国連海洋会議で見逃したかもしれない4つのポイント
6月の終わり、20カ国以上の首脳がポルトガルのリスボンに集まり、アントニオ・グテーレス国連事務総長が宣言した「海洋の緊急事態」に対処するための国連海洋会議が開催されました。
世界中の海で起こっている海水温の上昇と、酸性化の進行をくい止めるために残された時間は少なくなっています。この会議では、各国が海の健康を改善するための計画を立てるためのグローバルなプラットフォームが提供され、いくつかの政府や組織が大きな反響を呼ぶ可能性のある戦略を共有しました。
ここでは2022年国連海洋会議での注目すべき発表を紹介します。
スペイン規模の海洋保護区が大きく前進
コロンビア、コスタリカ、エクアドル、パナマの4か国は、2021年11月、地球上で最もユニークな生物種の保護と気候変動への対策として、太平洋海洋保護区の拡大と統合を約束し、商業漁船団の立ち入りを禁止する「安全な遊泳路(”safe swimway”)」を互いに構築することを発表しました。この保護区は50万平方キロメートル以上の海洋に広がっており、その面積はスペインよりわずかに上回る広さとなっています。そして、その構想に1億5千万ドルの資金が投入されました。
ベゾス・アース・ファンド(ベゾス地球基金)やコンサベーション・インターナショナルが共同代表を務めるブルー・ネイチャー・アライアンスなど、政府と非政府組織の連合が提供するこの資金は、サメやクジラ、ウミガメなどの海洋生物の生息地を保護するために活用されます。この「安全な遊泳路」は、ラテンアメリカ4カ国が20年近く前に、自分たちが依存している海をよりよく管理するために作った、海洋保護区の巨大なネットワークである「東部熱帯太平洋海洋回廊」の一部です。
「コロンビア、コスタリカ、エクアドル、パナマは、海洋保全のリーダーシップがどのようなものかを世界に示してきました」と、コンサベーション・インターナショナルCEOのM・サンジャヤン(M. Sanjayan)は述べています。
「これこそ、国や地域社会、そして公共および非営利セクターのグローバルな集団行動によって、人類が依存する自然を守る方法なのです」
コンサベーション・インターナショナルは、「東部熱帯太平洋海域」プログラムの一環として、2004年から、これらの国々で海洋保護区(MPA)の設立を支援しています。MPAの外にある地域では、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、パナマの地域社会と協力して、特定の漁具のみの使用を許可し、幼魚が繁殖できるように海に戻すなど、持続可能な漁業を実施できるよう支援しています。
コンサベーション・インターナショナルのシースケープス・プログラムのマネージャーであるシャノン・マーフィー(Shannon Murphy)は、「国や地域が必要としているものを伝えるのではなく、みんなが一緒になって、自分たちが依存している海を守り、管理するための共有ビジョンを見つけることが重要なのです」と述べています。
「私たちが海を大切にすれば、海が私たちを大切にしてくれるんです」
"ブルーカーボン "が気候変動の主要な解決策に浮上
熱帯地方の海岸線に生い茂るマングローブは、まさに気候変動対策のスーパースターです。マングローブの根は1平方マイルに密集しており、自動車9万台分の年間排出量に匹敵する二酸化炭素を貯蔵することができるのです。
リスボンで開催された今年の海洋会議では、気候変動対策として見過ごされがちな「ブルーカーボン」、つまり沿岸や海洋の生態系に蓄えられた炭素が中心的な議題となりました。
「国連海洋科学の10年」の一環として、英国政府はセント・アンドリュース大学、スコットランド政府、コンサベーション・インターナショナルと提携し、ブルーカーボン生態系とその保護方法に関する研究を強化すると発表しました。
コンサベーション・インターナショナルの海洋科学ヴァイス・プレジデントのエミリー・ピジョン(Emily Pidgeon)は、「気候破壊を食い止めるための戦いにおいて、マングローブ、海草、潮流湿地などのブルーカーボンを豊富に含む生態系の重要性に各国が気付き始めています」と述べています。
「リスボンの海洋会議でブルーカーボンが前面に押し出されたことは、ブルーカーボンが強力な気候変動対策として認識されている証拠です。今、各国は、これらの生態系を保護するために具体的な行動を起こさなければならない。一刻の猶予もないのです」
そのひとつがブルーカーボン・クレジットの販売です。別の場所で排出された温室効果ガスを埋め合わせるため、マングローブの保護や再生で削減あるいは吸収された温室効果ガスをクレジットとして発行、販売します。
昨年、コンサベーション・インターナショナル、コロンビア政府、その他のパートナーによって開発されたコロンビアのカリブ海沿岸のマングローブプロジェクトが、完全に検証されたブルーカーボン・クレジットとともに、炭素市場に参入する最初の事例となりました。このプロジェクトは、チスパタ湾にある11,000ヘクタールのマングローブ林で、30年の寿命の間に約100万トンの二酸化炭素を吸収することが期待されており、これは1年間に18万4千台の車を道路から排除したのとほぼ同じ量に相当します。
