“環境保全金融”とはなんだろう?

パタゴニア アルゼンチン(© Art Wolfe/ www.artwolfe.com

エディターズノート:「気候変動適応」から「生態系サービス」まで、環境専門用語はいたるところで見られます。CI本部のブログ、「ヒューマンネイチャー」では、そうしたよく見られる業界用語について、”What on Earth?”シリーズで、わかりやすく解説しています。
今回は、少し難しく聞こえるけれど、自然保護の最後の砦となる可能性のある「環境保全金融」を取り上げます。

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Q.「環境保全金融(コンサベーション・ファイナンス)」とはなんでしょうか?

「環境保全金融」とは、一般的に環境保全のための資金を調達する金融メカニズムのことを指しています。


Q. なるほど。しかし、そもそもなぜ環境保全にお金を払う必要があるのですか?

簡単に言えば、環境保全というのは、国やコミュニティーが数ある選択肢から選ぶ経済的な意思決定の一つであるということです。たとえば、もしあなたが熱帯雨林を3000坪分持っていたとします。その土地をそのままにしておいては、収入など暮らしを支えるものは何も生み出さないでしょうから、材木として木を売り、農地にするかもしれませんね。それは、短期的にはお金になるかもしれませんが、森が持つ、水源としての機能や大気や土壌の安定など、人々の生活基盤である自然生態系を切り崩すことは、長期的にみれば、そこに暮らし続けることを難しくさせてしまうことを意味します。

環境保全金融は、森などの自然生態系を伐採して木材として売って得られる経済的価値よりも大きな価値のインセンティブを設け、森林を開拓して収入を得る道以外の選択肢となるものです。
環境保全金融は、その土地に暮らし、自然の恵みから生活の糧を得ている地元住民に考慮しながら、生態系の状態を維持する、強力な経済的インセンティブを作ることができる仕組みなのです。

Q. インセンティブとはどのようなものですか?

インセンティブは、補助金、融資、債券、信託資金、スワップなどあらゆる形を取ることができます。多くの金融商品を”グリーンな”目的の投資へ変えていくことができるのです。さらに、インセンティブは金銭以外でも、農業や教育、健康、もしくは他のニーズへの支援という形を取ることもできます。

Q. 事例を教えてください。


以下のような3つの事例があります。

  •  CIは、エクアドルにて、土地の所有者が森を伐採しないように手当を出すソシオ・ボスケ(Socio Bosque)という政府プログラムを実現させました。これは、最小の経費で貧困を減少させるだけでなく、数千㎢もの森を救いました。
  • CIが事務局を務める、クリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金(CEPF)は、地球上で最も生物多様性に富んでいるにもかかわらず、危機が迫っている生物多様性ホットスポットを守るために、非政府や民間組織に助成金を提供しています。
  • 環境債務スワップという手法は、途上国が特定の森林を守るという約束の元、対外債務を肩代わりしてもらうことを可能にします。

Q. では、そういった資金はどこからやってくるのでしょうか?

ほとんどの資金は、慈善基金、政府、国際機関などからきています。機関投資家などから集められる民間の資金は、「グリーン・ボンド」の例外を除いて、環境保全金融にはなっていません。


Q. それはなぜですか?

それは投資家にとって、投資するメリットが明らかでないからです。専門家に説明してもらいましょう。

CIの環境保全金融担当バイスプレジデント、アガスティン・シルヴァ二は、「ほとんどの開発途上国において、現在の環境保全プロジェクトは、投資家にとって経済的な観点からは実行可能な選択肢ではないのが現状です。」と言います。「たいてい割に合わないからです。環境を保全しながら、利益を生み出すキャッシュ・フローがありません。人が自然を嫌って森林破壊や環境悪化が起きるのではないのです。自然を壊すことがお金になる唯一の方法だと考えられているからです。私たちはこのギャップを埋める必要があります。」


Q. そのギャップはどのようなものなのでしょうか?

経営コンサルティング会社であるマッキンゼーによる近年の分析によると、国際的な保全にはおよそ3000億ドルの資金が必要だということが明らかになりました。現在、国際的に環境保全へ使われているのは520億です(そのほとんどが裕福な先進国のお金です)。これでは、気候変動や森林破壊などの地球規模の問題に対応するのに必要な金額には全く足りません。

