瀬戸際に立つラウ諸島 ~ 危機に直面する海洋生物たち ~

Fijiを出航した船 © CI/MARK ERDMANN

本記事はコンサベーション・インターナショナル本部ブログ
ON THE EDGE" を日本向けに和訳・編集したものです。  

By シャネル・ヴァン・ダイケン(Schannel van Dijken)

2017年の5月、CIの専門家チームがフィジー諸島から出航しました。彼らのミッションは、南太平洋の数千平方マイルに点在する、あまり名の知られていない小島群の1つである、ラウ諸島の海洋生物を調査することです。

調査隊はラウ諸島に生息する生物を探すだけではなく、まだ開拓されていない海域の健全性を計る手がかりも探していました。

海水温の上昇によりサンゴ礁が破壊され、太平洋全域で魚の回遊が不安定になる中、この地域の管理は、気候変動への耐性を確保し、ラウ諸島を”故郷”と呼ぶ何千人ものの人々に食料と生計を提供し続けるために、極めて重要です。

本記事では、コンサベーション・インターナショナル太平洋諸島海洋プログラムのディレクター、シャネル・ヴァン・ダイケン(Schannel van Dijken)が、調査遠征で発見したことをご紹介します。本調査では、サンゴ礁に生息する魚の個体数は一定数を保っていることがわかりましたが、別の海洋生物については、厳しい結果が示されました。

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ラウ諸島では、無脊椎動物の問題が深刻です。

コンサベーション・インターナショナルが行った調査は、フィジー海域に生息する27種のナマコのうち15種を記録しました。しかし目立つのは、(ヒトデやウニに近い種である)ナマコの個体密度が危険なほど低く、繁殖不全を回避するために必要な基準密度である、1ヘクタール辺りに10〜50個体を大幅に下回っていることです。

フィジー海域に生息する7種の二枚貝のうち4種を発見し、それら貝類の状態は全体的にナマコよりはましであることがわかりましたが、個体密度は低く、さらに多くの個体が平均サイズよりも小さいことが明らかになりました。


©  Schannel van Dijken

二枚貝類の密度は全体的に低く、ばらついていました。フィジーの漁業担当副長官が地元紙に語ったところによると、貝類への市場需要の拡大が乱獲を招いているということです。フィジーでは、すでにオオシャコガイ(Tridacna gigas)とシャゴウ(Hippopus hippopus)の2種が、1950年代から1960年代にかけて乱獲され、絶滅の危機に瀕しています。

本調査と同様のフィジー海域における無脊椎動物の調査は、2011年から2013年にかけて行われ、個体数の減少を抑制するための施策の必要性について強い提言がなされましたが、残念なことに今回の結果が示すように、状況は改善されていないことが分かりました。


なぜ無脊椎動物のことを気にかける必要があるのか?

ナマコや貝類は、健全なサンゴ礁を保つために重要な生態学的機能を果たしており、もし消失してしまったり、一定数を下回ったりすると、サンゴ礁全体の健全性が損なわれる可能性があります。

二枚貝 は、水を吸い上げ、ろ過し、サンゴ礁の中で他生物への食料として、またある時は、隠れ家として、そしてサンゴと同じく、サンゴ礁を形成する一部として役立ってます。

一方で、ナマコも海にとって大切な役割を担っています。堆積物をろ過し、有機物を分解して栄養分を食物網に再循環させます。またナマコの卵は他の海洋生物にとって重要な食料源となっています。

驚くべきことに、ナマコはサンゴ礁における海水の酸性度にも影響を与えることができます。ナマコの消化活動は、サンゴ礁にとって化学的な「収入」となる、炭素カルシウムをもたらし、天然で海水中の酸性を打ち消す役割として働き、サンゴ礁の健全なpHバランスを維持するのに役立っているのです。気候変動によって海水が酸性に偏っていることを考えれば、ナマコの存在はなおさら重要です。

貝類とナマコは、食料と生計を確保するために、フィジーにとって経済的に重要な役割を担っています。どちらも文化的資源として高い価値があり、特にナマコは、アジアの市場で高い人気を誇っています。

これらの理由を考えても、あまり目立たないナマコと二枚貝類の存在意義は計り知れません。残念なことに、私たちの調査が示したナマコの低密度は、もうすでにサンゴ礁の健康状態に影響を及ぼしています。サンゴ礁生態学者であり、本調査に同行した、カレド・ビン・スルタン海洋生物財団 (Khaled bin Sultan Living Oceans Foundation、以下KSLOF)のアレクサンドラ・デンプシー (Alexandra Dempsey)によると、ラウ諸島で彼女が過去に行った4年間の調査では、サンゴ礁の不健康を示すシアノバクテリアの増加が見られ、今回の調査では、ナマコや貝類の乱獲や密猟がシアノバクテリアの更なる増加に繋がっている可能性が示されたということです。

