重要な熱帯地域を守れば、消滅の危機にある種の半数が救われる


Jaguar (species Onca pintada) resting on a tree stump in Pantanal, Brazil © CI/PHOTO BY HAROLDO PALO JR.

※本ブログは、CI本部ブログの“Study: Protecting tropics could savehalf of species on brink’” を日本向けに和訳編集したものです。

Written by Kiley Price

2019年発表された国連の注目すべき報告書によると、人間活動と気候変動の影響で、100万もの種が絶滅の危機に瀕しているということが明らかになりました。

これまでになかった新たな研究の結果によると、消えゆく運命に陥っている種の半数が救えて、かつ気候崩壊の速度を緩めるためには、熱帯地域をたった30%を保全するだけで叶えうることが分かりました。

Ecography誌に発表されたこの研究は、種の絶滅リスクを下げるために最も重要な自然環境に関する包括的な地図を提供する初の研究で、ラテンアメリカ、アフリカ、東南アジアに存在する熱帯地域の莫大な価値を強調しています。

この研究の主筆で、コンサベーション・インターナショナルの気候変動シニアサイエンティストのリー・ハンナ博士に、研究の政治的・経済的な意味合いと、地球上の野生生物たちの未来にとってこれが何を意味するのか、話を聞きました。

Q:なぜ気候変動によって種が失われてしまうのでしょうか?

A: どんな種にも、独自の気候耐性と環境があります。例えば、ニューヨークではヤシの木を育てられません。生物の耐性は数十万年、または何百万年もかけてできたものなので、一夜にしてそれが変わることはほとんどありません。そのため、人間活動が気候変動を加速させると、種は新たな気候に適応するのではなく、自分に合った気候を求めて移動します。多くの種にとっては上方へと向かうことになります。しかしながら、最終的には行く場所がなくなってしまいます。私たちはこれを「絶滅のエスカレーター」と呼んでいます

Q:この研究とはどういった関係があるのでしょうか?

A:この新しい研究で、気候変動に反応した種が移動することが、私たちの保全能力にどのような影響を与えているのか、関連性を調べようと試みました。そのため私たちは、数十万の種が、様々な気候シナリオ下でどのような移動をするのかモデル化しました。それから、これらのモデルを数十万の種が生息している地域と組み合わせました。この組み合わせによって、現在生き物が生息している場所と、将来的に生き物が生息する可能性のある、最適な地域を決定することができたのです。

その結果、気温の上昇を2度未満に抑え、かつ熱帯地域の30%を保全すれば、種の絶滅のリスクを半分も軽減できるということがわかりました。 

Q:30%はそれほど高くないように感じます。

A:その通りです!この研究は、保全活動と気候変動という観点で絶滅率を分析する初めての研究なので、気候変動の影響下においてでも、これほど小さなエリアで、これほど高く絶滅率を減少させられるという結果が得られたことにとても驚きました。その理由の一つとして、熱帯の山脈~アマゾンから東アフリカ山岳地帯の森林~に非常に多くの生物種が集中しているということが挙げられます。生き物たちが気候変動に反応して、上方へ移動するのに合わせて、保全地域を拡大、もしくは新たな保全地域を策定することで、比較的小さな地域でも種を守ることができるのです。

これらの研究結果を利用して、生物多様性を守るために保護すべき重要なラテンアメリカ、アフリカ、東南アジアの地図を製作しました。今後、それぞれの国はこのツールを利用して、各保全地域や山脈に焦点を当ててより詳しい分析を行えば、移動する様々な種の保全のための最適な計画を立てることができます。

Q:なぜそのようなすべての種を守ることが大切なのでしょうか?

A.理由の一つは、これらの熱帯地域に生息している種の豊富さ~私たちが生物多様性と呼んでいるもの~が、病気を治癒したり、新しい薬を開発したり、気候耐性のある作物に品種改良するために重要な遺伝子情報を含んでいることが挙げられます。私たちがこれらの種を失うたびに、重要な遺伝子情報も失われてしまうのです。また、これらのすべての種が、淡水から食料、豊かな土壌まで、私達人間社会に様々な便益をもたらす強靭な生態系システムを築き上げる役割を果たしています。生物多様性を失い、脆弱になってしまった生態系システムは、特に人口が増加している現代において、そのような便益をもたらすことは難しくなるでしょう。

生物多様性は、気候危機に取り組む上で非常に重要です。世界中の熱帯林は世界の炭素の25%を貯蔵していますが、各国が熱帯林を保護しなければ、森林破壊の危機にさらされます。この研究レポートには、生物多様性を守ることは、気候変動に対処することでもある、と書いています。

Q: 各国はどのようにこうした重要な地域を守ることができるのでしょうか?

A: 「熱帯地域の30%を保全する」ことは、かならずしも国立公園や保護区を作るだけではない(多くのところにとってはそれは良いスタートではありますが)、という点がとても重要です。生物多様性を守りつつ、土地からの便益を受けられるための策には、地元の保全グループや先住民コミュニティが主体となって管理する、保全地域の策定や土地利用に関するゾーニングなどが含まれます。
たとえば、アフリカ南部の西アンゴラでは、気候変動による種の絶滅を避けるために優先的な地域と、地元農家が利用している地域が重なっています。こうした土地では、小規模農家が土地を利用しながらも、希少な鳥たちや植物を守る方法を考えなければいけません。それは素晴らしい保全のアイデアになりますが、国立公園を創設することではありません。

もっとも重要なのは社会環境や土地利用、開発のニーズと、守りたい種のためにどのようなやり方が最適かを考えることです。

Q: なぜ政府はまだそうした取り組みを始めないのですか?

A: この研究結果が出るまで、気候変動リスクによる絶滅を避けるために保全すべき最も重要な地域がどこなのかわかっていませんでした。今はそれが明確になったのでアクションを起こすことができます。政府は、私たちの研究結果を利用して計画を立てることができますし、私たちはオンラインのツールを作り、それを円滑に利用できるようにトレーニングも実施しています。

世界の多くの地域では開発のペースが加速していて、持続不可能な農業用プランテーションが増加しています。生物は気候変動に反応して移動するため、こういった地域にたどり着いてしまう可能性があります。そのため、保護地域を拡大し、地図で強調した重要な熱帯地域に開発を拡大させないことが大切です。私はこのことが社会への障害になってしまうと思っていません。気候変動に応じた適切な場所で、迅速に保全を進める機会だと捉えています。

Q: 次のステップについて教えてください。

A: 多くの科学者が2020年を「自然にとってのスーパーイヤー」だと言っています。そして既に研究では保全活動をさらに進めなければ、私たちは6度目の大量絶滅の危機に瀕していることを示しています。
世界のリーダーたちが植物と野生生物の種を守るためにイタリア、ローマに集まり、10月に中国、昆明で行われる国連生物多様性条約締約国会議(注:延期が決定)に先駆けて、絶好のタイミングで研究調査が出ました。生物多様性締約国会議の前に設定される目標とターゲットは、これから10年間~気温上昇を緩やかにし、生態系システムを守り、生物多様性を優先にするべき期間~の保全を導く、重要なロードマップになるはずです。

幸運なことに、この危機のために実際に行動に移すことができる解決策、科学が私達にはあります。私たちが共同して保全地域を優先することができれば、生物多様性ホットスポットを守りながら、気温上昇の速度を同時に緩めることができるのです。慎重な土地利用計画が必要ですが、この目標は達成可能ですし、地球上すべての生命の未来のために重要なことです。


※本研究は地球環境ファシリティ(GEF)の支援を受けて実施されました。GEFについて詳しくはこちら(英語)

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