「このギャップを埋めるには、ほかの資金源を使う必要があります。」シルヴァニは言います。「公的資金や慈善資金も増やす必要がありますが、それでも足りません。だから、何兆ドルもの資金を手に入れることのできる機関投資家の民間資本をどのように活用できるようにするか、考える必要があるのです。」


Q. 投資家をためらわせているのは何なのでしょうか?

キャッシュ・フローがないこと以外に、ですか?ほとんどの場合、リスクを嫌うからです。

環境保全金融の世界に基準や確実性がないことで、何兆ドルもの民間資本はその他へ流されていきました。「金融市場を再調整すれば、資本をグリーン経済に導くことができるという兆しはあります。民間投資を開放するためには、そのような仕組みを後押しする政策的なアプローチが必要です。」2014年の森林に関するハイレベル・サミットにて、クレディ・スイス証券のマネジング・ディレクター兼バイス・チェアマンのマーク・バローズは、政府に対し、民間セクターの資金提供が可能な条件を作るよう、求めました。


Q. どのような条件が必要なのでしょうか?

シルヴァ二によると、炭素に価格を設けることは良いスタートのようです。

「森林や他の生態系は膨大な量の炭素を蓄えていますが、だからと言ってその対価は支払われていません。」シルヴァニは言います。「自然への投資は、炭素に関して言えば、社会経済が影響を受ける気候変動問題への対策という観点からも、他の対策と比べて非常に費用対効果が高いといわれています。森林の炭素保有量に価格を設定することは規模も大きく、すぐにインセンティブとなり、環境保全への投資増加に繋がるでしょう。」

他に挙げられるのは、自然からの恩恵を評価することです。「もちろん炭素貯蔵というのは森林がもたらしてくれる恩恵の一つでしかありません。自然の働きは、経済的な政策決定の過程において考慮される必要があります。」シルヴァニは、「自然資本」の考えを例に挙げ、企業がいかに自然に頼っているか、また影響も与えているか、ということを理解することが大切だと言います。


Q. グリーン・ボンドが先ほど話題に上りましたが、企業はもっと投資することはできないのですか?

グリーンボンドの魅力は、どのような仕組みの上に成り立っている商品であるか、投資家に非常によく理解されているということであり、馴染みすぎでさえある、ということです。そこが一種のポイントです、とシルヴァニは言います。この場合、馴染みすぎているということは良いことです。グリーンボンドは以前からある商品である上に、口座を開設するのと同じくらい、シンプルで信用もあります。このような条件が投資を引き付けるのです。

問題は、適切な投資資金の配分が十分ではないことだと彼は言います。全世界でこれまで7000億ドルほどグリーンボンドに投資されてきたうち、森林や持続可能な農業に投資されたのはたったの1%に過ぎないのです。


Q. では、もっとグリーンボンドを増やせば良いのではないですか?

市場が整備されておらず、そんなに簡単なことではないのです。もしできたとしても、限界があります。例えば、CIが開発に携わった二つの革新的な債券は、今の段階では小規模な土地にしか焦点を当てていません。


Q. 今、世界では何が起こっているのでしょうか?

先日、世界有数のグローバル金融グループであるBNPパリバが同グループ初のグリーンボンドを発行するなど、環境保全金融において大きな変化が起こっていると、シルヴァニは言います。

CIが立ち上げた、自然保護区の新規設立や運営を支援するための助成金を提供する「グローバル・コンサベーション・ファンド(GCF)」のような金融の取り組みが、これまで80万㎢以上の陸地や海洋の保護につながったように、とても大きなインパクトを生み続けています。2015年のパリ協定では、公的資金および民間資金を気候変動対策に使っていくための取り決めがなされました。そして、2016年の世界自然保護会議でCIは、環境保全金融のギャップを埋めることに繋がる、新しい投資モデルを開発するための集まりである「環境保全への民間投資連合(CPIC)」へ20以上の他NGOと共に参加を表明しました。また、近年、先住民や現地コミュニティーが自らの土地を管理するという役割は注目を浴びてきており、このような自分たちの手で行う保全活動を支援するための資金源としての環境保全金融も醸成されつつあります。

 
自然を保護することはお金がかかります----

でも、世界はそのために積極的に動き出しているようです。


※本ブログ記事は2016年12月2日に投稿されたCI本部のブログ記事を和訳したものです。
”What on Earth is ‘conservation finance’?” by BRUNO VANDER VELDE


翻訳協力:中島美紗子
編集:CIジャパン


 

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