CDMの行方
8日は、公式会議の方はオペレーションに関する議題が多かったので、傍聴はパスし、CDM関連のサイドイベントに出ました。
今年は、CDM(クリーン開発メカニズム:途上国での投資による温室効果ガスの削減・吸収量相当を、京都議定書で定められた先進国の削減目標達成に使えるようにするしくみ)に関しては、特に、①CDMの持続可能な開発への貢献、②CDMの将来、に関する議論が活発です。
☆ CDMは途上国の持続可能な開発(SD)に本当に貢献するのか? ☆
CDMは、附属書I国(基本的に先進国のこと)が効率的にGHG排出を削減する方法を提供するとともに、途上国のSDに貢献することが、京都議定書において義務付けられています。しかしながら、今日までのCDMプロジェクトの開発から企業による投資まで、ほとんどSDに関する側面は無視され、効率性(すなわち、なるべく安く、なるべく沢山の炭素クレジットを得ること)のみが注視されてきたといっても過言ではありません。その結果、中国、ブラジル、インドという高い経済成長を維持し一定の経済・産業規模を誇る途上国にCDM事業が集中したり(CDM事業全体の約7割がこの3カ国に集中)、フロン破壊事業に集中するという状況になっています。
このような状況から、多くのサイドイベントで、CDMのSDへの貢献がテーマになっているのです。特に、今回のCOP/CMPがアフリカで開催されていることもあり、アフリカへのCDM投資を増加させ、地域間不均衡の是正についての議論が活発です。中には、地域ごとにプロジェクト数(あるいは炭素クレジット総量)を割り当てる、アフリカ等のLDC(最貧国)の事業に助成金を出すなど、市場メカニズムをディストートしかねない提案もされてます。しかし、そもそも排出権取引市場は、京都議定書という「ディストーション」によって生まれたのであれば、「市場の失敗」を避けるための方策も必要かもしれません。
地域間不均衡が、(SDに貢献することが前提の)CDM事業による恩恵を受けられないという問題である一方、現在実施されている多くのCDM事業がそもそもSDに貢献しない場合が多い、という指摘もいろいろなフォーラムで出ています。その代表例がHFC(フロン)破壊です。HFCは、温室効果が非常に高い物質なので、その破壊は確かに温暖化対策に寄与しますが、残念ながら途上国のSDに貢献する面はあまりありません。それどころか、HFCは、オゾン層破壊物質であるフロンの生産副産物であるため、温暖化対策を目的としてHFCを破壊するために、フロンが増産されてしまう危険性が指摘されています。これも、市場の失敗の顕著な例でしょう。
このような問題を解決するひとつの方策として、いくつかのホスト国(途上国)では、SD基準を設定し、申請されるCDMが本当にSDに貢献するものかどうかを審査する手法を取り入れ始めてます。あるいは、中国では、事業の種類により、SD貢献度が低い事業ほど高い「SD税」を課すような制度を発足させています。
CIでは、他のNGOや国際企業などとともに、植林事業における生物多様性とコミュニティへの貢献を担保するためのCCB基準(Climate, Community and Biodiversity)を策定してますが、いよいよ我々が主張する方向での議論が活発化してきたように思います。といっても、生物多様性への配慮や貢献の具体的な議論は、まだまだですが!
☆ 将来CDM ☆
現在の取り決めでは、CDMは2012年までの制度となっており、2013年以降については、今後の協議に託されています。まず、2013年以降もCDM の制度が継続するのかどうかが、最大の関心となってますが、COPやCMP(COP/MOP)での議論では、継続の方向で議論していくべき、との声が一応大勢のようです。一方で、将来CDMでは、現在認められていない事業も含めるべきではという声が高まったおり、その最右翼がCarbon Capture and Storage(CCS)で、これまたCOP/CMPやサイドイベントで議論の的です。CCSは、たとえば地中や海底に炭素を貯蔵しようというもので、大量に「排出削減」につながる可能性がある一方で、実際のGHG排出量は減らない(というか、貯蔵相当増える)ことから、気候変動の影響を最も受ける島嶼国(既に海岸線が後退するなど影響が出始めている国も多い)からの反対も根強いです。
また、森林破壊の防止のCDM化を求める声も一部で根強くあります(CIも本来的には、CDM事業であるべきと考えます)。しかし、今のところは、国レベルでの森林消失率でのモニタリングによる削減量の認識という方向性で議論が進んでいます。他には、部門CDM(セクトラルCDM)や政策CDMなどと呼ばれる、プロジェクトよりも幅広い規模での取り組みのCDM化の議論もサイドイベントなどでは活発です。
明日(9日)には、CMPでCDMに関する議論があるので、SDやCCSについての議論もなされるかもしれません。
♪ 今日の無駄話 ♪
ナイロビは、赤道直下ではありますが、高地にあるため気候は過ごしやすく、また結構街中に森があったりして、排気ガスによる大気汚染と治安の悪さを除けば、なかなか気持ちのいい街です。特にこの時期は、ジャカランダの木が、そこかしこで青紫色の花を咲かせています。ちょうど、桃色の代わりに青紫色のサクラが街中のそこかしこで咲いてるって感じで、ほんときれいです。
【写真は、会場へ向かう途中の、花を咲かせたジャカランダの街路樹】
