消失していくペルーの森を、コーヒーとコミュニティが救った話。<パート1>

イデルソ・フェルナンデスは、アマゾンの熱帯雨林の一部である、アルトマヨに初めて足を踏み入れたとき、自分が保護区域内に入り込んでいるとは思ってもいませんでした。 

フェルナンデスは弟とともに、より良い土地を求めて、ペルーのアンデス高地から東へと移ってきました。下草が生い茂る迷路のような道を進むと、ニューヨークの約2倍ほどの広さを持つアマゾンの熱帯雨林に行き着いたのです。

ペルー、アルトマヨの森 ©Yasushi Hibi


ヤシの木や古代の熱帯広葉樹の木々の下、霧に覆われた森は生命に満ちあふれていました。色とりどりの鳥や、イエローテールウーリーモンキーのような、絶滅の危機に瀕する希少な動物たちが、にぎやかに飛び交っていました。それらを目の当たりにしたフェルナンデスは、自分が根を下ろすべき場所をやっと見つけたと確信したのです。

彼は早速、森の中の小さな土地を切り開く作業に取り掛かりました。最初は米を植えようとしましたが、米は思ったより儲からなかったため、代わりにコーヒーを植えることにしました。アマゾン高地の夜は涼しく、昼は温暖な環境なので、コーヒーが良く育つからです。

「コーヒーは儲かりました。」とフェルナンデスは言います。「しかし、最初の農場を作ってから2年後になって初めて保護区のことを知りました。保護区内にいる私たちには、権利など正式なものがないことに気づいたのです」

フェルナンデスのような移住者の間では、森の保護を管理する政府機関(スペイン語の頭文字をとって”SERNANP”と呼ばれる)が、開拓者を追い出そうとしているという噂が広まっていました。

1970年代以降、アルトマヨ保護区にはフェルナンデスのような人々が続々とよそから移住してきました。多くの移住者は、良い農地が少なく、高価な西側の高地からやってきていました。現在、1,500世帯近くが暮らすアルトマヨは、ペルーで最も人口の多い保護区であり、当然のことながら、最も森林破壊が進んでいる地域の一つでもあります。この環境の劣化を食い止めるには、入植者が森の保護に積極的に参加し、自分たちがどういう地域に住んでいるのかを 認識するだけでなく、森の中で生計を立てるための持続可能な方法を見出すことが必要です。

何十年もの間、コーヒー農家の人々は、小さなコーヒー農園を作るために、木を切り倒し、下草を刈って燃やすという焼畑農業を実践してきました。農家がこのように不適切な農法を行うことで土壌は急速に劣化してしまいます。そのためさらに別の木を伐採して土地を確保しなければならなくなるため、森林減少の悪循環に陥っているのです。


コーヒーチェリー © Neil Palmer/CIAT


コンサベーション・インターナショナルの持続可能な農業専門家であるアナ・ルイサ・メンドーサは、「ここは本当に複雑な状況になっていました。」と話します。

「何年も森林の減少率が上昇していたとはいえ、ここは人々が暮らす家がある場所だったのです。入植者に出て行けと言えば済む話ではありません 。私たちはもっと良い方法を見つけたいと思いました。そしてコーヒーに焦点を当て始めたことで、すべてが形になっていったのです」


『すべての始まり』

 2011年以来、コンサベーション・インターナショナルは、農業訓練やファイナンスに関する知識、スペシャルティコーヒーマーケットへのアクセス支援などと引き換えに、森林の伐採を止めることに同意してもらう、「保全契約」と呼ばれる地域コミュニティとの協定を仲介することで、森林減少を食い止めようとしています。現在までに、アルトマヨで1,211の保全契約(※2023年1月時点)が結ばれており、これは保護区内に住む家族の約80%に相当します。そして、2020年の時点で、アルトマヨ保護区の森林減少は59%まで減ることができました。 

コンサベーション・インターナショナルのブラウリオ・アンドラーデは、過去10年間アルトマヨ・プロジェクトをけん引してきました。「アルトマヨで始まった保全契約のモデルは非常に成功したので、ペルー政府は他の35の保護区でも同様の契約を実施し、最近では国立保護区のシステム内に管理ツールとして組み込んでいます」


「ペルーの国家公務のリーダーたちが、国中で地元の人々と関わりを持ち始めたのを見るのは、とてもエキサイティングなことです」とアンドラーデは話します。「アルトマヨで作成した保全契約を雛形として、 SERNANPは地域コミュニティを自立させるために活動しています。これこそ、このプログラムにとって本当に重要なことなのです」
 
このプログラムが定着したのは2000年代初頭のことです。SERNANPが森林保護の必要性について、地元コミュニティーへ教育ワークショップを実施し始めたのがきっかけでした。その時、住民たちは自分たちが木を切り出すことを禁止されていると知り、不満を抱いたのです。

「私たちは、国が本当に私たちの土地を奪うつもりなのだと思いました。」と、現在保全契約に加入しているアブディアス・バスケスは言います。「私たちはSERNANPに働きかけ、伐採が禁止されていることは理解しているが、その代わりに私たちの農場に対する支援や何らかの技術指導が必要だと訴えました」

アブディアス・バスケス ©Cl / photo by Renato Ghilardi




 

投稿 : Will McCarry ※原文はこちら

翻訳協力: 井上晃利 (CIジャパンインターン) 

編集: CIジャパン 


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