コーヒーがつなぐ未来  ~コーヒーテイスティングの世界で活躍するメルリス・クルスさんのストーリー ~

コーヒーテイスティングをするメルリスさん

※2023年6月updated

コンサベーション・インターナショナル(CI)では、自然保護と現地コミュニティへの生計支援を同時に進めるために、守りたい自然がある場所に暮らすコミュニティと「保全協定」を結ぶことで、保全プロジェクトを成功に導いています。森林を切らない約束をしてもらう代わりに、現地コミュニティは農業技術支援や教育プログラムの提供、パトロールの賃金、農産物のマーケティング支援などを受けることができます。

アマゾン熱帯雨林の一部であるペルーのアルトマヨ森林保護区には、保全協定の対象となったコーヒー農園があります。

この農園はペルーのパカイピテという村にあり、豊かな土壌と湿度の高い気候でコーヒー栽培に適した場所です。CIは、この地域の自然とそこへ暮らす人々の暮らしを守るために10年以上活動と続けています。

CIペルーと自然保護協定を結んだこのコーヒー農園を営む夫婦には、メルリスさんという娘がいました。彼女は10歳になるまで両親が営む農園で育ちました。その後も学業を続けて将来の機会を得られるようにという親の考えに従い、都心に住む叔父のところで暮らすことになりました。

17歳になったメルリスさんは、仕事と教育の機会を求めて首都のリマに引っ越すことを決めました。リマでは、秘書として働きながらコンピューターに関するコースを取りました。その後、実家のコーヒー農園が将来を左右するとは想像もしていませんでしたが、人間として、また、キャリア面での成長も考え、北部のトルヒーヨで美食学(ガストロノミー)も学びました。

©CI-Peru

コーヒーとの新鮮な再会


トルヒーヨでの勉強を終え、メルリスさんは実家近くのモヨバンバへ戻り、フードビジネスの世界へ進むことにしました。「実は両親には、農園を売って私たち兄弟と一緒に都会で暮らしてほしいと願っていました。両親と一緒にレストランを経営したかったんです。」
しかし、彼女の両親は同意しませんでした。

2014年にCIペルーの協力を受けて設立されたフェアトレード・オーガニックコーヒーの生産・販売を支援するアルトマヨ森林保護区協同組合「COOPBAM」は、2019年にはメルリスさんの農園近くまで活動地域を広げました。

COOPBAMの新たな会員となったメルリスさんの両親と家族は、コーヒーテイスティングの研修を含む様々な制度が受けられるようになりました。メルリスさんは母親に勧められ、あまり期待せずに研修を受けることにしました。それまでメルリスさんにとってコーヒーの仕事とは、農園で種を植えて収穫をするくらいにしか捉えていませんでした。

実はコーヒーテイスティングは、コーヒーの売値を決めるとても重要な仕事です。農園でどのようにコーヒーを栽培するかによってコーヒーの味と香りが決まるので、コーヒーテイスティングは収穫後に一番大切な仕事なのです。この研修が彼女の新たな扉を開くことになるとは思ってもみませんでした。

そして、メルリスさんはコーヒービジネスに目覚めたのです。良いコーヒーが目を覚ましてくれるように…


3日間の研修ですぐにメルリスさんはテイスティングの勘を身に着け、研修で一番優秀な生徒になりました。これがきっかけで、他に選ばれた二人の生徒と一緒にトレーニングを続けることができ、修了後にはベストテイスターとして認められました。その後メルリスさんは、両親がCOOPBAMでの技術支援により栽培したコーヒー豆をヨーロッパに輸出する英国のコーヒーバイヤー、ファルコン・コーヒーでの職を得ました。


©David Hancco


コーヒーとの未来


「コーヒーについて学ぶことで両親の仕事について理解し、農園を経営する上で犠牲になってきたものを大切に思うようになりました。コーヒー生産者が適正な価格で売るために、いかに苦労しているか目の当たりにしたのです」

ファルコン・コーヒーで働くことになったメルリスさんは、実家から一日ほどかかるペルーのコーヒービジネスの中心地として知られるハエンに暮らすことにしました。今、彼女はコーヒーが自分の生きる道だと確信しています。

「コーヒーテイスティングはただの仕事ではなくて、私の哲学です。仕事でも日常生活でも正確さ、明晰さ、決断力を与えてくれる規律なのです」

ファルコンでは、美食学で学んだことを実践しています。外国のクライアントと接する機会も多いので英語の上達にも力を入れています。「これから国際ビジネスを勉強します。学んだことは全て両親に伝え、サンマルティン地方のコーヒー生産をサポートしたいと思っています」

・・・


2023年、CIジャパンはメルリスさんの近況を聞く機会を得ました。ファルコンコーヒーを退職したメルリスさんは起業し、サンマルティンで自身の農園を経営しているそうです。

メルリスさんは言います。

「私は常に学びながら生きていることを実感しています。COOPBAMで3ヶ月間インターンシップをしていた時、私が学ぶべきことは、コーヒーサンプルを物理的かつ感覚的に評価することだけだと思っていましたが、自分が成長したければそれだけでは不十分だと気づき、さまざまな質問をするようになりました。さらに、コロンビア、ボリビア、インドネシア、エクアドル、ブラジル、パナマ、コスタリカ、エチオピア、ケニア、ルワンダ、ブルンジ、オーストラリアなど、他の産地のコーヒーを試飲して評価できるようになりたいという好奇心も生まれました。

私は、CIが実施するコーヒープログラムが始まるまでは、何者でもなかったと思います。私の両親はコーヒー栽培に専念してきましたが、私にとってコーヒーは”貧困”を意味するので嫌いでした。もし、CIが2019年に保全協定を始めていなかったら、おそらく今の私はいなかったでしょう。

現在、私は農園とコーヒー会社を経営し、もうすぐ初めてのコーヒーショップをオープンするところです。私の活動はすべて国内外でペルー産コーヒーの消費を促すことを目的としています。一定のプロトコルで提供される一杯のコーヒーの背景にはどんなことがあるか、より多くの人に知ってもらい、今まで感じたことのない香りや味に酔うとはどういうことかを感じてもらいたいです。貧困だからコーヒーを栽培するのではなく、それは、技術と財政支援の問題です。コーヒーが栽培できる地域は限られており、今後もっと自然とコーヒーに囲まれて暮らすことがいかに幸せで豊かなことかがわかるかもしれません」


メルリスさんは、故郷と、より良い未来をつなぐ偉大な情熱をコーヒーに見出したのです。



ライター:Katherine Fernandez
冒頭写真:コーヒーテイスティング中のメルリスさん(©David Hancco)
編集:CIジャパン

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