「気候変動への適応」とは何だろう?

©Daniel Uribe


本ブログは、CI本部ブログの“What on Earth is ‘Climate Adaptation’?”を日本向けに和訳編集したものです。”What on Earth”シリーズでは、環境分野で良く使われる専門用語について、専門家に話を聞きながらご紹介します。

今回は、英語で「Climate Adaptation」と言われる、「気候変動への適応」についてです。


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Q: 「気候変動への適応」とは何でしょうか? 

気候変動が私たちの生活にもたらしているさまざまな影響に対して、 地域社会や国家の在り方を調整していくことです。 

 

Q: 待ってください。気候変動に適応することよりも、むしろ気候変動を終わらせるために時間とエネルギーを注ぐべきではないでしょうか? 

炭素の排出量を大幅に削減することで、気候変動の深刻化を防ぐ時間はまだ残っています。しかし、すでに世界中の何百万人もの人々が、急速に進む気候変動の影響にさらされているのです。アメリカでは壊滅的なハリケーン、中国からヨーロッパにかけての干ばつイギリスでの記録的な熱波など、新聞の見出しを見るだけでも明らかでしょう。気候変動による気温の上昇は、ケニアからパキスタン、インドに至るまで、イナゴの大発生に拍車をかけているという調査結果もあります。   


気候変動は、人類が直面する唯一にして最大の健康への脅威となり、私たちは迅速に適応策を進める必要があります。専門家に詳しく聞いてみましょう。  


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「気候変動は10年先の問題ではなく、今まさに起きています。」と、コンサベーション・インターナショナルの気候変動への適応策をリードするジャコモ・フェデーレ(Giacomo Fedele)は話します。「貧困地域で暮らす人々、少数民族、移民、避難民など、最も弱い立場にある人々が、生き延びるために苦しんでいます。」 

 

Q: まるで「世界の終わり」のような話ですね。  
まだ、この世の終わりではありませんが、特に発展途上国の多くの人々にとっては深刻な問題です。コンサベーション・インターナショナルの調査によると、熱帯諸国に暮らす12億人の人々のベーシックヒューマンニーズは、直接的に自然に大きく依存していることが分かっています。これらのコミュニティの多くは、気候変動の責任を問われることは少ないものの、生計や住宅資材などの基本的なニーズを自然資源に大きく依存しているため、最大級の危機に直面しています。 

 

 「気候変動が自然を劣化させるにつれて、これらのコミュニティは生きていくための資源をどんどん失っていきます」「地球温暖化は世界的な現象ですが、その影響は地域や国によって偏りがあるのです。」  


例えば、パラオやフィジーといった太平洋諸島の国々の排出賞を合わせても、世界の排出量の1%未満ですが、こうした国々は、すでに気候変動の最も深刻な影響に直面しています。海洋の温暖化の影響で、マグロは島々の海域外へと移動しており、そこではマグロの漁獲量が急減しています。コンサベーション・インターナショナルの調査によると、この傾向が続けば、2050年までに毎年1億4000万ドル(約180億3000万円)の損失が発生し、それは、一部の太平洋地域政府の年間歳入の最大17パーセントに相当する損害が発生する可能性があります。 


 

© Conservation International/photo by Sterling Zumbrunn



Q: 気候変動に立ち向かい、適応策を進める時が来ていることが良く分かりました。それでは、どうすればいいのでしょうか? 
気候の影響に適応する方法はたくさんありますが、地理的、社会経済的、文化的、政治的条件によって変わります。例えば、洪水が起こりやすい地域では、防潮堤や高床式住居などのインフラを設置し、気候変動に耐えられるようにする方法があります。また、サイクロンの発生を知らせて避難させるための早期警報システムなどの技術開発、また、干ばつに強い作物を植えることも一つの方法です。 

気候変動への適応には、万能なアプローチはありません。しかし、どのような場合でも、自然は私たちの最大の味方ですが、見過ごされがちな存在なのです。 

 

Q: 自然に依存している人ほど気候の影響を受けやすいのではないですか? 

そうです。しかし、多くのコミュニティが自然をうまく活用して、洪水や干ばつなどの気候の影響に適応しています。 

 

Q: 例を挙げてみましょう。 

例えば、フィリピン中部のコンセプシオン市では、2013年に台風に襲われ、家屋が破壊され、6,000人以上の命が失われました。  

コンサベーション・インターナショナルは、フィリピン政府やパートナーとともに、マングローブの再生と、防波堤や防潮堤など従来の工学技術を組み合わせたハイブリッドなアプローチにより、海水面の上昇や将来の嵐に備えてコミュニティの結束を支援し、洪水管理、海岸線の保護、侵食の制御を実現しました。このアプローチは「グリーン・グレーインフラ」と呼ばれ、自然に逆らわず、自然と共に活動するものです。マングローブは、建設された構造物とともに、第一の防波堤として活用されています。 

バゴンゴン漁民協会のビビアン・アマサン(Vivian Amasan)は、「コミュニティとして、気候変動に対する備えができていませんでした」と話します。「グリーン・グレー・アプローチは、気候変動が及ぼす課題に立ち向かうための準備となります。」 

 

