「小さなモノにまつわる大きなコト」

 

©Rohit Tandon on Unsplash

みなさんこんにちは。CIジャパンでインターンをしている井原祥太です。
突然ですが、みなさんは何を使ってこの記事を見ていますか? パソコンでしょうか、それともスマートフォンでしょうか。では、視線を自分の体の方に向けてみてください。あなたは何を着ていますか? Tシャツでしょうか、はたまたパジャマでしょうか。
パソコンしかり、服しかり、私たちは多くのモノに頼って生活しています。それがなければ、世界の情報にアクセスすることは難しくなり、体温を維持することもままなりません。
あなたは身の周りのモノについてどれほどのことを知っているでしょうか。 あなたが今みているモノは誰が、どこで、どのような環境で、何から作られているのか、考えたことはありますか?

第2回は、そんなモノにまつわるストーリーを自然資本の視点から見ていこうと思います。
(自然資本シリーズ第1回はこちら


まずはパソコンとスマートフォンに目を向けてみます。どちらも、仕事や生活の多くの場面において愛用されるモノですね。昨今の豊かさは、こうしたハイテク製品なしには考えられないという方も多いのではないでしょうか。
そんなIT製品に欠かせないのがリチウムイオン電池です。リチウムイオン電池の製造にはレアメタルが用いられます。レアなメタル、つまり希少な金属と言われるだけあって、世界に偏在しており、埋蔵量は限られています。

レアメタルの1つ、リチウムの多くはアンデス山脈沿いに埋蔵されており、チリが最大の産出国です。乾燥した地域で長い時間をかけて地下水として濃縮され、リチウムは生成されます。そのため、地下から塩水を汲み上げ、それを蒸発させることでリチウムを採取することができます。つまり、リチウム採掘には大量の地下水の汲み上げが伴うのです。

世界的なIT化に押され、リチウムの産出量は増加の一途を辿っています。チリの乾燥地帯における大量の地下水の汲み上げ・蒸発は、その土地の生態系に多大な影響を及ぼしています。例えば、水環境の急な変化のために絶滅危惧種のアンデスフラミンゴの生息数が減ってしまいました。大量の地下水の汲み上げは、飲み水や生活用水の不足という、負の影響を地域住民にもたらしました。さらに2010年からの歴史的大旱魃はそれに拍車をかけ、手洗い用の水さえも十分に確保できない世帯が見受けられます。身近な感染予防の実践すらままならない多くの人々が、新型コロナウイルスにかかり、病床に臥しました。


© Benjamin Drummond

次に、服、特にその原料の1つであるコットンの話題に移りたいと思います。

毎年、世界80カ国以上で約2,500万トンの綿花が栽培され、綿花から採れるコットンは繊維業界で使用される繊維の約30%を占めています。これほど多くの地域で大量に綿花が育てられているのも、コットンが多くの利点を持っているからです。例えば、何度も洗濯しては繰り返し使えて熱に強く丈夫であること、生地が柔らかい天然素材で通気性があり着心地が良いこと、更には燃料や食物にもなり得るため、単なる優れた繊維作物として見るには惜しい側面も持ち合わせています。

しかし、綿花の栽培における自然環境への負荷は目に余るものがあります。綿花は植物ですから、当然その栽培には水が消費されます。どのくらいの水量かというと、コットン製のTシャツ1枚を作るのに2,700リットル、これはひと1人が3年かけて飲む水の量に値します。また、染料の加工に使用される水量も加えると、4,500リットルまで膨らむと言われています。



縮小するアラル海(2000年~2013年)From NASA’s Earth Observatory

ずさんな計画下では、地域の淡水資源の減少、枯渇は避けられないでしょう。事実、世界第4位の湖面積を誇ったアラル海は、綿花栽培などを目的として行われた無計画な灌漑によりわずか半世紀で10分の1まで干上がってしまいました。かつては約2,000人の漁民が暮らしていましたが、急激な塩分濃度の上昇で湖の魚は相次いで死滅、今では塩の大地へと変貌し、かつての人の賑わいはなくなってしまいました。先進国の服の大量消費文化に追いつくために、化学肥料を用いて綿花の生産量を増やそうとすれば、土壌が汚染され、かえって生産性を低下させることになります。そして汚染された土壌が川や海に流れ出てしまえば、水質汚濁が原因で人々は安全な飲み水を得ることができなくなります。

リチウムだけではなく、その他のレアメタルの採掘場、またその周辺地域では、自然資本の軽視・収奪に端を発して様々な悪影響があちこちで起こっています。コットンのみならず、シルクなど他の天然繊維の生産にかかる環境コストも決してゼロではありません。これら原材料の生産にかかる環境負荷を考慮せずに経済活動を続けていけば、水や食料は汚染され、地域住民の健康は損なわれ、時には生命にも関わる甚大な被害をもたらします。もしかしたら、あなたの周りにある身近なモノが、その製造の過程において、世界の裏側で起きている深刻な環境破壊に関わっているかもしれません。その破壊が人々を不幸にしているかもしれません。生産者は、限られた自然資本を持続的に利用できるように配慮する。消費者は、不必要なモノを買わない、もしくは健全な自然資本の利用から生産された商品を買う。この、小さなモノに対する小さな心がけは、多くの人々の幸福を促す大きな営みではないでしょうか。

次回第3回は、自然資本を経営判断に取り入れている企業の実例をご紹介したいと思います。




チリ・アタカマ砂漠での塩の採掘
From 
https://s.japanese.joins.com/JArticle/236833?sectcode=300&servcode=300




アラル海 塩の大地
From http://weathernews.jp/soramagazine/201610/07/



井原祥太

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