インドネシア西ジャワ州グリーンウォールプロジェクトの現場を訪ねて Vol. 1

 By コンサベーション・インターナショナル・ジャパン 高松 美穂


今年8月初め、インドネシアの首都ジャカルタから車で2〜3時間のところにある西ジャワ州を訪れました。ジャカルタ市内は特に朝晩はひどい渋滞が毎日のように起きていて、郊外へ出るのにも時間がかかるとは聞いていましたが、「世界最悪の渋滞」とも言われるように、とにかく車の数がすごかったです。8月の2週目には、ジャカルタの大気汚染が急速に悪化して4日連続で世界最悪を記録したと世界的なニュースになっていたので、目にした方もいるかもしれません。

プロジェクト視察の話に進む前に、インドネシアの基本情報を紹介します。

国名 

インドネシア共和国(Republic of Indonesia 

面積 

192万平方キロメートル(日本の約5倍) 

人口 

2.7億人(2020年、インドネシア政府統計) 

首都 

ジャカルタ(人口1,056万人:2020年、インドネシア政府統計) 

民族 

300(ジャワ人、スンダ人、マドゥーラ人等マレー系、パプア人等メラネシア系、中華系、アラブ系、インド系等) 

言語 

インドネシア語 

宗教 

イスラム教86.7%、キリスト教10.7%、ヒンズー教1.74%、仏教0.77%  


世界第4位の人口を有するインドネシアは、赤道にまたがる約14,000の大小様々な島で構成されていて、地域によって民族やローカルの言語が異なることはもちろん、文化や習慣、食べ物の味付けもそれぞれ異なります。世界的に見ても、長期に渡って安定的な成長を維持している国といわれており、今後もさらなる成長が期待されています。ジャカルタや西ジャワ州に拠点を置く日本企業も少なくありません。

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さて、プロジェクトサイトの視察へ話を戻しましょう。 今回の視察の拠点となる町、Lidoまで来ると車の数もだいぶ少なく、周りに自然も多いせいか、ジャカルタよりも空気が気持ちよく感じました。Lidoには、CIのインドネシアにおける強力なパートナーであるKonservasi Indonesia(2022年にCI-Indonesiaから名称を変更)の現地オフィスもあり、現地のNGOのみなさんの協力を得て、グリーンウォールプロジェクトに共に取り組んでいます。

Lidoのメインストリートの様子


町の至る所(ホテルの中にも!)で見かけるネコたち。とても大切にされているそう


Lidoから車で30分ほど行った場所に、グヌン・グデ・パングランゴ国立公園があります。ジャワ島西部に位置し、隣接するグヌン・ハリムン・サラク国立公園と合わせると面積は約13万ヘクタールのジャワ島に残された貴重な熱帯林です。自然に寄り添って暮らす人びとの生活に欠かせない場所であるとともに、固有種であるジャワヒョウやジャワギボン、ジャワクマタカなどの貴重な生息地でもあります。しかし、ジャワ島の熱帯林は、過去数十年の間に農地転換や人びとの生活を支えるための伐採によって失われてきました。この国立公園と農村部の緩衝地帯(バッファーゾーン)でも荒廃が著しかったことから、特に荒廃が深刻であると評価された場所から優先的に、森林を取り戻すための「グリーンウォールプロジェクト」を2008年に開始しました。

背の高い木が生い茂っている様子はまさに「グリーンウォール」そのもの


このプロジェクトを通じて、地域コミュニティの協力のもと300haの土地に12万本の木が植えられました。開始から15年経った今では、15〜20メートルの高さに育っていました。何より驚いたのは、プロジェクトを通じて植えられたのは、たった8種類の木にも関わらず、それ以外の植物が自然と生えてきてまるで自然の森のようになっているということです。現地の自然環境に合った、かつ人びとの生計手段にも活用できる果樹などを植えたことにより、近くの森から鳥や昆虫など様々な生物が再生した森を訪れ、種を落としたり花粉を媒介したりするなどし、生物多様性の回復にもつながっているということがわかりました。また、再生した森には、絶滅危惧種であるジャワヒョウも来ていることがカメラトラップで確認されていて、現地スタッフがうれしそうに話している姿がとても印象的でした。




こうしたプロジェクトは、現地のコミュニティの人びとの理解がとても重要です。いくら自然環境に良いからと外部から言われたところで、彼らにも守るべき生活があり、生きていくためには収入も必要で、地元の人びとの負担になってしまっては、継続することが難しくなるからです。そこで、プロジェクトが始まるまでこの周辺地で農業を営んできた現地の人びとがどう感じているのかを現地NGOスタッフに聞いてみたのですが、このプロジェクトは地元でも成功した森林再生プロジェクトの事例として良い印象を持たれ、今では住民もとても協力的とのこと。むしろ、このプロジェクトのおかげで森が再生して森林がもたらす機能も回復し、コミュニティにとって安全な水へのアクセスが改善されたのは素晴らしいと話していました。


しかし、この協力関係も15年かけて築かれたもので、当時のプロジェクト担当者はコミュニティと信頼関係を築くところからはじめたそうです。それまでの生活や環境が変わってしまうことに懸念を示した住民は少なくなかったと思いますが、長い年月をかけて一緒に植林や保全活動を進めた結果、住民の森林の重要性への理解が深まり、今につながっていることを知りました。また、再生した森は国立公園内ですが、コミュニティの人びとは勝手に木を切ったり、野生生物を密猟したりする以外は森の資源を自由に取ることが許可されているそうで、森林は人びとにとって食料庫でもあり薬箱でもあり、人びとが自然の恵みをうまく活用してバランスをとって暮らしていることがわかりました。木の生長モニタリングは、普段は現地パートナーNGOが定期的に行っていますが、年に数回は地元の人びとの協力のもとモニタリングを実施するなどコミュニティ主体に進められ、今後同様のプロジェクトを必要としているエリアにさらに拡大していくことが期待されています。次回は、このグリーンウォールプロジェクトを通じて村に設置されたウォーターステーションの様子をお伝えします。

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