森林のカーボンオフセット ~不都合な真実?いえ、もっと奥が深い問題です~



※本ブログは、CI本部ブログの“Forest carbon credits ‘worse than nothing’? There’s more to this story” (リンク) を日本向けに和訳編集したものです。

執筆:ジョアナ・ダービン
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© Charlie Shoemaker | Chyulu Hills, Kenya

昨年アメリカでは3,000人以上が心臓移植を受けた。

寿命を長くする医療技術は、理論から実践へ、そして当たり前のものとして進化していった。
何十年もの研究・実験、そして失敗を経ながら・・・

気候変動の危機を食い止めるためのアイデアの一つについても、これと同じことが言える。

そのアイデアとは、温室効果ガスを排出する先進国が、「カーボンクレジット」を購入することで、森林を伐採しない努力をする途上国へ投資するというものだ。先進国はカーボンクレジットを購入する形で取引し、その収益が、森林を残すことの”インセンティブ”として発展途上国の土地所有者に支払われるという仕組みである。
最終的に、カーボンクレジットの価格は時間と共に上昇するので、市場原理により炭素排出が抑制される一方で、森林生態系は、温暖化を促進する炭素をより多く大気から吸収し、気候の安定化につながる。

このアイデアは、何年にもわたり、様々な形態を取ってきた。そのどれに関しても、机上の論理と違い、現実ではもっと複雑であることがわかってきた。
そして、カーボンオフセット・プロジェクトの多くは、気候変動問題に対して思っていたような効果を上げられていなかった。

プロ・パブリカが発表した、「もっと不都合な真実:なぜ森林保護のためのカーボンクレジットは逆効果なのか」という記事では、カーボンクレジットを用いた取組みは今後失敗に終わる運命であり、そのための努力はやめたほうがましであると結論づけるのに、上の事実は十分な根拠となる。

この理論に賛同する人もいる。

森林保護の目的としてカーボンクレジットについて精査すること自体は良いことである。一番良くないのは、泥棒に追い銭のような、失敗するものを作ろうと、限られた時間を浪費してしまうことだ。

プロ・パブリカの記事はよく調査されており、こういった取組みが直面する気の遠くなるような困難さや複雑な問題を上手く論じている - どのように森林破壊の場所のリーケージ(移動)を防げるのか?どのように、カーボンクレジットは、先進国による排出継続を終わらせることができるのか?どうやって「永続性」(森林保護の継続性)と「追加性」(カーボンクレジットなしにはその排出量削減は起こりえなかったという)ことを保証するのか?  

そして、忘れてはならないこととして、これら全ての資金をどう賄うのか?

しかし、こういった問題は全て解決しうるものである。それらを乗り越えられなかった過去の失敗を挙げて全てのカーボンクレジットが失敗すると決めつけることは、単に間違っているだけではない。暴走する気候変動を食い止めるのに人類に与えられた時間は限られていることを考えると、危険さえある。

化石燃料の使用の段階的廃止と自然保護の両方なくして、炭素排出を減少へ転ずることは成し遂げられなければならず、森林保護を軸としたカーボンクレジットはそれら両方に対処できる施策なのである。

実のところ、上記の多くの課題に対する対策はすでに対処されている。

◆ さらに知りたい方はこちら ◆

今後、国際的に取引される全ての森林のカーボンクレジットは、国連で合意された条件を満たす必要が出てくる。それには、炭素排出を確実に防止するための森林伐採率計測に関する国家基準の使用も含まれる。例えば、基準を満たさない変化を正確に計測するための国の森林モニタリングシステム、リーケージを防ぐための国家戦略、そして原住民を含む地元のステークホルダーの存続と参加記録を保証するための安全措置の固守である。

こうした水準を守るカーボンクレジットの大規模市場は、気候変動に関するパリ協定の下、国際航空及びカリフォルニアでの炭素排出について現在設計されているところだ。

例えば、草稿段階にある、カリフォルニア熱帯雨林基準(これはカリフォルニアで使わるカーボンクレジットに関する基準を定める)は同様の条件を明記している。例えば、森林伐採の増加を代替するバッファー、歴史的な基準レベルの10パーセント下から始まりその後減少し続ける信用基準、クレジットは「追加的」であると請け合うさらなる保証の提供、そして第三者によって認証された、炭素量計算と社会面及び環境面の安全措置に関するレポートである。

こういった市場が機能し始めるにつれ、カーボンクレジットに対する需要は大きく上昇し、気候変動に対する重要な行動として、森林保護に何十億ドルもの資金がもたらされるようになることが期待される。

カリフォルニアの排出量取引制度はすでに、森林保護と回復への資金源となっている。現在までにおよそ1.1億カーボンクレジットが取引され、5億USドル以上が生み出された。そしてその半分が、アメリカ原住民のコミュニティへ渡った。森林のカーボンクレジットがむしろ汚染を許す結果になってしまうという懸念に対しては、カリフォルニアは8%のオフセットにより満たされる企業の順守義務の割合を制限し、2020年には6%にまで減らすとして対応した。

他にも、プロ・パブリカの目をすり抜け、成功した森林のカーボンクレジット・プログラムがある。

例えば、コスタリカは、森林伐採を減らし、森林を回復させるための法律を1990年代に制定したが、それには森林を維持するため、土地所有者に資金を供給する革新的な燃料税が含まれていた。中米の国々は、国全体で成功しているのか、単に森林破壊を代替して(あるいは遅らせて)いるだけなのかを知るために、森林破壊率を監視している。このシステムを通して、コスタリカは森林保全のための資金を年間3000USドル生み出し、100万ヘクタール(250万エーカー)近くを保全あるいは回復した。次のステップは、このプログラムを通して生み出されたカーボンクレジットを海外に売ることだ。

ペルーのアルト・マヨ保護林(ここは保護されているにもかかわらず、農業侵略と不法伐採により森林伐採が悪化していた)では、コンサベーション・インターナショナルが、森林伐採に代わる経済的な手段を地元の農家の人々に提供するのを手助けしている。この地域の家族たちは、農業訓練やより良い調理用コンロ、教育のための資材等といった便益を受ける代わりに、自分たちの土地の木を伐採しないことを誓約する。こうした合意においては、カーボンクレジットが一部の資金供給を担っている。現在コンサベーション・インターナショナルは、アルト・マヨのカーボンクレジットが、将来ペルーの国家プログラムの一部となり、国連の要件を満たすことができるように、国家政府及び地方公共団体と共に活動している。

カーボンクレジットは万能薬というわけではない。それは、自然を保護し、気候調整という自然の機能を高めるための資金を生み出す、数ある方法の一つに過ぎない。

これら全ての背景にある目的は、地球の平均気温を安全な範囲にとどめることだ。

今の範囲における私たちの努力は、あらゆる人間の取組みと同様に、過去の試み(と失敗)に基づいているのである。言うならば、今は失望すべき時ではない。

ジョアンナ・ダービンは、気候・コミュニティ・生物多様性アライアンスのディレクターです。この記事の作成には、コンサベーション・インターナショナルの国際政策シニア・ディレクターであるリナ・バレナと、コンサベーション・インターナショナルの国際戦略シニア副プレジデントであるウィル・ターナーが協力してくれました。

翻訳:杉浦 由佳(CIジャパン インターン)
編集:CIジャパン

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