フィリピン-気候変動の影響で脅威にさらされるウミガメ保護区


© JEFF YONOVER 


by メアリー・ケイト・マッコイ 

 

フィリピンのある小さな島では、漁師たちとアオウミガメは、何とか互いの暮らしを邪魔せずに、同じ場所に暮らしています。 

しかし、以前はそうではありませんでした。長年にわたり、絶滅が危惧されるこの草食性の生き物の肉や卵食用として狙われ、その個体数は激減していました。 ハンナ・レイエス・モラレス(Hannnah Reyes Morales)氏がニューヨーク・タイムズ紙に報告したところによると、この生物の個体数は、地元コミュニティと自然保護活動家の間で行われた話し合いの末に、ゆっくりとそして着実に回復したといいます。



GREEN SEA TURTLE IN THE PHILIPPINES. © KEITH A. ELLENBOGEN



しかし、40年間もの年月続いてきたアオウミガメとそれを支える生態系の共生は、気候変動という人が引き起こした新たな課題に直面しています。 
 
アポ島は、「海のアマゾン」と評されるほど、原生の自然生態系が残された広大な海洋保護区であり、周辺の海域には約400種のサンゴが生息しています。そして、生物多様性の楽園ともいえる島には、主に漁師など約1,000人の人々が暮らしています。 
 
今でこそ、この海洋保護区は、天然資源に依存する地域住民のニーズを損なうことなく世界的な目標を達成するために求められる対応事例の一つとみられていますが、かつて絶滅の危機に瀕しているアオウミガメを保護するために保護区を設置するという話が持ち上がったとき、漁師たちは自分たちの生活を守るために猛反対したのです。 
 
「自分たちの島が奪われるかもしれないと思ったことを覚えています。」と、アポ島の漁師であるレオナルド・タバネラさんは、ニューヨーク・タイムズ紙に語っています。「もし、私たちが漁をすることができなくなってしまったら?と考えたのです。」 
 
何年にもわたる議論の末、漁師たちがほとんど利用しない区域に禁漁区を設けるという妥協案が出されました。魚が保護区内で成熟し、そこから合法的かつ持続的に漁獲できる海域に移動するという波及効果を見越したものでした。 
 
その禁漁区は、ウミガメや他の種の繁殖を可能にし、生き物たちがうまく生育するようになりました。10年以内に魚の量は3倍に増え、漁師と環境の双方に利益をもたらしました。魚が増えたことで、アポ島はダイビングとシュノーケリングに最高のスポットとしても知られるようになったのです。 

アポ島の海洋保護区は何十年もの間、外部からの資金援助をほとんど受けずに、地元の漁師たちの手によって発展を続けてきました。しかし今、気候変動がまるで暗雲のように地域コミュニティに不安をもたらしています。 
 
1970年代からアポ島を訪れている海洋生物学者、アンヘル・アルカラ(Angel Alcala)氏は、海水温の上昇によってサンゴや魚の幼生の死滅が加速し、台風の影響も悪化し続けるだろうとニューヨーク・タイムズ紙に語っています。 
 
「以前は10年から15年に一度しか台風は来ませんでしたが、今では4、5年に一度、台風がアポ島を襲っています。」 
 
また、近年、海水温が高すぎるためにサンゴが共生する藻類を失った結果、白化する現象が発生しており、サンゴ礁がダメージを受けています。白化したサンゴは、より大きなストレスを受けるようになり、死滅してしまう可能性が高くなります。 
 
気候変動と汚染の影響で、地球のサンゴ礁は今世紀末までに全滅するとする研究報告があります。しかし、コンサベーション・インターナショナルのジャック・キッティンジャー(Jack Kittinger)グローバル漁業・養殖業担当責任者)を含む海洋科学者グループの研究には、そうした未来を変えることは可能だということを示しています。 
 
サンゴ礁を守るためには、乱獲や汚染など人間活動によるサンゴ礁の劣化を未然に防ぐ必要があるとキッティンジャーは言います。そうしなければ手遅れになりかねません。 

サンゴ礁は、さまざまな生物のすみかです。また、世界 99 の国と地域で 600 万人以上の漁師たちの生計を支え、沿岸地域は、食糧安全保障、沿岸保護、エコツーリズムなどへ貢献しています。 
 
現在アポ島で行われているような、海洋保護区と禁漁区域を地域で管理するという取組みは、他のほとんどのコミュニティにとっても、サンゴ礁の回復力を高めるための最良の保全手段の 1 つといえるでしょう。 

実際、30%の海洋を保護することで、世界の年間漁獲量を800万トン増加させ、気候変動による最も深刻な海洋への影響を抑制できるとする研究結果もあります。 
 




本記事は、CI本部スタッフブログ「https://www.conservation.org/blog/news-spotlight-a-sea-turtle-sanctuary-has-thrived-for-40-years.-climate-change-could-change-that」を日本向けに翻訳・編集したものです。



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