イベントレポート:エキスパートダイアログ「効果的なOECMプロジェクトの形成」に参加して
こんにちは!インターン生の小宮です。
CIジャパンと国連大学サステナビリティ高等研究所が2月終わりに開催した、“もう一つの”保全地域であるOECMをテーマに実務関係者が集まるダイアログに参加しました。「OECM」は、2030年までに陸域の30%を保護するという世界目標を達成するために、近年大変注目されています。
そもそも「OECM」とは何でしょうか?ダイアログの冒頭、CIジャパンのプレゼンター、ウィリアム・ダンバー氏より、その定義について説明がありました。OECMとは、「Other Effective area-based Conservation Measure(その他の効果的な地域をベースとする手段)」の頭文字で、「公的な自然保護区ではないが、結果的に自然が守られている場」での保全を表す概念です。ポスト2020生物多様性枠組で目指している『30 by 30』、つまり2030年までに地球の表面積の3割以上を保護区にするという目標を達成するためには、既存の保護区とは別に、範囲を広げて考えるOECMの概念が重要になるため、2018年頃にその定義が合意されてから注目されています。
OECMの定義や概要の説明のあとに、その懸念点や実態についてのプレゼンテーションが続き、最終的にブレイクアウトセッションにて、議論がなされました。当日のアジェンダとスピーカーは下記のとおりです。
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【アジェンダ】
1.OECMの紹介
by Harry Jonas, IUCN WCPA Specialist Group on OECMs
2.OECMと社会生態学的生産ランドスケープアプローチ
by William Dunbar, Conservation International Japan
3.COMDEKS プロジェクト 下でのOECM指定
by TerenceHay- Edie and ClaraMatallana, UNDP GEF- SGP
4.ブレイクアウト ディスカッション:
① 生物多様性ポジティブなOECMにおける貿易とサプライチェーンの問題
by Ivana Padierna, UNCTAD BioTrade
② OECMの指定と管理の文化的側面
by Akane Nakamura, UNESCO
③ OECMへのコミュニティのエンゲージメントと参加
by Nina Marshall, CEPF
5. まとめ
by Suneetha Subramanian, UNU-IAS
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【グループディスカッション】
私の参加したグループでは、「生物多様性ポジティブなOECMにおける貿易とサプライチェーンの問題」をテーマに下記の2つの議題について、意見交換がなされました。
質問1-コミュニティのインセンティブ
OECMの指定を検討している地域に住んでいた場合、交易条件などの観点から、長期的に生物多様性の管理を積極的に実行していくためにどのようなインセンティブまたはメリットを期待しますか?
質問2:公平性の確保
生物多様性の積極的な管理が「持続可能である」と見なされるためには、「公平」でなければなりません。 OECMプロセスは、都市部との貿易を通じて消費者/生産者の関係でランドスケープが悪用されていないことをどのように保証できますか?
質問1について、下記のような意見が挙がりました。
・生物多様性を重視した生産、市場、貿易に関する教育へのアクセス(5票)
・環境にやさしい商品生産のトレーニング(4票)
・より多くの収益をもたらす市場(オーガニック、認定など)と能力育成へのアクセス(3票)
・公的および多国間ドナーからの管理/代替生計のための資金へのアクセス
・優遇市場へのアクセス
・生計支援
・製品への現場付加価値のサポート
・サプライチェーン強化の支援
・税制上の優遇措置
・既存のサプライチェーンへの参入方法のサポート
これらの意見に対する指摘として、そもそも期待するインセンティブはOECMの指定が為される地域の性質や状況によって大きく異なるということを念頭に置く必要に言及する意見や、教育の重要性を強調する意見などが出ていました。
参加者の一人は、教育の重要性について、たとえば有機農業のトレーニングを実施して、現地の農家に知識をつけてもらうことで、持続可能な農業を長期的に実践する後押しができるのではないかと指摘していました。
また、別の参加者は、サプライチェーンの長さを問題視する視点を提示し、サプライチェーンが長くなるほど、地域社会は製品の管理・販売することが困難になるため、ローカルマーケットにシンプルなサプライチェーンシステムがあれば、OECMをサポートできるのではないかとしていました。
質問2については、下記のような意見が挙がりました。
・コミュニティのリーダーシップを強化する(3票)
・透明性(2票)
・OECMのガバナンスメカニズムと意思決定プロセスは明確であり、
公平(2票)
・効果的な長期保全のモニタリングは、利害関係者に悪影響を与える可能性があります
と生物多様性
・報告・監視システム
・情報開示
・コミュニケーション
・監視・報告、明確な指標
・商品表示
上記への補足として、参加者の一人は「コミュニティのリーダーシップを強化する」ことについて、公平性とリーダーシップに重点を置くことを第一に考えるべきとし、グループ内では賛成の声が挙がりました。また、生産方法の決定は、管理に携わる地域の人々が下す重要性について説いたうえで、最も重要なのは、ガバナンスと意思決定のプロセスが整っていることだと指摘しする参加者もいました。
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今回のイベントに参加して、OECMの保全はあくまで地域主体で行われていくべきものであり、そのためにOECMの管理をすることが地域社会にどれだけの利益をもたらすかについて吟味する必要性をあらためて感じました。新たな試みだからこそ、いかに地域社会やステークホルダーと密接に連携を取りながら、お互いwin-winな関係で保全を進めていくかがカギになるのではないでしょうか。
関係性の構築、指標づくり、サプライチェーンシステムの改善、トレーニングの仕組みづくりなど、より活発な議論を交わしていくべき課題はまだまだあり、より具体的で実行に直接関与していくであろうこれからの議論がより重要になりそうですね。
今後のOECMの動向に注目です。
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