(文責:Yasu)
今年は、CDM(クリーン開発メカニズム:途上国での投資による温室効果ガスの削減・吸収量相当を、京都議定書で定められた先進国の削減目標達成に使えるようにするしくみ)に関しては、特に、①CDMの持続可能な開発への貢献、②CDMの将来、に関する議論が活発です。
☆ CDMは途上国の持続可能な開発(SD)に本当に貢献するのか? ☆
CDMは、附属書I国(基本的に先進国のこと)が効率的にGHG排出を削減する方法を提供するとともに、途上国のSDに貢献することが、京都議定書において義務付けられています。しかしながら、今日までのCDMプロジェクトの開発から企業による投資まで、ほとんどSDに関する側面は無視され、効率性(すなわち、なるべく安く、なるべく沢山の炭素クレジットを得ること)のみが注視されてきたといっても過言ではありません。その結果、中国、ブラジル、インドという高い経済成長を維持し一定の経済・産業規模を誇る途上国にCDM事業が集中したり(CDM事業全体の約7割がこの3カ国に集中)、フロン破壊事業に集中するという状況になっています。
このような状況から、多くのサイドイベントで、CDMのSDへの貢献がテーマになっているのです。特に、今回のCOP/CMPがアフリカで開催されていることもあり、アフリカへのCDM投資を増加させ、地域間不均衡の是正についての議論が活発です。中には、地域ごとにプロジェクト数(あるいは炭素クレジット総量)を割り当てる、アフリカ等のLDC(最貧国)の事業に助成金を出すなど、市場メカニズムをディストートしかねない提案もされてます。しかし、そもそも排出権取引市場は、京都議定書という「ディストーション」によって生まれたのであれば、「市場の失敗」を避けるための方策も必要かもしれません。
地域間不均衡が、(SDに貢献することが前提の)CDM事業による恩恵を受けられないという問題である一方、現在実施されている多くのCDM事業がそもそもSDに貢献しない場合が多い、という指摘もいろいろなフォーラムで出ています。その代表例がHFC(フロン)破壊です。HFCは、温室効果が非常に高い物質なので、その破壊は確かに温暖化対策に寄与しますが、残念ながら途上国のSDに貢献する面はあまりありません。それどころか、HFCは、オゾン層破壊物質であるフロンの生産副産物であるため、温暖化対策を目的としてHFCを破壊するために、フロンが増産されてしまう危険性が指摘されています。これも、市場の失敗の顕著な例でしょう。
このような問題を解決するひとつの方策として、いくつかのホスト国(途上国)では、SD基準を設定し、申請されるCDMが本当にSDに貢献するものかどうかを審査する手法を取り入れ始めてます。あるいは、中国では、事業の種類により、SD貢献度が低い事業ほど高い「SD税」を課すような制度を発足させています。
CIでは、他のNGOや国際企業などとともに、植林事業における生物多様性とコミュニティへの貢献を担保するためのCCB基準(Climate, Community and Biodiversity)を策定してますが、いよいよ我々が主張する方向での議論が活発化してきたように思います。といっても、生物多様性への配慮や貢献の具体的な議論は、まだまだですが!
☆ 将来CDM ☆
現在の取り決めでは、CDMは2012年までの制度となっており、2013年以降については、今後の協議に託されています。まず、2013年以降もCDM の制度が継続するのかどうかが、最大の関心となってますが、COPやCMP(COP/MOP)での議論では、継続の方向で議論していくべき、との声が一応大勢のようです。一方で、将来CDMでは、現在認められていない事業も含めるべきではという声が高まったおり、その最右翼がCarbon Capture and Storage(CCS)で、これまたCOP/CMPやサイドイベントで議論の的です。CCSは、たとえば地中や海底に炭素を貯蔵しようというもので、大量に「排出削減」につながる可能性がある一方で、実際のGHG排出量は減らない(というか、貯蔵相当増える)ことから、気候変動の影響を最も受ける島嶼国(既に海岸線が後退するなど影響が出始めている国も多い)からの反対も根強いです。
また、森林破壊の防止のCDM化を求める声も一部で根強くあります(CIも本来的には、CDM事業であるべきと考えます)。しかし、今のところは、国レベルでの森林消失率でのモニタリングによる削減量の認識という方向性で議論が進んでいます。他には、部門CDM(セクトラルCDM)や政策CDMなどと呼ばれる、プロジェクトよりも幅広い規模での取り組みのCDM化の議論もサイドイベントなどでは活発です。
明日(9日)には、CMPでCDMに関する議論があるので、SDやCCSについての議論もなされるかもしれません。
♪ 今日の無駄話 ♪
ナイロビは、赤道直下ではありますが、高地にあるため気候は過ごしやすく、また結構街中に森があったりして、排気ガスによる大気汚染と治安の悪さを除けば、なかなか気持ちのいい街です。特にこの時期は、ジャカランダの木が、そこかしこで青紫色の花を咲かせています。ちょうど、桃色の代わりに青紫色のサクラが街中のそこかしこで咲いてるって感じで、ほんときれいです。
【写真は、会場へ向かう途中の、花を咲かせたジャカランダの街路樹】
(文責:Yasu)
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