2013年7月25日木曜日

KBA寄稿レポート:日光を訪れて②

⇒KBA寄稿レポート:日光を訪れて①
http://ci-japan.blogspot.com/2013/07/KBAnikko1.html


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今回の記事は、「普通の大学生がKBA(生物多様性重要地域:Key Biodiversity Area)を訪問して自然との関わりを考える」というコンセプトで、寄稿していただきました。
文・写真=福田祥宏:東京外国語大学4年、編集=横山翔:慶應義塾大学4年。

当ブログは「専門家による情報発信」を特徴としていますが、多くの人々にCIの活動をより一層ご理解いただくため、実験的な試みとして掲載することになりました。いつもとはひと味違うCIブログをお楽しみ下さい。
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■自然とは何かと考える(いろは坂・中禅寺湖)


日光市街地と奥日光を結ぶ、「いろは坂」という急カーブが続く山道がある。上り方向には20のカーブが、下り方向には28のカーブがあり、それぞれのカーブに「いろはにほへと・・・」の歌順でひらがながあてられている。眺めの良いビューポイントでもあり、猿が観光客を襲うスポットでもある。


そのいろは坂を越えると、眼前に青々と広がるのが中禅寺湖。中禅寺湖は、2万年前に男体山の噴火によって出来たとされる湖だ。人工湖を除けば、日本で最も標高の高い場所にある。


今回ご縁あって、「せからん」(世界遺産をランしよう!)というイベントに参加して湖畔を走った。市民ランナーによる社会人サークルが、日光ユネスコ協会の協力を得て実現した企画だそうだ。

3つの「らん」(走るRUN;らん)(学ぶLEARN:らーん)(観覧:かんらん)を通して、世界遺産や周辺地域を知ろう、世界遺産と関わろうという趣旨で行われている。


中禅寺湖畔は足場の整備された木陰が広がっており、歩くのにも走るのにもちょうどいい。山のほうから降りてくる風が肌に心地良い。鳥の鳴き声が耳に心地良い。


右をみれば、中禅寺湖でヒメマス釣りに興じているたくさんの釣り人が目に入り、左をみれば、満開の山つつじが緑の中で生える。日の差し込み方で赤いつつじは微妙にその表情を変えたし、足元に広がる木々の陰影にも、そのひとつひとつに個性があるようだった。どこに目を向けても退屈することはない。


しばらく進むと、思わず足を止めてしまう光景が目に飛び込んできた。


そこに居たのは、大きなキャンバスに、静かに筆を走らせるおじさんだ。そうか、人によって自然は描く対象になるのだ。同じ風景を私とはまったく異なる視点で捉えるおじさんの存在に、妙に感心してしまった。

市民ランナーのお兄さんたちはマラソンを通して自然と触れ合う。
釣りに興じるおじさんたちはヒメマス釣りを通して自然と触れ合う。
並んで歩くカップルは満開の山つつじを楽しんで自然と触れ合う。

普段は意識をしていないけれど、人と自然はこんなにも触れ合っているものなのか。では、自分にとって、自然とはなんだろう。少なくともカメラを構えているときの自分にとって、自然は切り取る対象だ。そして、世の中のことや自分の自身の生き方を考えるきっかけでもある。さて、あなたにとって、自然とはなんだろう。



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■日光に恵みをもたらす奥日光


中禅寺湖の北西、日光白根山から流れてきた水が湯ノ湖を満たす。湯滝を経て湯川が南に下り、戦場ヶ原を潤し、竜頭の滝を駆け抜け、中禅寺湖に流れ込む。最後には東に流れて出て、日光市街に水を供給していく。奥日光の山と湖が、日光に豊かな水の恵みをもたらしているのだ。

この湯滝から竜頭の滝までが、1時間程度のハイキングコースとなっている。遊歩道が整備され、奥日光の自然を味わいながら、散策することができる。



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竜頭の滝


竜が駆け抜けていくような姿をしている竜頭の滝。ある程度の高さから水が流れ落ちるような滝とは異なり、ごつごつした斜面をはうようにして水が滑り落ちてくところに特徴がある。この斜面は、男体山の火山活動で吐き出された石流によって形成されたのだ。このことは、岩の表面に空いている無数の穴がよく示している。

山岳信仰に端を発した社寺にせよ、中禅寺湖のような自然にせよ、日光という地の美しさは、太古の男体山の火山活動に支えられている。火山活動と言うと、自然災害としての物騒なイメージを思い浮かべがちだ。一方で、火山活動は大地を形作り、風光明媚な景色を与えてくれる。コンクリート街の忙しい毎日ではなかなか実感する機会がない。



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カッコウと春ゼミ


ハイキングコースは「音」に事欠かない。カッコウカッコウと、あちこちから誘うように鳴く声を全身に浴びる。森の空気も足取りも軽やかだ。ところが一転、カッコウの声が消えた後の静寂は、森の荘厳さを際立たせる。1000年以上前、同じように私たちの先祖は森や山に畏敬の念を覚えたのだろうか。

だが、そんな静寂もつかの間、「ゲエーゲエー」とカエルのような声が騒がしく鳴きたてる。この声の正体は何だろうか。その答えを教えてくれたのは近くで休憩していた老夫婦だ。

「この鳴き声、カエルじゃなくて、春ゼミさ。」

春ゼミ。セミという生き物は夏の風物詩とばかり思っていたが、春に鳴くセミもいるのだ。日光での新発見である。この春ゼミ、温度などの条件によって、一斉に鳴き始めたり鳴きやんだりする。カッコウがさえずっていた時は、きっとまだ少し寒かったのだろう。


今ほど記号的な暦や時間にとらわれていなかった頃には、花が咲いたり、この春ゼミが鳴き出したり、自然が発するサインを元に季節の移り変わりを捉えていたのだろうと想像する。ちょっと不気味な鳴き声を発する春ゼミは、きっと人々に春の知らせを運ぶ役割を担ってきたに違いない。そう思えるほど特徴的な声だ。

しかしこの春ゼミ、生息地である松林の減少や農薬の散布により、その数が減ってきている。カエルのような奇妙な鳴き声を発し、春を知らせるこの情緒深いセミたちの声を、私たちの子どもたちは果たして耳にすることができるのだろうか。”生き物の絶滅”が、身近でも起きているのだと実感し、寂しさとむなしさが入り混じった形容し難い感情が涌き上がる。

たまにニュースで流れてくる、絶滅危惧種の問題。頭では分かっていても、規制とか法律とか生物多様性とか環境保護とか、難しい言葉で何となくまとめてしまうだけで、自分とは縁のないどこか遠くの話だと、心のどこかでそう思ってしまっていた。失われつつある生き物と実際に対面して、ようやく自分の言葉で話せるようになった。生き物のために自分ができることは限られているけれど、まずは、自分の言葉で伝えてみようと決めた。


⇒KBA寄稿レポート:日光を訪れて③に続く。

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日光周辺は生物多様性重要地域(KBA)の1つです。その他にも重要地域は日本中に存在しており、コンサベーション・インターナショナル・ジャパンでは、KBAを多くの人々に知っていただくための普及活動を行っています。

KBAでは、皆様からの自然写真を募集しています。KBAの近くに住んでいる方や旅行等で訪れたことがある方はぜひ写真をご提供ください。KBAについて詳しくは下記サイトをご覧下さい。

特設サイト「KBA ~私たちが残したい未来の自然~」

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