そしてこのプロジェクトは、すでに世界の炭素市場において成功を収めています。最近の報告によると、このプロジェクトで利用可能な炭素クレジットの100パーセントが販売されたか、現在取引されている最中とのことです。この売上の92%は、プロジェクトの保全管理計画に投資され、マングローブを保護し、マングローブに依存した生活を送っている人々をサポートするための確実な資金源となります。
このプロジェクトは、2023年に新たな炭素クレジットを発行する予定です。コロンビア政府は、この成功した旗艦プロジェクトをカリブ海沿岸の他の6カ所で再現することを目指しており、国家プログラムへと拡大し、市場主導型保全の概念を新しい地域に導入することを目指しています。
コンサベーション・インターナショナルのブルーカーボン・プログラムを率いるジェニファー・ハワード(Jennifer Howard)は、「世界中のブルーカーボンに対する需要は、供給をかなり上回っています。これは投資家の信頼を得るために必要なことであり、高品質のブルーカーボン・オフセットの価値を実証するものです」と話しています。
太平洋の小さな島が、海洋保全のために大きな役割を果たす
6月30日に発表された画期的な決定で、フィジーは2024年までに自国水域の8%以上を保護することを約束しました。 このコミットメントは、2030年までに海洋の30%を保護するという世界的な動きに貢献するもので、科学者は、気候変動が海に及ぼす影響を抑えるために必要であると述べています。
フィジー政府が保護する海域の広さと同じくらい重要なこととして、「どの場所を保護するのか」ということが挙げられます。魚やクジラ、マンタが生息する珊瑚礁の海が広がるラウ諸島海域全域が、この新しい保護区の対象となるのです。
コンサベーション・インターナショナルの太平洋地域シニアディレクターであるスサナ・ワカイナベテ・トゥイセ(Susana Waqainabete-Tuisese)は、「ラウの海景はフィジーで最も遠隔の島々であり、驚くべき生物多様性と素晴らしい生態系があり、9,600人の住民に食料、文化的価値、生計を提供しています」と述べました。
フィジー政府の支援を受け、ラウの伝統的指導者たちは、コンサベーション・インターナショナルやパートナーとともに、2019年に自分たちの海を「シースケープ(seascape)」として保全する計画を立ち上げ、さまざまな手法を用いて海洋保護と生産のバランスを取っています。
「世界のさまざまな課題を映し出す、環境と文化への大きな脅威に直面するラウの指導者たちは、政府やパートナーの支援を受けながら、現在と未来の世代のために自分たちの海の故郷を守ることを約束しました」と、ワカインベテ・トゥイセは述べています。
「しかし、フィジーはここで終わらない」と同国のジョサイア・ヴォレケ・ベイニマラマ首相(Prime Minister Josaia Voreqe Bainimarama)は言います。
「私たちは、使い捨てのプラスチックをなくし、すべてのペットボトルを再利用します。また、海洋に関する知識を身につけることを教育制度で義務化し、海運部門における二酸化炭素排出量を40%削減します。」とリスボンで各国首脳に宣言しました。「2030年までに、少なくとも16万トンの持続可能に養殖・収穫された海産物を生産し、2035年までにブルーフード(blue foods)の半分を持続可能な漁業から供給するために、53,000の新しい雇用を支援します」
インドネシアの取り組みは海洋保全の「モデル」となる
乱獲、気候変動、汚染などにより、世界のサンゴ礁はその生存が脅かされています。
しかし、インドネシア東部のバーズヘッド・シースケープにある手つかずのラジャ・アンパットには明るい話題もあります。
5万平方キロメートルにおよぶラジャ・アンパットには、7つの大きな海洋公園があり、パプア海域で見られるチンアナゴの仲間の一種やシャコ、2種のヒレを使って歩くことで知られているサメなど、地球上で他では見られないサンゴ礁魚や甲殻類でいっぱいです。
7月1日に開催された国連海洋会議において、非営利団体Marine Conservation Instituteは、ラジャ・アンパット諸島海洋保護区に、優れた海洋野生生物保護に与えられる名誉あるゴールドレベルの「ブルーパーク賞」を授与し、その功績を讃えました。
ラジャ・アンパット海洋保護区は、インドネシアの地元コミュニティ、地域政府、コンサベーション・インターナショナル、ネイチャー・コンサーバンシー、世界自然保護基金の3つのNGOが共同で2004年に立ち上げた「バーズヘッド・シースケープ・イニシアチブ(Bird’s Head Seascape Initiative)」によって指定されたもので、地域の生物多様性の保護、違法漁業の問題、海洋生態系の管理を目的としています。
「今回の受賞は、コンサベーション・インターナショナルが築き上げた基盤そのものが評価されたものです」と、コンサベーション・インターナショナルの創設者であり理事長である、ピーター・セリグマン(Peter Seligmann)は、次のように述べています。「コミュニティと連携し、彼らの故郷と水域を守るために自ら決めた約束を支援するとき、人々と生物多様性が繁栄し続ける、持続可能で壊れることのないサイクルが生まれるのです。それがこの地域で生まれたものであり、今や世界中の他のプログラムのモデルとなっています」
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