燃え広がる森林火災への希望

こんにちは。CIジャパンでインターンをさせていただいている本木です。今回は森林火災と、カンボジアのトンレサップ湖で実施した「浸水林における火災防止を組み合わせた森林再生プロジェクト」についてご紹介します。

※このプロジェクトは「トヨタ環境活動助成プログラム」にご支援いただき、2019年1月~2020年12月にかけて実施しました。

©Kristin Harrison and Jeremy Ginsberg

本来、森林火災が大規模化あるいは長期化することは稀であり、日本だけでなく海外でも大規模な森林火災は珍しいものとされていたのです。しかし近年、相次いで大規模な森林火災が発生し、ミュンヘン再保険(Munich Re)によると、森林火災による被害額はここ数年で急激に増えています。

特にアメリカ南西部とオーストラリア南東部が最も被害が深刻です。また、気候変動が森林火災の被害を大きくしており、アメリカ南西部のカリフォルニアでの1930年以降に記録された森林火災のうち深刻なもののほとんどは2000年以降に発生しました。 

森林火災の消火が追いついていないと言うニュースを目にしますが、当然森林火災に対して人々が行なってきたこともあります。アメリカでの森林火災への対策は、森林火災発生時に燃えるものを減らすために意図的に一部地域を焼き払う野焼きをしていました。また、オーストラリアでは、あらかじめ森林を伐採して防火帯を作ることで森林火災の深刻化を防いできました。このように野焼きや森林伐採による防火帯は、可燃物を無くしてしまうと言う面で森林火災の拡大を防ぐために有効です。

しかし、気候変動の影響によって対策が不十分になってしまっています。例えばアメリカでは平均気温が上昇し乾燥状態が続いたため野焼きを行えず、森林火災の対策が行えないという負のサイクルが起きています。

このように、昔から森林火災の対策を行なってきているものの、気候変動により深刻化した火災を完全には防げなかったり、そもそも森林火災への対策が不十分である地域も多くあります。特に気候変動によって森林火災の被害が拡大しているため、今までの対策では不十分になってしまっているのです。このような地域に森林火災の対策を共有することは大きな意味があります。

森林火災への対策の中でも今回はカンボジアのトンレサップ湖の周辺の森に焦点を当ててお話をさせていただきます。


©CI/photo by Sebastian Troeng

カンボジアの中心に位置するトンレサップ湖は東南アジア最大の湖です。トンレサップ湖は雨季と乾季によって面積が大きく変わります。乾季でも琵琶湖の約4倍の大きさで、雨季では約24倍になります。この大きな湖は人々の重要な生活の場であり、水上で100万人以上が生活しています。またこの湖は周辺の森と一体となっていて、湖の湖畔の森は雨季には浸水林となります。

©CI/photo by Koulang Chey

この森林が火災の脅威に直面しているのです。例えば、2016年にはトンレサップ湖周辺の森64万haのうち25万ha近くが森林火災によって被害を受けました。

©Conservation International

湖の周りの浸水林は魚にとって、繁殖したり餌場になったりと重要な生息地になっています。トンレサップ湖に住む人々は主に漁業で暮らしており、カンボジアの食生活におけるタンパク質摂取量の75%以上をまかなっています。また、浸水林の木から薪や漁の仕掛けの材料などを得て生活しています。

 ©Kristin Harrison and Jeremy Ginsberg

つまり、カンボジアの森林がなくなると、湖に生息する多くの魚たちの生息地が失われるため、人々の生活の資源である木だけでなく、食料となる魚も減ってしまいます。

このように深刻な問題であるにも関わらずカンボジアには森林火災への対策が十分でなく、森林火災が発生したとしても住民たちはただそれを眺めているほかなかったのが実情でした。

この問題に対処するには、まず住民たちで消せる範囲の消化を行えるようにすること、そして森林火災が発生した時に救援を要請できるネットワークを作ることが必要です。さらに、防火対策をすると同時に植林をし、すでに失われてしまった森林を取り戻すことも大切です。

そのためにコンサベーション・インターナショナル(CI)では2019年から1年半の間、オーストラリアのアデレード大学と協力して防火と植林による森林火災対策のプロジェクトを行いました。
©Conservation International

先述の通りオーストラリアは森林火災が多く、森林火災についての研究も進んでいます。そこでこのプロジェクトでは、アデレード大学の技術や知識に基づいて行いました。

プロジェクト開始当初は、カンボジアに適用できるオーストラリアの森林火災対策として、森林を伐採することで作られる防火帯が有効だと考えられていました。しかしカンボジアでは既存の森林の伐採がカンボジアの法律により禁止されているため、小川、既存の道路・小道を防火帯として使用しました。
©Conservation International

アデレード大学によるドローンの調査で、トンレサップ湖周辺で消火活動に利用できる水資源や防火帯として利用できる場所を選定することができました。またこのドローンの解析から植林すべき樹木や植林場所を決めることができ、土地に直接種を撒いて植林活動をしました。
©Conservation International
©Conservation International

さらに植林した地域で発生する可能性のある森林火災への備えとして、散水機や防護用品などの防火用具をコミュニティに配布しました。プロジェクト中には成果をテストするかのように、プロジェクト実施地域で実際に4回の森林火災が発生しました。しかし、コミュニティの人々で防火用具を活用して消火をし、火災の被害を最小限に留めることができたのです。プロジェクトの成果によって、コミュニティでは今後発生する多くの大森林火災を未然に防ぐことになるでしょう。

©Conservation International

今回は植林活動において、地域住民が植林地域や樹種の決定に積極的に関わったことが、コミュニティの主体性を引き出すことに繋がりました。また、これら一連のプロジェクトの中で、多くの人々が参加し、これまで森林火災の防火に携わることのなかった女性も参加することとなり、地元の漁業組合と政府、そして地域住民たちのネットワークが形成されることとなりました。
©Conservation International

特に今回分かったこととして森林火災の消火に大切なことは、人々の繋がりでした。火事の初期に消火するためには、地域の人がまず初期消火をし、また政府へと連絡をするといったことがいかにスムーズに実行されるかがポイントになるからです。

ドローンによる調査からトンレサップ湖周辺の森林火災に対して、コミュニティが森林火災に主体性を発揮することの有効性も示されています。日本でも、「火の用心、マッチ一本火事のもと」と言う呼びかけと拍子木によって、近隣の火事への注意喚起が江戸時代から行われてきました。コミュニティを重視した今回のプロジェクトは、カンボジアの他地域にも応用可能なモデルとして注目されており、実際に2020年7月からトンレサップ湖周辺の近隣コミュニティで同様の活動が始まっています。今後もこのモデルが森林火災を未然に防ぐ有効な手段として広がっていくことが期待されます。

By 本木暁斗

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