消失していくペルーの森を、コーヒーとコミュニティが救った話。<パート2>

 パート1から続き

2011年、コンサベーション・インターナショナルはこの願いを実現するため、SERNANPとのパートナーシップを開始しました。アンドラーデと地元の関係者は、ローカルコミュニティに対して、コーヒーやその他の作物を在来種、土壌、生態系を守りながら栽培する手法に関する農業支援を始めました。 

”ヌエバ・ゼランディア”と呼ばれる地域の農家であるグリセリオ・カラスコがこのプログラムのことを知ったのは、コーヒー収穫が特に過酷なシーズンを迎えた後のことでした。

グリセリオ・カラスコ©Daniela Amico
「その頃、私は別の農場を買い、間違った方法で植え直していました」とカラスコは言いました。「もちろん、うまくはいかなかったです。農作物が病害虫に侵され、投資したものをすべて失ってしまいました。農家としてこの生活では、生きていくのがやっとの状態です。不作で借金を背負うことになったらどうなるか…想像してみてください」 

困ったカラスコは、公園のレンジャーから「国立公園メインオフィスを訪ねたら、他の農法を教えてくれるよ」と勧められました。そこで、コンサベーション・インターナショナルの現地パートナーであり、アンデス地方の生態系保全に取り組む非営利団体「Asociación Ecosistemas Andinos」の代表と話をする機会を得ました。

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「あの日がすべての始まりでしたから、決して忘れません」とカラスコは言います。  

彼は、保全契約に込められた想いにすぐに共感しました。彼は長年木をできるだけ伐採しないようにしてきたため、彼の農場は、隣人が管理する不毛の土地の中に浮かぶ森林の島のように見えていたそうです。ミーティングが終わると、彼は急いで家に帰り、父親にそのことを伝えました。

「私は父に、これは私たちにとってチャンスだと話しました。彼らは私たちに適切な農法のトレーニングを行い、有機肥料もくれるのだ、と」「もちろん、疑問や不安もありました。私たちがSERNANPと一緒にいることについて、否定的に見る人もいました。 しかし、契約を締結したら、コーヒーの種をもらえて、SENANPの指導員は、毎日私たちと一緒に畑に通い、それまでのやり方と違う新しい技術を教えてくれました」
 
2年連続で病気で作物が全滅したのを目の当たりにしたカラスコは、最初の数個の芽とコーヒーの実が出始めたとき、高揚感を覚えました。「樹木にダメージを与え、収穫量を減少させる真菌の病気である『さび病』の影響を受けなくなったのです。」彼は言いました。「同時に、森を傷つけずに生きていく術を少しずつ学んでいったのです」

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同時にカラスコは周囲の人たちにプログラムへの参加を促していました。それでも半信半疑で断られることが多かったといいます。実は森を守る見返りとして、当局が支援を行うのは今回が初めてではありませんでした。しかし以前のプログラムでは、肥料などの資材の提供や座学の開催はあっても、指導員が実際に参加者の農地を訪れることはなかったため、人々が学んだ新技術を実践に移すのは難しかったのです。

結局、カラスコは12軒の農家を説得し、保全契約にサインさせることができました。この駆け出しの農家グループは、今回はこれまでとは違うとすぐにわかりました。研修や直接の指導により、農家たちは、高地に住んでいたときに使っていた方法よりも、熱帯雨林に適した持続可能な新しい方法を採用するようになりました。指導員は、農家が水、肥料、農薬の使用量を管理できるよう手助けし、病気の管理計画を立て、土壌浸食を防止し、コーヒーの木が毎年実をつけ続けるようにするための新しい剪定技術を習得できるよう支援しました。

目標は、高品質で安定した作物を収穫するだけでなく、農地の土壌を毎年耕作可能な状態に保つ ことで、参加者が(新たな農地を求めて)さらに木を切り倒す必要がないようにすることでした。

「シェードグロウンコーヒーと呼ばれるのには理由があります」と農業の専門家であるメンドーサは言います。「木陰にコーヒーを植えることで、品質が向上するのです。そこで参加者たちは、伐採を避けるだけでなく、自分たちにとって有用な樹木、たとえば自生する果樹を植林できることをすぐに知りました。果実を売って収入を増やすだけでなく、コーヒーの木と一緒に育てることで、豆の味や香りが違ってくるのです」

