森と共生するビジネス ~チョウ類飼育販売事業~

By コンサベーション・インターナショナル・ジャパン 松本 由利子

カンボジア中央カルダモン山地にあるTa Tey Leu村では、半年ほど前からチョウの人工飼育が始まっています。チョウの人工飼育?と思われるかもしれませんが、食用でもなければ、標本用でもありません。欧米では広い温室の森林空間で、歩きながら生きたチョウと触れ合うことのできる蝶園に人気があり、そうした蝶園にチョウを供給するのが人工飼育の目的です[1]


チョウは種類毎にエサとなる食草(草や花蜜)が異なり、様々な種類のチョウが生息していくためには多様性豊かな森が必要です。そのため、チョウ飼育事業は途上国の低収入家庭にとって森林伐採に代わる現金収入手段となるだけでなく、地域住民の森林保全への関心を高めることが期待されます。タンザニアなど他国では、チョウ飼育事業が保全へ貢献しているという事例も見られます。

事業化可能性調査の一環で、2019年からTa Tey Leu村の5軒の農家がチョウのパイロット飼育を始めました。全員未経験者だったにも関わらず、約3カ月後、無事蛹の生産まで辿り着き、5カ月後には最初の出荷を行うことができました。これから事業化に向けて生産量の増加や生産者組合の形成などまだまだ道のりが長いですが、初めての収入に農家のモチベーションは高まっています。特にサラットさん(女性)はチョウの飼育を始めて生活に活気が出て来ました。小さな畑しかないサラットさんは誰よりも熱心に取り組んだ結果、今では飼育が一番上達し、新しい仕事を始めたことが楽しみにもなっています。はにかみながら、しかし自信を持ってチョウの説明を行うサラットさんの姿が印象的でした。

チョウの飼育は細かい作業を毎日2-3時間繰り返すため、決して楽な仕事とは言えません。ただ、彼女のように他の生計手段を持たない零細農家には貴重な収入源となります。加えて、チョウの飼育は家の周辺で子育てや家事の合間にできること、生き物なので丁寧な扱いが求められることから、農村女性向けの仕事としての可能性があります。

カンボジアでは森林率がここ20年ほどで急速に減少しました。様々な要因が挙げられるの中、地域住民の貧困は大きな要因の1つです。チョウ飼育事業を通してコミュニティレベルでの森林保全への意識を高めていくことが、将来世代の森林を守ることに繋がっていくと期待されます。

屋内での飼育の様子
出荷用の蛹



[1] チョウは初回のみ森から採集しますが、2回目の飼育サイクル以降は飼育して成長したチョウから採卵できるようになるため、野生母体への影響は最小限に留められています。


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