IPCCによる第6次評価報告書:「気候変動は人類の適応能力をすぐにでも上回る」

 


IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告書によると、気候変動の壊滅的な影響は、人間の気候変動に対応する適応能力をすぐにでも上回る可能性があることがわかりました。

 67カ国270人の研究者が共同執筆した最新報告書は、世界人口の半分が水不足の危機にさらされ、異常気象の頻度と深刻さが増し、気温上昇により世界の種の14%以上が絶滅の危機に瀕していることを指摘しました。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「報告書は人類が受ける苦しみの解説書のようなものであり、同時に気候変動に関するリーダーシップの破滅的な失敗を厳しく非難するものである」と述べています。
コンサベーション・インターナショナルのM・サンジャヤンCEO は、「今回のIPCCによる報告書は、気候変動との戦いにおける転機となるものです。...これは私たちに厳しい現実を突きつけています。危機は今まさにここにあり、私たちのすぐ近くにあるのです。」と声明を発表しました。

そして、これはほんの始まりに過ぎません。もし、気候の破壊が加速し続ければ、「世界の多くの地域が、まもなく環境の変化に適応するための限界に直面する可能性がある」とニューヨーク・タイムズ誌 (New York Times) は報じています。

 人類はこのまま危険な崖っぷちに立たされるのか?それとも気候変動の大惨事を回避するために重要な一歩を踏み出せるのか?この報告書の重苦しい内容は、私たちに疑問を投げかけています。

 

不公平な気候変動 

2,000ページを超える報告書は、気候危機に内在する不公平な事実を露わにし、気候の影響を最も受けやすい脆弱なコミュニティは、最も気候変動に対する責任を問われるべきではない存在であることを強調しています。
特に気候変動の影響を受けやすいアフリカの国々(世界全体の温室効果ガス排出量の3%に満たない責任を持つ) では、2010年から2020年の間に、干ばつ、洪水、暴風雨の影響で、最も豊かな国々に比べて15倍もの人々が死亡したと、報告書は指摘しています。 

IPCCの最新報告書は、即時の気候変動と気候正義対策に緊急の警鐘を鳴らしています。世界中の脆弱なコミュニティが、すでに人為的な地球温暖化の影響により、作物の収穫量減少や移住、人道的危機、精神的衛生の悪化などの危機に直面していることが分かっています。」とコンサベーション・インターナショナルの気候戦略担当バイス・プレジデントのシャイラ・ラガブ (Shyla Raghav) は話します。

ラガブは、これらの影響に対する国際社会の対応は「極めて不十分」であると言います。「世界の気候変動資金のうち、適応策に使用されたのはわずか5%です。今こそ、先進国、慈善家、民間企業が歩み寄り、気候変動の影響を受けているコミュニティへの資金援助を行うべき時です。」

世界のリーダー達は、11月にエジプトで開催される国連気候変動サミット(COP27)に集まり、気候変動をいかに遅らせ、影響をすでに受けている国々への支援について議論する予定です。

「今後の気候変動交渉は、気候変動に対する適応策確立の重要性を高め、圧倒的な資金不足に対処するために必要な方策を生み出す分岐点になるでしょう。」

 

変革的な適応策が必要

報告書は、気候変動を遅らせるために温室効果ガス排出削減が重要であることを強調する一方、海面上昇山火事の拡大など、一部の影響はすでに「もとに戻せない」状況であることも認めています。

防潮堤の建設や早期気象監視システム構築などの対応では、もはや通用しないことを報告書は明らかにしています。代わりに、各国は大胆な「変革」を実行し、家を建てる方法、食物を育てる方法、エネルギーを生産する方法、自然を保護する方法、それらの場所を変えていかなければなりません。 

「私たちは、社会のあらゆるレベルにおいて変革が必要です。それはつまり、現代の社会の消費方法と習慣を”捨てる”ことなのです。これらの問題解決のためには、より多くの優秀な人材が求められています。」とサンジャヤンは言います。 

コンサベーション・インターナショナルの研究では、気候変動の影響に直面している社会が変革的な適応策を実施するための追加的な方法 (例えば、海岸線に沿って建物を建て直すのではなく、嵐のあとコミュニティの移動するのを支援するなど) をいくつか提示しています。

「問題が起きたところに、ただ応急処置を施し続けている場合ではありません。未来のさらなる多くの人々の苦しみを防ぐためにも、今こそ、回復力のある社会をどのように構築するか見直し、より根本的なアプローチを取るべき時です。」とラガブは言います。

 

かすかな希望

報告書によると、気候変動に適応し、緩和するための最大の味方は、自然であるといいます。

「最新の報告書は、重要な解決策として、自然の役割を繰り返し訴えています。自然への投資は、生態系とコミュニティの回復力を強化し、将来の損失や被害を抑えるために必要な長期的な経済・社会の変革を支えることにつながります。」 

CIのブロンソン・グリスコム (Bronson Griscom) らがまとめた2017年の研究によると、気温上昇を1.5℃以下に抑えるために必要な排出削減量の約3分の1を、自然が提供することができることが明らかになりました。さらに、自然は沿岸地域を海面上昇から守り、干ばつ時に水の供給を維持し、熱波時には都市や農村地域を冷やすのに役立ちます。

さらに、森林破壊をなくし、世界的な野生生物の取引を制限するなど、自然を守ることが、次の感染症の発生を防ぐことにもつながります。IPCC報告書は、「複合的な回復力、社会正義、生物多様性保全を強化しながら、感染拡大と気候変動のリスクを軽減するための介入」を促しています。

IPCC報告書の結果は悲惨なものですが、「自然と人間の回復力は、私たちに未来への希望を与えてくれます。」とラガブは述べています。

「気候危機・生物多様性の損失・感染症の予防を同時に解決するために、いくつか重要なアクションが必要です。私たちは、影響を最も受けやすい脆弱なコミュニティが気候変動の影響に適応することができるよう、資金を調達しなくてはなりません。そして、森林と海洋をどちらも保護を拡大し、地球の健全な未来を確保するために必要で根本的な変化を起こす準備ができている指導者を、地域レベルでも、国レベルでも選ばなければいけません。」


カバー写真:©Giedrius Dagys
記事翻訳:CIジャパンインターン 佐伯栞 

この記事はコンサベーション・インターナショナル本部ブログIPCC Report: Climate change could soon outspace humanity’s ability to adaptを日本向けに和訳・編集したものです。

コメント

人気の投稿