CI気候専門家にインタビュー -グローバル・ストックテイク(GST)報告書が明らかにしたこと-

 国連は、ドバイで11月30日から12月12日に開催される第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の基礎資料となる、「グローバル・ストックテイク報告書」を発表しました。

「グローバル・ストックテイク(GST)」とは、パリ協定後の各国の気候危機への対応を5年ごとに評価するもので、第1回報告書となります。その内容は「早急に劇的な改善が必要だ」という結果になりました。

コンサベーション・インターナショナルの国際政策バイスプレジデントのリナ・バレラは言います。「温暖化が急速に進む中、0.1度刻みの上昇でも大きな影響を持ちます。私たちはネットゼロに向けて全力疾走しなければならないのに、今回の報告書では、まだ“歩き始めたばかり”と評価されたのです。」

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簡潔にまとめると、今回の第1回報告書では、すべての部門で排出量を大幅に削減し、世界全体の投資のうち何兆ドルもの資金を低炭素排出で気候変動に配慮した開発への投入にシフトさせることを求めています。

この深刻な結果は、世界の気候変動抑制に向けた取り組みが不十分である、という一連の警告の中の一つです。しかしそれでも、コンサベーション・インターナショナルの気候政策専門家であるキレッサ・カスプレジクには、希望を見出すことができる点もあるそうです。

そこで、CIエディトリアルチームでは、カスプレジクにインタビューを行い、グローバル・ストックテイク報告書の所見と、今後の対応について話を聞きました。

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Q: まず、「グローバル・ストックテイク」報告書とは何でしょうか?なぜ重要なのですか?

カスプレジク:この報告書は、2015年にパリ協定で設定された気候目標を各国がどのように達成しているかを検証したものです。パリ協定の主な要素は3つあります。①温室効果ガスの排出量削減、②温暖化を1.5度以内に抑えるための取り組みの追求、③気候変動に対処する各国能力の強化し資金調達のために世界の金融を連携させること、です。

グローバル・ストックテイクの評価プロセスは、本質的にパフォーマンスレビューです。気候目標の達成に世界がどこで遅れているかを検証し、目標を達成するためにどのように前進できるかについて所見を提供しています。報告書が発表された今、各国は、この情報を用いて、COP28でコース修正に必要な次のステップに合意し、理想的にはより野心的な気候目標とそれらの達成計画を作成することになるでしょう。

Q: 報告書の内容はどのようなものだったのですか?

カスプレジク: 破局的な気候変動を防ぐための十分な対策がなされていないことが指摘されました。産業革命以前の水準から1.5度以内に温暖化を抑制するという“窓”は、急速に閉じられつつあります。しかし、迅速に行動すればまだ可能です。ストックテイク報告書は、「再生可能エネルギーの拡大」「化石燃料の段階的廃止」「森林破壊の終結」が、解決のカギとなるとしていますが、化石燃料への継続的な投資や依然として高い森林破壊率などを大きな課題として挙げています。

ストックテイク報告書は、自然が気候変動緩和において、必要不可欠な要素であることを強調しています。「森林破壊と劣化を止め、有害な農業慣行を改善して、自然を保護し、炭素吸収機能を強化することができなければ、気候変動問題の解決はない」と述べています。報告書はまた、気候変動の影響に適応するための取り組みについて詳しく述べており、自然に基づいた適応策が最も効果的なアプローチであると報告しています。

また、気候変動の影響を大きく受ける国々の損失と被害に対処するための資金を含んだ大量の資金動員が必要であることも明らかです。報告書が指摘するように、世界の資本は十分にあるものの、気候行動のために資本を転換するには「国際金融システムを変革する」必要があるのです。生態系の破壊を食い止めることは、報告書で強調されている最も低コストの解決策の一つです。

最後に報告書は、気候行動の中心に公平性と包括性を置くべきと強調しています。これは、先住民族、ローカルコミュニティ、女性や若者こそが、行動変化を確立し、実施するという役割があることを指しています。これは道徳的な観点からの要求ではなく、実用的な観点で重要です。現代科学と伝統的な知識体系を組み合わせることは、社会が求めるスピードで進歩を進める上で不可欠です。

Q:なるほど、現状が分かりました。では、これからどうすればよいのでしょうか?

