自然なくして、気候危機を脱した未来への道はない
今、地球温暖化を防ぐためにクリーンエネルギーへの移行が進んでいます。今年の自然エネルギーや電気自動車、そしてエネルギー効率への投資は世界で1兆4千億ドルを超えると予想されています。
たとえ世界が化石燃料の排出を直ちに減らしたとしても、炭素吸収に優れた森林や泥炭地などの生態系の破壊の進行を食い止めることができなければ、人類は悲惨な気候シナリオを回避することはできません。
2022年9月、コンサベーション・インターナショナルとポツダム気候影響研究所の科学者は、地球温暖化対策において、自然環境の役割を最大化するための初の構想計画「自然を活用した気候変動対策(Natural Climate Solutions:NCS)のためのエクスポネンシャル・ロードマップ」を発表しました。ここで破滅的な気候変動を回避するためには、農業や林業を含む土地セクターが2030年までに排出量ゼロを達成しなければならないことを明らかにし、達成に向けた指針を示しています。
「気候変動は人類がこれまでに直面した最大の脅威の一つですが、自然は私たちの最大の味方になる可能性を秘めています。」と、コンサベーション・インターナショナルの自然気候ソリューション専門家ブロンソン・グリスコム(Bronson Griscom)は話します。「気候危機を回避するために自然の潜在力を最大限に活用するためには、地球の生態系を①保護すること、②適切に管理すること、③回復させること、の3つに取り組まなければなりません。」
自然がどのように気候の崩壊を回避できるのか、そして人類は次に何をしなければならないのか、グリスコム、そしてロードマップの作成に協力したコンサベーション・インターナショナルのマイケル・ウォロシン(Michael Wolosin)、スターリー・スプレンクル・ハイポライト(Starry Sprenkle-Hyppolite)に話を聞きました。
***
1. 保護それぞれの国で、違法な森林伐採を止め、違法に伐採された土地で生産された商品を禁止するための貿易法などを進めるべきです。しかし、森林保護は、政府だけの仕事ではありません。
「何兆円もの資産を持つ金融機関は、自然を破壊するのではなく、自然を守るためのインセンティブに資本を振り向けることができます。」とウォロシンは言います。「金融機関は、地球の生態系に対する評価方法を変えるためにも、重要な存在です。
毎年、パーム油や牛、大豆などの生産のために、広大な熱帯林が破壊されています。農地の拡大は、森林減少の最大の要因です。さらに、家畜に食べさせる肥料の生産や調達、そして家畜からの排出を考慮すると、食料システムは人間活動によって排出される温室効果ガスの4分の1以上を占めることになります。
スプリンクル・ハイポライトは、「地球温暖化を抑制するためには、私たちが口にする食品やその栽培方法までを変えることが重要です。そして、農家から製造業、消費者に至るまで、誰もが役割を果たすことができるのです。」と話します。
食品による排出の最大の原因は、肉です。世界の農地の約3分の1が、人間のためではなく、人が食べる動物の食料を育てるために使われています。
例えば、牛の放牧には広大な土地が必要で、これが森林破壊を加速させています。さらに、牛自身が大量のメタンガスを発生させ、20年間で二酸化炭素の80倍もの温暖化効果があると言われています。
報告書では、このような問題に対処するために、炭素の貯蔵効果を生むように、農地や牧草地の端に木を植えたり、土壌侵食を最小限に抑えるために輪作放牧を行ったり、土壌の肥沃度と炭素吸収を改善するために牧草地に豆類を播くなど、様々な「気候に配慮した」技術を推奨しています。
コンサベーション・インターナショナルの「Herding4 Health」プログラムでは、6カ国、150万ヘクタール以上の放牧地で、気候に配慮した農業技術を導入し、現地の人々が生活を依存している自然を再生させるための支援を行っています。
このプログラムへ参加することで、農村コミュニティは過放牧を最小限に抑えたり、草の生育や水の確保を妨げるような侵入植物を取り除くようになりました。その作業の見返りとして、家畜の健康状態を改善し、家畜マーケットへアクセスの支援を受けることができます。このプロジェクトでは、草原の劣化が進むと最も大きな損失を受けてしまう、地域農民のニーズを最優先しています。
「これらの解決策は、仮説的テクノロジーに頼った策ではありません」とスプリンクル・ハイポライトは言います。「多くの場合、実は何世紀も前から行われている方法を実施しているだけなのです。解決策の多くは、栽培条件や土壌の肥沃度、熱波や干ばつへの耐性を改善するため、地域の伝統的知識を取り入れたものです。」
ロードマップで紹介されている他の農業改善方法は、カバークロップや不耕起栽培などがあります。
そうした方法で、土壌の水分や温度を調整し、栄養分の流出を抑え、土壌の肥沃度を向上させるとともに、農場の二酸化炭素排出量を削減することができます。劣化した生態系を回復させることができれば、2,100年までに400ギガトンのCO2を除去できます。これは、毎年8,600万台以上の自動車が排出する量に相当する量です。
「森林破壊を食い止めることはとても重要ですが、それだけでは十分ではありません。劣化した土地を修復し、破壊された生態系を再生させ、今後数十年にわたって炭素蓄積の恩恵を受けられるようにしなければ、気候危機から真に脱出することはできません。」とグリスコムは述べています。
コンサベーション・インターナショナルは、各国政府と協力して、気候変動を緩和するうえで最も費用対効果の高い修復方法である、自然再生支援を優先させる政策を策定しています。そうした政策は、人間活動による悪影響や障害を取り除き、樹木の再生を可能にするものです。
「森林が再生している地域を保護するだけでも、急速に保全規模を拡大できるため、これは比較的低コストな修復方法です。」とグリスコムは言います。
自然を取り戻すための最も効果的なパートナーは、農民とともに、自然に最も依存している人々、すなわち先住民です。
先住民が管理している土地は、種の減少や汚染が少なく、自然資源がよりよく管理されていることがわかっています。例えば、ブラジルのアマゾン熱帯雨林では、シングー地域の先住民が「ムブカ」と呼ばれる伝統的な農法を実践し、森林の回復に取り組んでいます。ポルトガル語で「群衆」を意味する「ムブカ」と呼ばれる植林技術は、さまざまな種子を砂と混ぜ合わせ、直接土に植え付けるというものです。土壌を回復させながら、カシューナッツやアサイーなどの原生植物を収穫するため、多種多様な種子を混ぜて大量に蒔きます。
「保護は依然として最優先事項ですが、他の戦略と組み合わせる必要があります」とグリスコムは述べています。「先進国の人々にとっては、それはより健康的な食生活を意味します。農民や林業従事者にとっては、より良い財政的支援を受けながら、より賢明な手法を取り入れることを意味します。そして、先住民にとっては正義、つまり、より多くの権利と資源を手に入れることを意味します。これらの取り組みに共通しているのは、自然との関係を再構築することで、地球温暖化へ備えるということです。
カバー写真:©Pete Oxford/iLCP
記事翻訳:CIジャパンインターン 西川聖哲
この記事はコンサベーション・インターナショナル本部ブログ “New report: Without nature, there is no path to a climate-safe future” を日本向けに和訳・編集したものです。
コメント
コメントを投稿
ご感想やご意見をコメントしてください。