4年後に衰退したサンゴ礁

2013年、私はKSLOFと共にラウ諸島の海洋生物の調査を行いました。私たちはKSLOFが以前訪れた3つの諸島、トトヤ、バヌアバツ、モアラを調査しました。そのうち、トトヤとバヌアバツは、まだ健康な状態であることが分かりました。

しかし、モアラは良い状態ではありませんでした。2013年時点ですでに、シアノバクテリアがサンゴ礁の10%以上を占めていることが判明し、サンゴ礁の健康状態が悪化していることが明らかになりました。この結果は、サンゴ礁の未来の健康状態にとってあまり良くないものでした。海底に溜まったシアノバクテリアは、サンゴを窒息させ、日光や栄養分の供給を妨げる可能性があるからです。

なぜモアラのサンゴ礁には多くのシアノバクテリアが存在するのでしょうか?

KSLOFのサンゴ礁生態学者であるアレクサンドラ・デンプシー (Alexandra Dempsey)は、このように答えています;

ナマコや貝類などの無脊椎動物の乱獲や密猟が関係しています。ナマコなどの棘皮動物は、藻類やシアノバクテリアを食料とするため、サンゴ礁のバランスを保つのに役立っています。2017年にモアラでは、2013年の調査結果と比較して、さらに少ないナマコ個体と、より多いシアノバクテリア(同調査範囲で約40%増加)が確認されました。2013年から2017年の4年間に起きた変化によって、ナマコの保護、保全がいかに重要であるかということが明らかになりました。ナマコの個体数が減少するにつれて、シアノバクテリアの増加が止まらないのです。

さらに、フィジーのナマコ漁全体の長期的な持続可能性が危ぶまれています。ラウ諸島はフィジーにとって重要な存在です。研究によると、ナマコや貝類の種の遺伝子の流れは、東から西の方向に流れるので、ラウ諸島を含めたフィジーの東の島々の生物の個体群の保護をすることは、漁業全体の遺伝的多様性や健康、回復力に利益をもたらすと考えられています。

儲かる種

太平洋における貝類とナマコの貿易は長い歴史を持っています。太平洋におけるナマコ市場の価値は約57億円(5000万ドル)で、マグロ市場に続いて2番目に価値が高い海鮮物となっています。しかし、世界がマグロの保護に力を注いだ結果、ナマコは更に漁獲されることになりました。多くの太平洋の島国がナマコ漁に制限をかける中、フィジーはナマコ漁の制限を強めることなく、インド太平洋地域で4番目に大きな輸出国となりました。

アジア市場での価値を考えると不思議なことではありませんが、政府の報告によると、フィジーにおける小規模漁業者によるナマコの収穫規模は「膨大」です。

中国では祝祭日のメニューにナマコがないことはなく、結婚式や大きなお祝い事、ビジネスのための会食などで、主催者の印象を良くするための高級品のトップ5に入っています。そのため、中国の市場では1キロあたり約35万円(3000ドル)で販売されることもあります。ナマコ市場は儲かるビジネスなのです。

私たちは何ができるのでしょうか?

フィジーにおける貝類とナマコ漁の長期的で持続可能性は、社会経済的・生態学的観点から沿岸地域にとって非常に重要であり、人間の幸福を支える持続可能な資源利用を最大化しつつ、資源の存在を脅かさないに保全することは紙一重であります。残念なことに、経済的な要因が大きい場合、このバランスが大きく崩れ、重要な漁業が危機を直面する事態となってしまうのです。

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これが今フィジーで起きている現実です。ナマコ漁は崩壊寸前です。私たちが今行える、最も効果的な解決法は、将来的に漁業が存続できるように、そして資源の回復を可能にするために、完全かつ一時的な漁業の停止を実施することです。漁業を止めることは簡単なことではありません。ナマコや貝類の海洋無脊椎動物に対する自然資源の理解度を高め、その管理の開発、実施、所有権を地域レベルで推進できるよう、文化的に適切で、効果的な働きかけと教育が必要です。

それでもまだラウ諸島の未来は明るいはずです。なぜなら、ロコ・サウ(Roko Sau)のように、問題を理解し、必要な改革を国民と共に行う指導者がいるからです。ラウ諸島は今後のために、先進的で自然を守る正しい行動をとっています。

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