カスプレジク:ドバイで開催される国連気候変動会議COP28では、報告書で指摘された欠点にどう各国が対応するか、また、気温上昇を1.5度に抑えるといった重要な目標をどう進めるかが話し合われます。ここで重要なのは、ストックテイク報告書が強調している「生態系の保全と食料システムの転換なくして気候危機を食い止めることはできない」という点です。

コンサベーション・インターナショナルは、気候崩壊を回避するための方法を各国が理解しやすいよう、自然の役割を最大限に発揮するためのガイド「Exponential Roadmap for Natural Climate Solutions(自然気候ソリューションのためのエクスポネンシャル・ロードマップ)」を作成しました。このロードマップは、農業や林業などの土地セクターが、1.5度未満を達成するために必要なネットゼロを2030年までに達成するための具体的な道筋を示したものです。これは、他のどのセクターよりも早い移行を示しています。

多くの国が、森林破壊の最大要因である農業が気候へ及ぼす悪影響を減らすのに苦労しています。ロードマップは、生態系の持つ炭素貯蔵の利点を生かすために農地や牧草地の端に植樹することや、土壌侵食を最小限に抑えるために輪作放牧を実践すること、また土壌の肥沃さと炭素吸収力を高めるために牧草地にマメ科植物を播種することなど、さまざまな気候スマート技術を採用することを勧めています。大事なのは、これらの解決策のどれも「食糧安全保障に影響を与えない」ということです。

Q:資金ギャップについて話されましたが、なぜ自然に基づく気候ソリューションは慢性的に資金不足なのでしょうか?

カスプレジク: 国連の報告書では、2025年までに資金を年間3,840億ドル以上に倍増しない限り、世界は気候と生物多様性保全の目標を達成できないと指摘しています。しかし、自然が強力な味方であるという認識が高まっているにもかかわらず、資金投入は全く追いついていません。自然保全の資金ギャップは、エネルギーや輸送部門よりも10倍から31倍も大きいと推定されています。

エネルギー転換のためのビジネス機会は、電気自動車の販売や太陽光発電の設置など、より明確になっています。しかし、自然保護に関しては、投資家が農業のために森林を伐採して得る機会費用よりも大きな投資利益を見ることは困難な場合があります。そのため、カーボンマーケットやREDD+など、自然を保護する行動に対する経済的インセンティブを生み出すツールを設計する必要がありました。これらは、樹木を生かすことの価値を高め、先住民やローカルコミュニティに必要な利益を生み出します。私たちは引き続き、自然がもたらす経済的効果を主張しながら、環境に優しいプロジェクトに資金を提供するグリーンボンドのような革新的な金融機会や、債務と自然保護の交換である環境債務スワップのような手法も検討する必要があります。

Q: このレポートは、破局的な気候変動を防ぐために私たちがもっとやるべきことを冷静に伝えてくれています。あなたは何に希望を持っていますか?

カスプレジク:気候行動のペースは加速しており、野心的な取り組みを求める私たちの一貫した呼びかけも功を奏しています。報告書によると、前回2つの気候会議の間で強化された各国政府の気候行動計画により、野心ギャップが約0.3度に縮小しました。これは小さく見えるかもしれませんが、そうではありません。0.1度刻みが生き残りをかけた生態系が元のように回復されることを意味します。

コンサベーション・インターナショナルのプロジェクトは、気候問題の解決だけでなく、コミュニティの生計も改善するという取り組みです。これは、「気候行動は経済を破壊する」間違った理解を覆すために不可欠です。

また、民間からの真剣な取り組みがようやく増え始めています。政府の資金調達と民間部門の大きな投資を組み合わせれば、必要な規模の資金を確保することができます。底に私は希望を見出しています。


投稿 :Mary Kate McCoy  ※原文はこちら
翻訳編集: CIジャパン

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