自然が人間の健康を支える5つの方法

 

インドネシア、スラウェシ島 © Robin Moore/ iLCP


世界各国が重要な生態系の保護に取り組む今、自然がどのようにして私たちの生活に役に立っているのか、そしてなぜ私たちは自然を守らなければならないのかについて取り上げたいと思います。本記事では、自然が人間の健康をどのように支えているのか、ご紹介します。 

1. 自然は、人間が生きる上で最も基本的な欲求を満たしてくれる

私たちが呼吸する空気、飲む水、食べるもの、すべてが自然からもたらされているものです。コンサベーション・インターナショナル(CI) が発表した最近の研究では、熱帯地域の人口の3分の2以上(約27億人)が、最も基本的なニーズの少なくとも1つ以上を自然に直接的に依存していることがわかりました。 

この調査が明らかにした世界地図は、最も自然資源に依存して暮らす人々の場所を正確に特定し、気候変動と自然破壊が人間の生活に及ぼす脅威を明らかにしています。CIの科学者で、論文の主執筆者であるジャコモ・フェデレ(Giacomo Fedele)は、こう述べています。

「場所によっては、伐採、持続可能でない農法、採鉱などの危機があります。このような脅威は、そこへ暮らす人々へ食料や清潔な水、そして建築資材へのアクセスを減らし、生活を危険にさらす可能性があります。」 

しかし、事態は良い方向に導くこともできます。この世界地図を参考にすれば、人間の幸福にとって最も大切な場所に特化して自然保護に取り組むことを可能にするからです。

自然に頼りながら生きている人々がどこで暮らしているかを知ることで、政府や意思決定者がこれらのコミュニティが最も依存している資源に基づいて、効果的な保全と持続可能な開発戦略を実現することに役立ちます。」とフェデレは話します。 


2. 自然は将来のパンデミック防止に役立つ


新興のウイルス性疾患の70%は動物からヒトに感染しているように、環境破壊、森林伐採、野生動物の売買が、病気の発生を更に増やしています。人間が熱帯雨林に侵入すればするほど、野生動物との接触が多くなるため、動物が保有している可能性のある、未知のウイルスに人間がさらされる危険が高くなります。 
CIの専門家が共同執筆した最近の研究は、パンデミック防止の画期的な計画を発表しました。10年間の投資として、コロナ対策にかかった費用の50分の1以下の金額で将来のパンデミックのリスクを27%以上減らせるというものです。その方法とはなにか?それは、「自然を守ること」です。 これには、森林破壊を減らす、世界的に行われている野生動物の取引を制限する、新しいウイルスが蔓延する前に発生をモニタリングする、この3つの戦略が必要です。CIの科学者で、研究の共同執筆者であるリー・ハンナ(Lee Hannah)は、森林を維持することで、人間が人獣共通感染症の危険にさらされるリスクを減らすことができると説明しています。 
「次のパンデミックを防ぐために、各国や企業は、森林を破壊するのではなく、保護することにインセンティブを与えることが重要です。森林を維持することは、公衆衛生に良いだけではなく、気候変動を遅らせることにもつながるのです。

薬の原料になる草の根を持つ女性 © Benjamin Drummond

3. 自然は世界の「薬箱」


自然を保全することは、感染症の発生を防ぐことにつながりますしかし、自然は病気の治療もできることをご存知でしょうかアスピリンやペニシリン、モルヒネや複数の化学療法薬など多くの現代の医薬品の多くは、植物や菌類に由来しています。 

「私たちが熱帯雨林を保護することは、自然の薬箱、つまり癌や嚢胞性繊維症などの病気を解決する手がかりとなる野生動物や植物を維持することにもなるのです。」と医師であり、CIのパンデミック対策員であるニール・ヴォラ医師(Dr. Neil Vora)は述べています。 

また、海の生物も医療技術の開発に役立っています。例えば、アメリカでは病院の壁などにサメの人工皮膚を貼ることで細菌の付着を抑制しています。しかし、生物多様性の損失と森林伐採が広がれば、まだ発見されていない治療法も含めて、自然由来の医薬品の源になる資源や発見が失われる可能性があります。

生物化学の研究者であるメラニー・ジェイン・ハウズ( Melanie-Jayne Howes )はガーディアン紙にこう語りました。「私たちはまだわずかな生物種の特性しか利用していません。例えば、小児白血病の治療に使用されるビンクリスチンや、ホジキンリンパ腫の治療に使用されるビンブラスチンなど植物や菌類が作り出す化学物質の中には、いまだに合成できないほど複雑なものもあります。 

 

  1. 4. 自然は心身に健康と幸福をもたらす 


自然には気分を高める効果があることが、多くの研究によって示されています。少なくとも週に2時間自然の中で過ごすことはうつ病対策となり、不安を和らぎ「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンの分泌を高める効果があります。文化によっては、自然の中に身を置くことがセラピーの一種と考えられているものもあります。例えば、日本では「森林浴」という習慣があり、自然の中に身を置き、景色、音や香りを楽しむことで知られています。 

このような自然を利用したエコセラピーの健康効果は、科学的にも裏付けられています。例えば、緑地に長く身を置くことは、2型糖尿病、心血管疾患、高血圧のリスクが減少するという研究があります。医師の中には、従来の西洋医療を補完するものとして、森林浴などの自然と関わりのある活動を支持する人もいます。 

また、自然の音を聞くだけで、ストレス緩和や認知能力が高まるという研究もあります。CIが公開しているHear Me While You Canをチェックして、鳥のさえずり、虫の声、小川のせせらぎなど世界中の生態系が織りなす繊細なサウンドをお楽しみください。 

 

  1. 5. 自然は気候変動を止めることができる 

 

厳しい熱波、海面上昇、干ばつの長期化など、気候変動の影響により、2070年までに一部の地域では居住不可能となり、世界で何億人もの人々が故郷を追われる可能性があります。また、地球温暖化はすでに「世界の公衆衛生に対する最大の脅威」として考えられており、心臓血管や肺の病気から皮膚の病気まで、さまざまな病気を引き起こすと世界有数の医学誌が警鐘を鳴らしています 。

感謝すべきことに、森林、泥炭地、海洋などの生態系は、気候変動の要因となっている炭素を大気中から吸収するために24時間働き続け地球上の年間排出量の約半分を吸収、貯蔵してくれています。実際に、コンサベーション・インターナショナルが主導した研究によると、生物圏として知られる地球上の陸域および海洋生態系の複雑なつながりがなければ、私たちは今よりも過酷な気候変動の影響を受けていただろう、ということがわかっています。 
 

CIの科学者で、本研究の共著者であるデイブ・ホール( Dave Hole )は、「たとえ、経済全体で炭素排出量を大幅に減らしたとしても、自然の力がなければ、今世紀末までに世界は3℃の温暖化に見舞われるでしょう。」と言います。「すでに私たちは気候危機を防ぐための手段を持っているのです。自然はその多くを提供してくれています。」 

 

カバー写真©Benjamin Drummond 

記事翻訳:CIジャパンインターン 佐伯栞 

 

この記事はコンサベーション・インターナショナル本部ブログ“5 ways nature supports human health" を日本向けに和訳・編集したものです。 

 


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