Q: なぜマングローブなのでしょう?  
マングローブは、海面上昇や高潮に対して、”天然の緩衝材”として機能します。世界的には、マングローブは毎年820億ドル(約10億6000万)相当の災害対策lを沿岸地域に提供しています。さらに、1平方マイル(2.8 平方キロメートル)のマングローブには、自動車9万台分の年間排出量に相当する炭素を蓄積することができ、地域社会が気候危機と戦いながら適応していくために役立ちます。 

 

マングローブの再生に必要な資金を調達するため、コンサベーション・インターナショナル「ブルーカーボン・クレジット(海洋生態系に蓄積された炭素に関連する、検証可能な排出削減量)」を利用しています。コロンビアのカリブ海沿岸に広がる、1万1000ヘクタール(110平方キロメートル)のマングローブプロジェクトでは、ブルーカーボンを完全に測定し、収益化した初めての例です。収益の大部分(92%)は、マングローブの保護や、マングローブに生活を頼る1万2000人の生活を支援するための地域保全管理計画に投資されます。  

  

コンサベーション・インターナショナルのブルーカーボン・プロジェクト、ディレクターであるマリア・クラウディア・ディアスグラナドス(María Claudia Díazgranados)は、「気候変動に立ち向かうために自然が提供する多くの解決策の中で、マングローブはとりわけ重要な存在です。」と話します。「マングローブは沿岸地域の保護バリアとなり、さらに大量の炭素を保持することができ、そうした炭素のクレジットを介して地域社会に長期的な収入をもたらすことができるのです。」 


Q: マングローブだけが頼りになるのでしょうか? 
いいえ、気候の影響に適応するために自然を活用できる例はたくさんあります。サンゴ礁、塩性湿地、海草などはすべて、高潮を防ぐ自然のバリアとして機能しながら、炭素を吸収・蓄積する役割も持っています。そのおかげで森林は、水流を調節し、干ばつを防ぎ、熱波から日陰を作り、地滑りから身を守ることができます。豪雨に対応できるように氾濫原を回復させることができれば、地域を洪水から守ることができます。 

 

しかし、もし気候変動がさらに加速すれば、より根本的な気候変動への適応が必要になるでしょう。 

 

Q: 「より根本的なアプローチ」とはどのようなものでしょうか? 
防潮堤のような一時的な対策ではなく、気候変動の影響に対して脆弱である根本的な原因を解決するためのより根本的な変革が必要になるかもしれません。  


政府がどのように変革的な処置をとっているか研究を主導したフェデレは「気候変動はすでにすべての人の生活に何らかの影響を及ぼしており、私たちは行動様式を根本的に変える必要があります」と言います。「これまで、脆弱性を減らすための措置が取られてきましたが、それはほとんど事後的な対処でした。今こそ積極的に行動すべき時です」 
 

 気候変動が原因で洪水が発生した地域について考えてみましょう。洪水に見舞われた地域では、家を修復し、作物を植えるために借金をしなくてはならないかもしれません。しかし、それだけでは将来の洪水を切り抜けることはできない可能性があります。  

変革的な適応策とは、住まいをより安全な場所へ移したり、荒廃していた湿地の上流を回復させて、洪水を防いだりすることです。つまり、気候の脅威を予期した対処戦略です。 

 

Q: それはとても難しそうですね。各国政府は何ができるのでしょうか? 
先進国は、発展途上国が海面上昇や異常気象などの気候変動の影響に対処するのを支援する上で、大きな役割を担っています。先進国は、途上国が技術的・財政的支援を強化し、自然が持つ気候変動リスクを軽減する力を活用した、しっかりとした適応計画を実施できるようにしなければなりません。実際、7年前にパリ協定に署名した際、各国は気候変動への適応を助成するために年間1,000億米ドル(約13兆円)を調達することを誓約しています。 

 

Q: それは正しい方向への一歩ですね。  
しかし、その資金は期待値をはるかに下回り、発展途上国は裕福な国々が引き起こした気候変動への適応に苦労しています。  

「富裕国は、途上国の気候変動への適応のための資金を拡大するために、過去の約束を履行する必要があります。」とフェデレは言います。「これらの投資は、発展途上国がより気候変動に強くなり、石炭採掘や石油など、二酸化炭素を大量に排出する産業への依存を減らすのに役立つ可能性を秘めています。 」 

良い兆しは、、世界の指導者たちが、国連の気候変動に関する会議で適応の必要性や、気候変動への資金調達をいかに増やすかについて、ますます議論を深めていることです。 


2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された気候変動会議(COP27)では、気候変動によるすでに避けられない影響に途上国が適応するための新たな財源や取り決めの必要性など、気候適応行動の実現に焦点が当てられました。また、各国は、適応に関する世界目標がどのようなものになるかについても議論しました。 


フェデレは、「気候変動への適応を正しく行うためには、もう無駄にしている時間はない」と話しています。「これは、気候変動を終わらせるための戦いをあきらめるという意味ではない。その逆で、この戦いの最前線にいる人々が成功するために必要なリソースを備えていることを確認することを意味します。 」 

 

※本ブログ記事は2022年11月9日に投稿されたCI本部のブログ記事を和訳したものです。


投稿 : CIエディトリアル・ディレクター、カイリー・プライス、メアリー・ケイト・マッコイ

翻訳協力: 井上晃利

編集: CIジャパン



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