かつて森林が伐採された場所に樹冠が戻れば、野生動物も戻ってきます。さらに、この生態系の草木や菌類のネットワークを維持する方法で農業を行うことで、コーヒー生産者は、気候変動に影響を与える炭素を蓄える自然の能力を加速させています。このプロジェクトは、合計で840万トンの温室効果ガスの排出を回避するのに役立っています。この量は、毎年15万台の自動車の使用をやめることに相当します」

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「ここで成し遂げたことに誇りを感じています」とカラスコは言います。「アルトマヨに来た当初は保護区が何なのか、どう手入れをすればいいのかも分かりませんでした。時が経つにつれ、保全契約は私たちに多くの扉を開いてくれました。まるで生まれ変わったかのようです。」


『開かれた扉』

2014年12月の雨の日の朝、保護区内の保全契約加入者が初めて顔を合わせました。コンサベーション・インターナショナルのプロジェクトマネージャーとともに71家族が集まり、数ヶ月前から温めていたアイデア、コーヒー協同組合の設立について話し合いました。

彼らを率いていたのが、イデルソ・フェルナンデスです。彼が意図せずアルトマヨ保護区に足を踏み入れてから数年が経っていました。その後、彼は保全契約を結び、持続可能なコーヒー生産に取り組むことで、生活の向上を図ってきました。しかし、フェルナンデスは、森に住み着いたすべての農家が協力し合える方法を見つけたいという夢を持ち続けていたのです。

イデルソ・フェルナンデス ©Renato Ghilardi


保全契約締結後、フェルナンデスは高品質なオーガニックコーヒーを生産する会社の監査役として就職していました。彼は、その会社で流通しているコーヒーが、有機栽培やアグロフォレストリーの原則に従って収穫・栽培されていることを確認する役割を担っていました。

フェルナンデスはここで、保護区内の保全契約加入者にも同様のモデルを導入することを思いついたのです。コーヒー協同組合を設立することで、保全契約の加入者が有機栽培やフェアトレードの認証取得を目指すことができ、買い手により良い品質の豆を提供し、より高い価格で売ることができると考えたのです。


「当局側と一緒に仕事をする私のことを裏切り者として見る人もまだ多くいました。しかし、私は、自分たちの手で協同組合をつくることで、自分たちの生活に変化をもたらすことができるのだということを伝えたかったのです。」と、フェルナンデスは話します。「コンサベーション・インターナショナルも同じ考えを持っていて、保全契約の枠組みを利用して協同組合を立ち上げたいと言ってきました。私たちは、団結すればもっと強くなれるという考えを、加入者全員に広げました。」
 

現在、アルトマヨ・コーヒー協同組合は、スペイン語の頭文字をとって「COOPBAM」と呼ばれ、組合員は400人近くにまで拡大しています。これにより、人々が活動の成果を目の当たりにし、反対運動は収束しつつあることが見て取れます。


COOPBAM設立以来、この協同組合は、組合員が自分たちのコーヒーをフェアトレードやオーガニックとして認証し、世界中のスペシャルティコーヒー市場への輸出するのを可能にしています。これまで、アメリカ、ドイツ、イギリス、オランダ、オーストラリア、日本、カナダなどに、合計1,500トン以上のコーヒーを輸出しています。
 
こうしたパートナーシップによる認証と利益の増加により、メンバーは自分たちの生活と地域社会を改善するためのプロジェクトに投資することができるようになりました。彼らは堆肥化施設を建設し、有機肥料を生産して、すべての保全契約加入者に配布しています。また、教育にも投資し、衛星アンテナを設置することで、遠隔地の集落でもライブのオンライン授業が受けられるようにしました。最近では、コーヒー業界で活躍できるよう、会員やその家族にコーヒーのテイスティングトレーニングを提供するなど、時代の流れに乗った取り組みも行っています。

現在もCOOPBAMのマネージャーを務めている、イデルソ・フェルナンデスは、後ろを振り返るつもりは全くないようです。  
 
「5年後、私は自分の農場に戻り、自分のすべてを捧げて協同組合を率いたと胸を張っている自分の姿を想像しています」と言います。「保全契約を結び、森を守ることで、自分も自分たちの持続可能な未来をつくる一員になりたいという人には、いつでも手を差し伸べるつもりです」

アルトマヨの森から見える夕陽 © Thomas Muller



投稿 : Will McCarry ※原文はこちら

翻訳協力: 井上晃利 (CIジャパンインターン) 

編集: CIジャパン 



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