは、コーヒーとハチ、気候変動の関連に初めて焦点を当てています。

「これまでの研究では、コーヒーやハチへの気候変動の影響は検証されてきませんでした。」と、CIのシニアサイエンティストでありレポートの共著者でもあるリー・ハンナ博士は語ります。「今回の予測を導きだすために考案した方法が、今後の森林保全や日陰栽培の調整など、適切な森林管理目標を定めるのに役に立つことを願っています。」

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 コーヒーとハチ


コーヒーとハチは、いわば砂糖とクリームのように調和した関係です。
(コーヒーにはアラビカ種とロブスタ種の2種類があります。アラビカ種は自家受粉することが可能ですが、ハチが受粉するとコーヒー豆の品質がより良くなる傾向があります。)

「もし、コーヒー農園にハチがいれば、ハチはとても効率的で受粉にも優れているので、生産性が増すでしょう。そして果実の重みも増すでしょう。」国際熱帯農業研究センター(CIAT)の研究者であり、レポートの主筆であるパブロ・インパッチェ博士は言います。「私たちは、今後コーヒー栽培としての適性が失われていくこれらの地域で、そのマイナスの変化がハチによって回復されるかどうかを知りたかったのです。」

そのため、この研究では“カップリング”シナリオを打ち立て、気候変動がコーヒーやハチに同じ方向(プラスまたはマイナス)で影響を及ぼしたいくつかの地域と、コーヒーの栽培適性は高まったが、ハチの多様性が低下した(またはその逆)地区を特定しました。
そして結論として、研究の対象となったすべてのコーヒー栽培地域は、気温が高くなった未来でも少なくとも5種のハチが維持されると予測されました。これは良いニュースです。なぜなら、コーヒーの生産性は、最低でも3種のハチが存在すれば増加することが示されているからです。

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上記は中南米のコーヒーの栽培適地が2050年までに気候変動によってどの程度失われるか、予測を示している。(© Conservation International)

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この研究では、コーヒーと森林、ハチの関係性も明らかになりました。熱帯地域で最も生息数の多いハチはハリナシミツバチ(meliponines)という針を持たないハチで、彼らは巣作りために、そして一年を通してエサを見つけるために森林を必要としています。

「コーヒーの開花時期にハチを利用するには、一年を通してハチに生き延びてもらう必要があるのです」とインバッチ博士は述べます。

南米における多くのコーヒー栽培地域が森林近くに位置するのは偶然ではありません。近年、南米のコーヒー栽培適地のうち91%が森林から1.6km(1マイル)以内にあるという調査結果が出ました。今世紀半ばまでに、97%の栽培適地が森林近くに位置するようになると予測されており、この森林とコーヒー栽培地域の近接性はさらに重要になってくるでしょう。(もちろん、それらの森林が保全されていると仮定した場合)

「この結果についてある見方をすると、コーヒーとハチは互いに持ちつもたれつのような存在だと言えるでしょう。コーヒーに適した地域は、複数の種のハチの生息にも適しています」とハンナ博士は述べます。「ハチは南米出身で、コーヒーはアフリカ原産ですが、なぜこのようなカップリングが起こるのかは、進化論上の謎です。」

そして、これはコーヒー愛好家にとっては幸せな謎です。

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気候変動の影響を受けているコロンビアのコーヒー生産地域で摘まれた新鮮なコーヒーチェリー。農家の人たちは日陰栽培をしたり、風除けを作ったり、木々でフェンス作ったりなどの策を通じて、コーヒー豆を守ることができる。(© Neil Palmer, CIAT)

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何をすべきか?


研究者らが指摘するように、気候変動は近い将来、一部の地域ではコーヒー生産を不可能にしてしまうかもしれません。これらの地域では政府や農業普及機関などが、コーヒー農家に対して他の農作物に移行するか、農業を離れて生計を立てることができるように手助けすべきでしょう。しかし、将来もコーヒー生産が依然として継続できる多くの場所では、コーヒーの木とハチの生息の適切な管理によって、コーヒー生産者が新しく気候変動へ適応をするのを助けることができるのです。

また今回のレポートでは、森林保全、コーヒー農園の周囲にある開花植物の維持、ハチを減少させる農薬の使用削減など、コーヒーとハチを守るためのいくつかの計画を提案しています。

政策レベルでは、コーヒー栽培地域を取り巻く森林を保護することにより、コーヒーが持つ気候変動への適応力、回復力を高めるための幅広い取り組みが行われています。そして、それは気候を安定させることへつながります。

スターバックスやマクドナルド、ウォルマートを含む企業は、コーヒーを世界で初めての完全に持続可能な農産物にするためのプロジェクトである「サスティナブル・コーヒー・チャレンジ」を通して、森林を破壊せず、コーヒーを生産・調達するためにコーヒー農家と協力しています。

一方で、「CASCADE」と呼ばれるコンサベーション・インターナショナルのプロジェクトを通じて、コスタリカ、ホンジュラス、およびグアテマラの300の小規模農家を調査したところ、彼らがコーヒーを植えている区画ではシェードツリーを植えていることが分かりました。そのシェードツリーは行き過ぎた気温から植物を守るだけでなく、コーヒーが必要とするハチに住みかを提供することにも役立っています。

by Allie Goldstein(コンサベーション・インターナショナル、ムーアセンター研究員)


※本ブログ記事は2017年9月11日に投稿されたCI本部のブログ記事を和訳したものです。
To weather a changing climate, coffee needs bees, trees: study

翻訳協力:菊池美紗子
編集:CIジャパン


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