「ブルーカーボン」コロンビアで進展する新たな保全の手法


熱帯の沿岸地域を囲むマングローブは気候界のスーパースターです。マングローブの密集した絡み合う根には、1平方マイル(2.59 km²)あたり自動車9万台分の排出量に当たる二酸化炭素を貯留することができます。ただ、この「ブルーカーボン」、つまり沿岸の生態系に貯留される炭素は、これまで十分かつ正確には計測されていませんでした。そのため、マングローブは炭素市場への参入が叶わず、マングローブを守るための経済的なインセンティブを得ることができず、沿岸地域のコミュニティから潜在的な収入の機会を奪っていました。

しかし今、何十年にもわたって農業、エビの養殖、都市開発などによって破壊されてきたマングローブ林の存続に大きな影響を与える変化が起きようとしています。

最近開始されたブルーカーボンファイナンスプロジェクトでは、マングローブの木が幹や葉に蓄える炭素だけではなく、数千年に渡って土壌に蓄えられる炭素も評価されています。

(©APPLE)

コンサベーション・インターナショナルのブルーカーボンプログラムを率いるジェニファー・ハワードは「ほとんどの陸域の森林では、土壌に含まれる炭素は炭素全体のわずかな割合しか占めていないため、無視されています。」と話します。「一方で、マングローブや沼地などの湿地帯に関しては、土壌が生態系の中でも最も重要で、多くの炭素が蓄えられています。もし土壌を無視するなら、せっかくのチャンスをどぶに捨ててしまうようなものです。」

コンサベーション・インターナショナルは、コロンビアの海洋沿岸研究機関(INVEMAR)や現地環境局などのパートナーとともに、コロンビアのカリブ海沿岸に位置するシスパタの11,000ヘクタールのマングローブを保全・再生するための長期的な資金調達の機会を創出しています。

科学者たちは、シンプルかつ効果的な方法で熱帯の堆積物に蓄積された炭素を測定しました。マングローブ林の中へと入っていき、特殊なパイプを使って地下1メートルから3メートルの深さから土壌を採取し、その土に含まれる炭素を研究室で分析しました。

「私たちが取り出した泥は、100年以上日の目を見ていないものでした。」とハワードは言います。「こんな見た目ですが、このブルーカーボンは、地球の気候変動に対処し、マングローブ林の破壊を止めるためにとても重要です。」

正確な土壌サンプルを得るために、コンサベーション・インターナショナルとINVEMARの現地チームは堆積物コアサンプラーを使って50センチメートルの深さまで採取し、炭素ストックと貯蔵期間を測定しています。(©APPLE)


シスパタのマングローブ林は、排出削減量を認証するプログラムとして世界で最も広く使用されている「Verified Carbon Standard(VCS)」と気候・地域社会・生物多様性プロジェクト設計スタンダード(CCBS)によって、炭素貯蔵量が正確に測定され、気候変動への便益が認められ、炭素市場への参入を果たしました。この重要なステップは、世界中の他のブルーカーボンの生態系が市場に加わるための道を開きました。

マングローブは炭素の貯蔵に加え、気温上昇の影響に対する強力な防御となります。また、海面上昇、高潮、洪水を緩衝する自然堤防の機能を持ち、沿岸コミュニティの何百万人もの人々のレジリエンス力を高めます。実際に、高潮が起きる開発途上国に関する調査では、マングローブによって、高潮の沿岸地域への影響を50%まで削減できることがわかっています。

沿岸の生態系は、地域に観光収入ももたらすこともできます。特に渡り鳥を追ったり、その地域の珍しい鳥を一目見るために遠くから訪れる熱心なバードウォッチャーを対象にしたツーリズムは有益です。

「これほどの利益をもたらすことができる生態系はなかなか他にないと思います。」ハワードは言います。「ブルーカーボーンクレジットによってこれらの生態系をより健やかにすることができれば、沿岸コミュニティはその恩恵をより多く受けられるようになります。」

シスパタでは、炭素クレジットの販売による収入は、持続可能な生活に貢献したり、マングローブを保護する土地所有者への補償として、地域コミュニティに利益をもたらします。この収入は、経済的な安定性を生み出し、持続可能なエコツーリズムプログラムなどの経済活動を地域社会に展開するために必要な初期資金にもなります。現在、コロンビアの他の2つの地域で類似のプロジェクトを実施することを検討しています。

「マングローブ林は私たちにたくさんのものを与えてくれます。風を避け、食料や資源を提供してくれます。」と、シスパタのサンアンテロ・コミュニティのリーダー、イグナシア・デ・ラ・ロザ・ペレスさんは言います。「私たちにとって、それは保護する母親のようなものです。私たちの目標は、将来のためにマングローブを守ることです」。

本取り組みは、Appleの支援を受けて実施しています。


カバー写真:シスパタのマングローブ林にて。(©INVEMAR-Fundación Natura)
この記事はコンサベーション・インターナショナル本部ブログ "In Colombia, a new way to protect mangroves takes root" を日本向けに和訳・編集したものです。

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