ハワイ -外来種の新たな敵は、「料理人」である

 


By カイリー・プライス、CIスタッフライター

ハワイ諸島では、魚介類は生活の一部となっています。しかし、今までハワイ諸島で消費される魚介類の半分以上は、高いコストをかけて輸入されてきました。

1950年代から1960年代にかけて、政府は輸入魚介類への依存を減らすために、地元で「タアペ(taʻape)」と呼ばれる外来の小さなヨスジフエダイを含めた、数種類の魚をハワイ海域に取り入れましたが、計画通りにはうまくいきませんでした。

コンサベーション・インターナショナルでハワイを拠点とした持続可能な水産物のプログラムを管理するジャナ・ヤング (Jhana Young)は、

「その後、タアペが大量繁殖し、ハワイ諸島全体に生息域を広げるとは思ってもいませんでした。」と言っています。

タアペの生息地がハワイへ定着すると、在来魚と餌を奪い合い、地元の水産業を乱れさせたといいます。

2017年の最新データによると、外来種はその土地の農作物を餌にしたり、在来種の住処を奪ったりと、世界経済に1627億ドルの損害を与えています。科学者の間では、ハワイは世界の外来種が多く集まる場所の一つと考えられており、5,000以上の外来植物や動物が、毎年数千万ドルの被害をもたらしています。

現在、地元の料理人たちは、食の安全保障を高め、地元の漁師を支援し、在来種への影響を減らすために、タアペの需要を高めるクリエイティブな方法を開発しています。

「勝つために食べる」、それが彼らの戦略だとヤングは話します。


外来種のレシピ

数年前まで、ハワイのレストランでタアペが使用されたメニューを見つけることは、難しいことでした。

「漁師の間で、タアペは、たまたま網に引っかかる魚とされていて、海に投げ返されるか他の魚を獲るための餌として使用されるゴミのような魚と認識されていました。」

「もしタアペがそのまま捕獲された場合は、地元の人々は丸ごと素揚げにして、醤油で食べています。」

コンサベーション・インターナショナ・ハワイは、2020年にオアフ島を拠点に活動する非営利団体のシェフ・フイ(Chef Hui)と連携し、地元の漁師や料理人、レストランオーナー、水産流通業者に向けて、この厄介とされてきた外来魚であるタアペも美味しく食べられるということを伝える活動を始めました。

ハワイの食卓にタアペを届けるための活動の一環として、シェフ・フイの協力のもと、2021年の10月には5つの地元のレストランがタアペをディナーのメイン食材として使用して、タアの認知度を高める「シーフード月間キャンペーン」を実施しました。100人以上が参加し、タアのフィッシュケーキ(すり身の揚げ物)をフレッシュな柑橘類と合わせてセビーチェ風にしたり、蒸してパスタに混ぜたりと、様々な調理法でタアペを楽しみました。

TAʻAPE DISH © CONSERVATION INTERNATIONAL HAWAIʻI


「おいしくて、栄養があって、手頃な値段で、しかも遠洋漁船がなくてもすぐに穫れるような食材は他にありません。だから私はタアが大好きなんです。」と、マウイ島のパイオニアイン(Pioneer Inn)にあるレストラン「パパアイナ(Papa‘āina)」のオーナーシェフで、アメリカのリアリティ番組「トップ・シェフ(Top Chef)」にも参加したことのあるリー・アン・ウォン(Lee Ann Wong)は語っています。「タアの柔らかくてほろほろした食感は、湖の魚にとても似ています。」

タアペを持続的なシーフードとして広める活動は、地元のシェフであるマーク・グーチ・ノグチ氏(Mark “Gooch” Noguchi)とクリスティン・バンチャン・ムーン氏(Kristene “Banchan” Moon)が主催するオンラインクッキングシリーズから始まりました。このシリーズの一環として、地元の25世帯が無料でタアペを受け取り、キッチンで自分たちの腕前を試しました。現在では、島内の30以上の企業やレストランがこの外来魚の調達に取り組み、タアペをメニューに載せたいという要望が高まっています。

「私たちはタアペの存在を広める活動を通して、私たちを取り巻く環境や生態系のもろさをもっと意識するためのムーブメントを起こそうとしています。食を通して伝える以上に良い方法があるでしょうか?」とノグチ氏は言います。


海から食卓へ

この新しいメニューの恩恵を受けるのは料理人だけではありません。もしタアペの市場価値がもっと高まれば、より多くの漁師がタアペを獲るようになるので、島の経済を活性化させ、漁獲量を高めて、サンゴ礁をすみかとする他の在来種の負担を減らすことができます

「もしホテルやレストランなどの賛同を得てタアぺを高級食材の1つとして紹介することができれば、より多くの漁師を呼び込むことができるでしょう。」と、ハワイの商業漁業者のアダム・ウォン氏(Adam Wong)は言います。」「地元の漁業コミュニティとレストランをつなぐことで、漁師には安定した収入源を、シェフには持続可能的なシーフードの供給を確保することができます。」

「あなたが口にする食べ物がどこから来ているのかを知るだけで、その違いを味わうことができるのです。

食事を楽しむ人々は、地元の経済やコミュニティを支えていることを実感しながら、より気分良く食事をすることができます。」

さらに良いこととして、タアぺを購入して食べることで、特にコロナ禍では、ハワイ中の地域が輸入に頼らず、自給自足できるようになるかもしれません。ハワイ州水産資源局によると、去年と比べ、商業用としてのタアぺの漁獲量は35%増加しました。


TAʻAPE DISH © CONSERVATION INTERNATIONAL HAWAIʻI

環境と調和するシーフード

ヤングにとって、外来種を中心とした食生活というコンセプトは新しいものではありません。

「ハワイで育った私は、常に外来種とその影響について学んできました。父親から外来種である野生の豚や鹿の狩猟方法を教わり、今では毎週のように食べています。」

漁師でありアーティストでもある彼女の父親は、1980年代に捕まえて餌にしたタアぺの絵を描きました。「この絵は、今ではタアぺの存在を広める運動のインスピレーションの一つとなり、私たちの多くが共有する根強い漁業文化を思い起こさせてくれます。」

ヤングは、料理やディナーイベントを企画するのに加え、ARアプリやインスタグラムのフィルターを開発にも協力し、タアぺがどんな魚なのかをユーザーに見せたり、食事に取り入れる方法を紹介するための支援も行ないました。また、彼女はハワイ州全体を対象にした、オンラインの仮想空間で釣りと料理のチャレンジを行う「Virtual Taʻape Throw Down」を企画、実施し、釣ったり購入したタアペを使った料理を30品以上投稿した住民に賞品を授与しました。

「より多くの人々が、持続可能性と自分たちが食べるものとのつながりを優先するようになりました。」

「この取り組みは、ハワイの地元の人々や観光客に、地元の食料安全保障を高め、地元の漁師を支援し、海洋資源を回復するためのおいしい方法として、タアぺを食べることに関心を持ってもらうことに焦点を当てています。」


カバー写真© BRIAN D. GREENE
記事翻訳:CIジャパンインターン 佐伯栞

この記事はコンサベーション・インターナショナル本部ブログ “In Hawai’i, invasive fish finds a new foe: chefs " を日本向けに和訳・編集したものです。

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