KBA寄稿レポート:日光を訪れて①


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今回の記事は、「普通の大学生がKBA(生物多様性重要地域:Key Biodiversity Area)を訪問して自然との関わりを考える」というコンセプトで、寄稿していただきました。
文・写真=福田祥宏:東京外国語大学4年、編集=横山翔:慶應義塾大学4年。

当ブログは「専門家による情報発信」を特徴としていますが、多くの人々にCIの活動をより一層ご理解いただくため、実験的な試みとして掲載することになりました。いつもとはひと味違うCIブログをお楽しみ下さい。
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■自然と文化が調和する日光


梅雨を感じさせるどっしりとした雲の間で見え隠れする日差しが差し込む、6月初旬の栃木県・日光。たった2日間ではあるが、初めての日光滞在で見出した2つの魅力。

1つは「文化」。
東照宮、二荒山神社、山輪王寺から成り立つ世界文化遺産、「日光の社寺」を誇る、日光市街地。そこでは、先人たちが残し、今なお色あせない人々の営み、文化を楽しむことができる。

そしてもう1つは「自然」。中禅寺湖や竜頭の滝、男体山や戦場ヶ原などの自然が残る、奥日光。豊かな自然の中で人々と出会い、交互に繰り返される喧騒と静寂に耳を澄ます。

全身で文化と自然の呼吸を感じられる場所。それが日光だ。




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■【文化】山岳信仰が支える日光の社寺


現在日本に16件ある世界遺産のうち、「日光の社寺」は8番目の世界文化遺産として1999年に登録された。とりわけ東照宮の名前をよく聞くが、実は二荒山(ふたらさん)神社と輪王寺(りんのうじ)をあわせた3つの社寺が、「日光の社寺」として世界遺産に登録されている。


二荒山神社と輪王寺は8世紀末に仏僧・勝道によって開かれた。仏教の修行には山籠りが必要とされる。そこで、山岳信仰と仏教が結びついたそうだ。自然(山)に対する人々の信仰が元となって、日光の「文化」を象徴する数々の社寺が生まれた。そう考えると、「文化」と「自然」を分けることなどできないのかもしれない。


山岳信仰とは、山を神そのものとして、あるいは天空から神や先祖の霊が降り立つ神聖な場所として崇めることだ。山の壮大な姿を見ると、人々が心のよりどころとしていたことも納得できる。また、山は水源地でもあり、生活に必要な水を昔から与えてくれている。国土の70%が山々で覆われていることもあり、特に日本人はこうした山の恩恵を実感しやすかったのだろう。各地で山岳信仰が生まれたとのことだ。

日光では、日光三山と呼ばれる男体山(なんたいさん)・女峰山(にょほうさん)・太郎山を、それぞれ父・母・子に当てはめて信仰してきた。仏や神も重ね合わせて、それぞれの山には3仏(千手観音・阿弥陀如来・馬頭観音)と3神(大己貴命・田心姫命・味耜高彦根)が祀られている。日光の文化は、日本古来の神道や大陸から伝来した仏教と結びつくことで発展してきた。



他方、東照宮は17世紀に幕府の莫大な資金を元手に造営された歴史を持つ。

「これほどの規模の社寺を建設できる権力、その権力への忠誠、そして職人の技。この3つがあって、今日の東照宮がある。」

そう語るのは、日光ユネスコ協会の方だ。山岳信仰をベースにした輪王寺・二荒山神社とは別に、東照宮には江戸時代の平和・安定への願いを込め、徳川家康が神として祀られている。神としての家康はどのような眼差しをもって、現代の日本を見つめているのだろうか。








■猿との共存

見ざる、言わざる、聞かざる。東照宮の表門をくぐり、左手に姿を現す神厩舎(しんきゅうしゃ)には有名な3匹の猿の彫刻が飾られている。なぜ猿なのか。神厩舎が元々馬小屋であり、猿が馬の病気を治すという言い伝えに由来する。

実はこの3猿、8面に渡って展開されるストーリーの1面に過ぎない。

全体のテーマは「一生」。猿に重ねて、人の一生が描かれている。子の誕生に始まり、思春期を経て自立、最後には自分も親として子の誕生に立ち会う。「見ざる、言わざる、聞かざる」の3猿は子猿への道徳教育を表現している。子どもの頃は、悪いことを見ず、言わず、聞かず、というわけだ。日光三山と同じように、ここでも自然(動物)に家族を見立てている。

日光と猿の縁は、彫刻だけに留まらない。日光駅前で多くの旅人のより処となっているゲストハウス「巣み家」のご主人が、最近の猿事情を話してくれた。

「つい何日か前にも、近くのみやげ屋さんに猿が出てさ、食べ物を盗んでいったらしいよ。」

後で調べて分かったことだが、森林伐採等の影響で、元来の餌場である森が減少したのを背景に、ニホンザルは食べ物を求めて人里に下りてきたそうだ。観光客が猿たちに物珍しさで餌付けしてしまい、味をしめた猿たちは、食べ物が入った袋をさげた人々やみやげ屋を襲撃するようになった。

餌付け禁止の徹底とみやげ屋の「自衛」により、その被害は減少しているとのことだが、未だに人と猿の抗争は続いている。猿たちだって生きるために必死なのだろう。森林伐採で住処を追われ、力任せに撃退されてはたまったものではない。とはいえ、猿を野放しにして商品が奪われてしまっては、おみやげ屋さんだって商売にならない。

17世紀の昔、東照宮に飾られた猿の彫刻は、かつて馬小屋を病気から守ってきた。
21世紀の現在、人と猿が共存共栄することはできないのだろうか。

いや、猿だけではない。私が知らないだけで、森林伐採の問題は、環境の問題は、もっと幅広く、深いものなのだろう。きっと、森林伐採の中心にいた人たちも、当初は何一つ気付かなかったのではないか。だとしたら、今まさに、私たちは知らないうちに未来の問題を作り出しているのかもしれない。


先人たちの営みや思想を、数百年経った今でも、私たちは寺社を通して感じることができる。日光の社寺は、過去と現在、そして未来に想いを馳せる時間と空間を、今日の私たちに提供してくれている。




⇒KBA寄稿レポート:日光を訪れて② に続く
http://ci-japan.blogspot.com/2013/07/KBAnikko2.html



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日光周辺は生物多様性重要地域(KBA)の1つです。その他にも重要地域は日本中に存在しており、コンサベーション・インターナショナル・ジャパンでは、KBAを多くの人々に知っていただくための普及活動を行っています。

KBAでは、皆様からの自然写真を募集しています。KBAの近くに住んでいる方や旅行等で訪れたことがある方はぜひ写真をご提供ください。KBAについて詳しくは下記サイトをご覧下さい。

特設サイト「KBA 〜私たちが残したい未来の自然〜」

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