何が森林減少を引き起こし、どうすれば食い止めることができるのか

 

© FLAVIO FORNER


2023年は、世界各地で記録的な猛暑となりました。人間活動が引き起こしている気候変動の影響がなければ、こうした異常な暑さは起こり得ないと、多くの研究が明らかにしています。

各国が危険な暑さへの対応に追われる中、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスの主な要因の一つ、化石燃料による排出に次ぐ要因である森林減少を食い止める方法について、先例のない包括的な研究が発表されました。コンサベーション・インターナショナルの気候経済学専門家ジョナ・ブッシュ(Jonah Busch)を中心に行なわれたこの研究は、森林減少を加速させている要因と、それを防ぐ方法に焦点を当てており、320件におよぶ専門家のレビューを受けた研究から得た結果をまとめたものです。

気候変動への取り組み、自然保護など、国際的な取り組みが活発化する中、ブッシュは「今回の研究結果が温室効果ガスの排出を減らし、急速に温暖化が進む地球をクールダウンさせるための強力な味方の一つである森林を保護するためのロードマップとして役立つことを願っている」と述べています。

「世界のリーダーたちは、2030年までに森林減少を食い止め、回復させることで気候変動に立ち向かうことを約束しました。この新たな研究は、政策や投資を気候変動対策における目標へ向けて後押しするものであり、そうではない行動を遠ざける点で重要です」

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森林減少を防ぐために

森林減少を防ぐ方法としてすでに証明されているものの中で、国立公園や原生自然地域など、自然保護のために設けられた区域がもっとも効果的であることがわかりました。

「保護区域は、自然を守り、気候変動を食い止めるために試行錯誤を重ねてきた方法です。しかし、すべての保護区が同じように作られているわけではなく、立地条件が鍵になります。気候変動の緩和に真の意味で貢献するためには、適切な場所に保護区を作る必要があります」

現在、地球上の約17%の土地が保護区に指定されていますが、その多くは森林減少の脅威が比較的少ない、人びとが暮らす場所から遠く離れた場所にあります。生物多様性の損失と気候変動を食い止めるために自然を守る必要があると科学者が指摘するように、各国が国土の30%を保護する取り組みを強化する中、新たな保護区は、森林減少が起こりやすい場所に作られるべきです。

つまり、人口が多く、都市や道路に近い地域がそうした場所にあたります。森林減少の要因を理解することは新たな保護区を設置する場所の判断材料となり、自然と気候を守る上でより大きな影響を与えることができるとブッシュは話します。

さらに、先住民族の領土や彼らが管理する土地においては、森林減少率は一貫して低いことがわかっています。これは、伝統的に森林を大切にする価値観があり、また都市部から離れた場所にあることから、農地転換される可能性が低いことに起因している、とブッシュは述べています。

2017年、ブッシュと同僚たちは、当時入手可能だった研究内容を、森林減少に関する分析を発表しました。その後6年間で、先住民の管理する土地は、森林減少を免れていることを証明する研究は2倍以上に増え、彼らの土地の権利を守り、領土を公的に認めることが森林減少を防ぐ鍵であることを裏付ける、これまででもっとも確かな根拠となりました。

「わずかだった根拠が今では確証に変わりました。先住民による管理は、間違いなく森林減少を遅らせることができます」

土地の権利を守ることで、先住民コミュニティは独自の資源管理システムを実現することができ、その結果、土地や水を保護し、世界的な保全目標に貢献することができます。2022年に自然保護のために約200 カ国が署名した、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」においても、先住民族の権利と貢献が正式に認められました。

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森林減少を防ぐ他の成功事例としては、地域コミュニティへ経済的なインセンティブを与えるアプローチがあります。たとえば、森林が大気中から炭素を除去し、幹や土壌に蓄積することを評価することです。この研究では、森林を保護するコミュニティに便益をもたらすことで、森林減少率が低下することが明らかになっています。たとえば、カーボンクレジットの売却による利益は、医療サービスの改善や教育資金の支給、新たな雇用機会の創出など、コミュニティの生活にとって必要な投資へとつながります。コンサベーション・インターナショナルとパートナーたちは、ケニアのチュルヒルズにおいてカーボンプロジェクトを立ち上げ、40万4,000ヘクタールの土地の保全と再生とともに地域コミュニティの新たな生計手段の確立に取り組んでおり、約3,000万トンの炭素排出の防止に貢献しています。

加えて、森林保護を条件に、コーヒーやパーム油などの農産物をより高い価格で販売することを農家に許可する認証制度や、サプライチェーンにおいて森林減少をなくすという企業のコミットメントも、森林減少の防止につながっていることがわかりました。


森林減少を加速させるものとは

熱帯地域における森林減少の主な要因は何でしょうか?それは、農業です。熱帯林の減少の原因の90%は農業によるものです。農地転換の面積は年間で900万ヘクタール、サッカー場にたとえると、およそ800万面分に相当します。それでは、なぜ農業は森林にダメージを与えるのでしょうか。ブッシュによると、それは経済的なインセンティブに起因するといいます。

「土地には価値があり、また希少です。森林を伐採してでも農作物を栽培する経済的価値は、常にマーケットに反映されています。清潔な水や気候変動の要因となる炭素を吸収する機能など、森林の価値は非常に大きいにもかかわらず、世界市場の森林に対する評価はとても低いのです」

最後に、ブッシュも驚いた森林減少の要因は他にもありました。それは、これまで一度も論文として発表されたことがなく、また従来の常識とは異なるものでした。
これまでも貧困がゆえに、人びとが農作物を栽培し、生きる上で基本的なニーズを満たすことが森林減少の後押しとなっているという根強い説があります。しかし、貧困が森林減少を引き起こすのではなく、富こそが森林減少を引き起こしている、という証拠がこれまでに何度も示されている、とブッシュは話します。

「人びとや企業がより多くの資源を持っていればいるほど、森林を伐採するために必要な機材や労働力をより多く手に入れることができ、広大な土地を切り開くための信用も得やすくなるのです」

この研究は、気温の上昇と森林減少の関係性を初めて明らかにしたものでもあります。気温が高く、乾燥した環境によって森林は火災の影響を受けやすくなることから、森林火災は世界の多くの地域で森林減少の原因になっています。こうした森林減少の増加は、気候変動がもたらした不本意な結果なのかもしれません。

いずれにしても、気候変動は森林の生命力を高めると同時に、森林をより脆弱なものにしています。森林減少が気候変動に拍車をかけ、それがまた気候変動に拍車をかけている、という悪循環に陥っているのです。

「この夏の記録的な暑さによって、気候変動が今まさに起こっていることだということを私たちは思い知らされました。森林は気候変動に対して私たちができる最善の防止策の一つです。しかし、それも森林が残されている場合に限られますが…」とブッシュは話します。 

投稿:Mary Kate McCoy  ※原文はこちら
翻訳編集: CIジャパン

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